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第一章 若き天才と高知能AIアンドロイド

第二話

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 マリアはここ最近の真生の食生活のデータを、虹彩型記憶装置の中から漁る。
 授賞式迄の一週間、冷凍食品かカップラーメンの生活を続けていた。
 マリアも真生の身の回りの世話より、この表彰での資料制作や、手続きの手伝いばかりをしていたのだ。
 この表彰式が終わり次第、家の掃除の徹底と洗濯物をしなければいけないとマリアは思う。
 そして自分の記録データに、表彰式の後にやるべきことをインプットした。
 
 
「ご主人様がそう言ってくれるの、とっても嬉しいです…………!!でも、今日はもうひと踏ん張りですよ………!!」
 
 
 マリアはそう言いながら、無邪気な様子で真生の手を取る。すると控室に向かって大勢の足音が近付いて来た。
 控室のドアが乱暴に開くと、真生にとっては見慣れた連中が顔を出す。
 ドアの向こうにいたのは、普段AIの研究を共にしている研究室の仲間たちだった。
 
 
「よぉ真生!!お疲れ様!!!」
 
 
 茶色の髪に雀斑の糸目の男が、猫の様な緑の眼に、赤に近い茶色のショートカットの女の肩を抱いて入ってくる。
 彼の名前は橋本博嗣はしもとひろつぐ。博嗣は真生にとって一番の友人である。付き合いはもう小学生の時からだ。
 元々AIやアンドロイドの知識は、中学時代に博嗣から経由して知ったものだ。
 まさか博嗣ではなく自分の方がAIに長けるとは、当時は思っていなかった。
 博嗣曰く、彼はAIの心理に趣があるわけではない。彼が最も注視しているものは、アンドロイドの方である。
 
 
「ああ、博嗣。エナも連れてきてくれたのか」
 
 
 エナとは博嗣がこよなく愛する、自作のアンドロイドだ。
 最近はパソコンを自作するかの様な感覚で、AIを入れる為の器の、アンドロイドを自作する人が増えた。博嗣はまさにそのタイプの人間である。
 エナの見た目には、博嗣の情熱の全てが注ぎ込まれている。
 まるでグラビアアイドルを彷彿とさせる様な肉体と、妖艶な表情。マリアとは正反対のタイプの美少女だ。
 エナは真生と視線を合わせ、静かに頭を下げる。マリアは慌ててエナに向かってお辞儀をし返した。
 
 
 次に真生の前にやって来たのは二人の男女だった。
 長い黒髪を一つに纏めた、大人しそうな清楚な女性。彼女の姿を見た瞬間、真生の胸がズキリと痛んだ。
 彼女の隣には鍛えられているのがよく解る、がっちりした肉体の、短髪の爽やかな背の高い男がいる。
 二人は仲睦まじげな様子で、指先と指先をわざと真生の前で絡める。真生はそれを眺めながら、心の底から面倒くさいと思っていた。
 
 
 女の名前は幾丘綾香いくおかあやか。男の名前は喜多川幹彦きたがわみきひこ
 綾香は元々、真生の彼女だった。真生にとって初恋の相手である。
 二人の出逢いは同じ塾。仲良くなった切っ掛けは、プログラミングという共通した興味からだった。
 恋人らしい行為に関しては、たった一度だけ身体を重ねた位。
 マリアが見た事があるといった真生の行為の相手は、綾香だったのだ。
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