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第七章 

第三話☆

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 抱いて欲しいなんて言葉を、愛する人から言われてしまえば、調子付くのが男という生き物である。
 しかも俺好みに抱いて良いというのであれば、ドロドロになるまで優しく抱いてみたいと思っていたところだった。
 今日は操さんを心底甘やかしてあげたいと、着ていたシャツを脱ぎながら思う。
 操さんに向かって手を伸ばせば、ヒートの身体を震わせながら、白魚の様な手を俺の手のひらに重ねてくれた。
 
 
 華奢な体を引き寄せて、きつく抱きしめて深い口付けを落とす。
 操さんの唇はとても甘くて、ついつい何度もキスを繰り返してしまう。
 あんまりキスばかりをしてしまうと、操さんに嫌がられてしまうかもしれない。
 余裕がない。がっついている。可愛くて可愛くて仕方ない。
 それでも心地よくて俺は思わず夢中になって、操さんの唇を貪ってしまっていた。
 
 
「あっは………なんかこれ、虎ちゃんに食べられちゃいそぉ………」
「…………ごめんなさい。操さん可愛くてつい、止まらなくなっちゃって………」
 
 
 キスの合間に操さんが笑い、甘く吐息を漏らす。
 俺の腕に身体を預けた操さんは、上気した表情で着ていた襦袢の腰紐を解く。
 操さんは俺の肌に自分の肌を重ね合わせ、俺の首の後ろに腕を回す。
 俺の耳元に形の良い唇を近付けて、甘い声色で囁いた。
 
 
「良いよ。もっとキスして………色んな所にもっともっとキスして………」
 
 
 操さんの誘い文句が可愛すぎて、華奢な体を思わずきつく抱きしめる。
 全てが愛しくて、可愛くって仕方ない。
 首筋に、肩に、胸元に。キスを落とす場所を少しずつ下げてゆきながら、胸元の突起を吸い上げる。
 そのまま操さんの身体を寝かせると、白くて細い爪先がぴくりと跳ねた。
 操さんの性器はもう熱くなってそそり立ち、だらだらと先走りを流している。
 胸元を舐めながら操さんのものを撫でれば、悩まし気な吐息を漏らして背中を弓形に仰け反らせた。
 
 
「あ………!!!そこ、きもち………!!!」
 
 
 性器への愛撫をしたままで、操さんの入り口へ手を伸ばす。
 焦らす様に指を滑り込ませて蜜の音を響かせる。操さんは声を懸命に抑えながら、身体を汗で湿らせていく。
 感じれば感じる程に、操さんの身体からフェロモンの芳香が馨り立つ。
 もっともっと感じさせて、グチャグチャに乱れる姿が見たい。可愛い声をもっと聞きたい。
 そう思いながら手でしていた性器への愛撫を、舌へと切り替えた。
 
 
「声、我慢しないで。俺に聞かせてください………」
「あ!!や、だっ!!はずかし………!!だめ…………!!!」
 
 
 口を塞いでいた手を押さえ付けながら、更に激しく舌と指での愛撫を繰り返す。
 濡れた音と乱れた吐息と喘ぎ声。聴覚と視覚と嗅覚。操さんは本当に全てで、俺の事を悦ばせる。
 心地よさそうに感じる操さんを見て、心の底から幸せだと思う。
 この人の笑顔を見ることが俺の喜びなんだと、この瞬間改めて理解する。
 こんな風に誰かを愛する事は、後にも先にも操さんだけだ。
 
 
 だからこの人には絶対に、笑顔でいて貰わなければいけない。
 
 
「とらちゃ………!!!おねが……い………ちょうだい………。とらちゃんの、を…………」
「…………愛してます。世界で一番…………」
 
 
 何時もより余裕がない操さんの中に、キスをしながら入り込む。
 操さんの中はとても熱くて、俺が溶けてしまいそうな位だ。
 馴染ませる様に操さんの身体を揺らすと、肉癖が俺のものに絡みつく。
 すると操さんは俺の指に指を絡ませながら、いっぱいいっぱいの笑みを浮かべてこう言った。
 
 
「とらちゃん、ありがと…………」
 
 
 心が愛しさで溢れ返り、俺の顔からも笑みが零れる。
 返事の代わりに啄ばむようなキスをすれば、操さんが俺の頭を優しく撫でた。
 
 
***
 
 
 何度かセックスを繰り返し、少し冷静になった操さんと風呂に入る。
 小さな風呂釜で向かい合いながら、白い肌を流れてゆく汗を指で拭う。
 照れた様子ではにかむ操さんは、俺の胸に身体を預けて呟いた。
 
 
「…………俺さぁ、此処に住んでたのぉ。彼がまだ遠くに旅立つ前に。此処で二人で」
 
 
 それを聞いた瞬間に、全ての合点が一致する。
 彼岸花と餓者髑髏の着物の主はやはり、その男なんだと思った。
 そんな背景があって今なら、操さんだって病むに違いない。
 今でも忘れられない位、深く愛していた男と暮らしていた家で、他の男と強制的にまぐわらせる。
 大女将は酷な事を操さんに強いたと、急に腹立たしく感じた。
 
