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第二章 人間とアンドロイドの「最期の一線」

第三話

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 巨大なスクリーンの光に照らされたマリアが、ハンカチを片手に空色の瞳から、ボロボロと涙を流して泣いている。
 真生はマリアの横顔を眺めながら、そんなに泣く程この映画は良いものなんだろうかと思う。
 とりあえずピンク色の毛玉と黄色の毛玉が主人公な事は解ったが、その二つの得体がさっぱり解らない。
 普段から番組を観ている人向けの映画なのか、と考えながら毛玉の得体について考察を繰り返す。
 真生はそれが余りにも気になりすぎて、映画に全く集中出来ないでいた。
 
 
 ふと周りを見渡すと、他の客席の人もハンカチを片手に目頭を押さえている。
 この場では自分が一番、感情が足りて無い様に見える。そう感じた真生は少し慌てる。誤魔化す様に眼鏡をぐっと指で押し上げ、また画面を凝視する。
 映画が終わったらパンフレットを買い、せめて大筋がどんなものなのかを、ちゃんと学ぼうと感じた。
 
 
 ピンク色の毛玉と黄色の毛玉が、色とりどりの毛玉に囲まれ大団円を迎える。
 映画は其処で終わりを迎え、明るいメロディーの音楽が流れる。
 エンドロールの文字が流れてゆくのを見ながら、やっと映画が終わったと真生は思う。
 真生の頭の中に映画の事は全く入ってこなかったが、マリアはご機嫌な様子で真央の腕に腕を絡ませた。
 肩が出るタイプのミニスカートの、白いセーターワンピースと、ガーターで止まるタイプの薄手のストッキング。
 この日のマリアは何時もより可愛らしい服を着て、ハーブティー独特の匂いを漂わせていた。
 スクリーンの明かりに照らされたマリアは、余りにも綺麗だ。映画館に連れてきた事は正解だった、と真生は思う。
 客席全てが明るく照らされてしまう前に、マリアの顎を掴んで顔を近付ける。
 暗闇の中でキスを交わし終えると、辺りは一気に明るくなった。
 
 
「…………行こうか」
 
 
 真生がそう言うとマリアは小さく頷く。
 二人は恋人同士の様に手を繋ぎ、売店の方へと歩きだした。
 
 
***
 
 
 どうやらピンク色の毛玉と黄色の毛玉は宇宙人で、さっきの映画はその宇宙人の生まれた惑星での事らしい。
 パンフレットを細かく読み込みながら、ご機嫌な様子で語るマリアに、真生は懸命に耳を傾ける。
 結局真生はパンフレットを手にしても、マリアの解説が無ければ、映画の内容を読み込めないでいた。
 
 
「エドワード君は実はモコモコ星の王子様なんです………!!だから本当は二人は、友達でいるのも駄目なんです………!!」
「…………マリア、エドワード君は何色??」
「あ、ピンクです。黄色はマルグリット」
 
 
 雰囲気のある喫茶店でお茶を飲み、中身のない会話を延々と二人は繰り返す。
 けれど真生には、そのやり取りがとても心地が良かった。
 ご機嫌な様子で笑うマリアを見ながら、ふと他に出かけたい場所は無いのだろうかと思う。
 出来れば今日はマリアの行きたい場所や、したいことをさせてあげたい。
 丁度話のキリが良いところで、真生はマリアにこう言った。
 
 
「ねぇマリア、他に行きたいところはある??普段こんな風にさ、俺と出かけるなんてないだろ??」
 
 
 真生がそう問いかけると、マリアは空色の虹彩をキラキラと輝かせる。
 それからほんの少しだけ頬を染め、恥ずかしそうに視線を逸らした。
 真生はマリアの様子を見ながら、不思議そうに首を傾げる。
 マリアは周りをきょろきょろと見回し、真生の耳に手を宛てた。
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