 
「…………着物で、勘付いてました。彼岸花と餓者髑髏の………。
何だか、聞けば聞くほど辛い思いさせられてんなって、なんか悔しいです………。
大女将は…………どうしてこんな酷な事を………操さんに…………」
 
 
 湯船の中で操さんの身体を抱き寄せれば、水の揺れる音が反響する。
 湯気と共にふわふわ馨り立つ甘い操さんの芳香。華奢な体をきつく抱きしめると、綿飴みたいな匂いが漂った。
 暫しの沈黙の後で、操さんは飛び切り優しい声で囁く。
 
 
「虎ちゃん。それは少し考え違い。あの人は不器用だし誤解されやすいけど、とても優しい人」
「優しい人………??忘れられない男と暮らしてた家で………浮気相手とまぐわらせてる女が………??」
 
 
 思わず本音を口にすると、操さんが遠くを見る様な眼差しを浮かべる。
 けれど操さんは首を左右に振り、小さく微笑んだ。
 
 
「…………あの人はね、優しいんだ。今はまだ解らなくてもいい。
本当に不器用だし強引なところもあるけど、とても優しくて温かい人。俺にはとっても恩がある………」
 
 
 操さんがそういいながら笑うと、俺は何も言い返せなくなる。
 大女将に関しては余りにも謎が多い。本当は色々聞き出したい位だ。
 けれど目の前にいるのは、甘い匂いを漂わせる操さんの姿。
 たった今の俺のすべきことは、操さんを癒す事だ。大女将についての話をすることではない。
 
 
 操さんの身体を湯船の中で抱き上げて、華奢な体に唇を寄せる。
 その度に操さんはほんの少し擽ったそうに笑い、甘い吐息を漏らし始めた。
 操さんは俺の肩に白魚のような手を置いて、膝の上に乗り上げる。
 その時に馨り立った芳香は強く操さんの身体が更に激しく、俺の熱を求めているのに気が付いた。
 
 
「…………虎ちゃん、もう欲しい………」
 
 
 操さんは俺のものに自分の入り口を擦り付け、俺からの許可を待ちわびているようだ。
 懇願するような操さんの眼差しが、最高に色っぽかった。
 操さんの腰を掴んで中に自身を埋めてゆくと、操さんが身体をくねらせる。
 何度も何度も昂らせた其処は、俺のものをすぐ全部飲み干してしまった。
 こんなに華奢で細い身体の中に、俺のものが入っていると思うと愛おしい。
 手を繋いで向かい合うと、操さんが腰を上下に振り始めた。
 
 
「あ………だめ………がまんできなくて、もう………」
「………可愛い、操さん………もっと気持ちよくなってください…………」
 
 
 水が揺れて跳ねる音と、お互いの荒い吐息が響き渡る。
 こうして何度も身体を重ね合わせ続けていると、元々一つの個体だった気がしてしまう。
 お互いにお互いの身体に溺れながら、熱と快楽を分け合う行為。
 でも今は何だか、心も分け合っている気がした。
 
 
***
 
 
 赤い花のキーホルダーが付いた金色の鍵で、小さな家の扉を閉める。
 ヒートが終わった操さんと俺は、嘉生館に向かって歩き出した。
 秋色に葉が色付いた森を抜ければ、冷たい風が頬を撫でる。
 もうすぐ冬が来ると思った時、操さんが俺の腕に引っ付いた。
 
 
「…………やばい!!超寒い!!!!」
 
 
 そう言いながら操さんは八重歯を見せて屈託なく笑い、俺の手のひらに指を絡める。
 この瞬間に操さんが手を繋ぎたがっているのを、肌で感じてしまったのだ。
 まるで小動物を撫でるみたいな感覚で、おそるおそる操さんの手を握る。
 振り払われる事がありませんようにと、心の中で祈りを捧げる。
 すると操さんは照れながら、俺の手を握り返した。
 
 
 操さんを初めて抱いたばかりの頃は、こんな風に心も繋げてくれる日が来るとは思わなかった。
 求められるのは身体と行為ばっかりで、人として俺は見られて無かったと思う。
 けれど今は、心が俺の方を見てくれているのが解るのだ。
 愛とか恋とかそういう感情ではなく、やっと俺と操さんは人として向き合い始める。
 Ωだとかαだとかではなく、斎川虎之助という人間と、穂波操という人間で。
 
 
「ママー!!!おかえりー!!!」
 
 
 庭の向こうから手を振ってくる佐京と侑京に、操さんは笑顔で手をふる。
 そろそろ手を離さなければいけないなと思った瞬間、操さんは繋いでいる方の手を背中に隠した。
 手を離そうとしない操さんの顔を、俺は慌てて凝視する。操さんは小悪魔っぽい笑顔を浮かべた。
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