馬に蹴られても死んでなんてやらない【年下αの魔性のΩ略奪計画】

如月緋衣名

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第七章 

第一話☆

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 今宵の操さんの身体からは、何時もより強く甘い薫りが漂う。
 この時に操さんのヒートの時期が、近くなっている事に気が付いた。そういえば前にヒートが起きたのは、六月の終わり位だった筈だ。
 周期的には遅い位だと思いながら、操さんの柔らかい髪を撫でる。
 俺はさっきも顔を触られて、口に指をねじ込まれて、ラットの状態になりかけたばっかりだった。
 
 
「操さん………凄く甘い匂いがする………」
「んぇ………??きのせいじゃない??む………ん…………」
 
 
 操さんは俺の股間に顔を突っ込みながら、ドロドロにふやけた顔で上目遣いに俺を見る。
 俺のものに舌を器用に絡ませながら、唇をすぼめて刺激を与えてゆく。
 唾液の音が響き渡る度に、好きな人といやらしい事をしているんだと改めて思うのだ。
 四つん這いになって、夢中で俺のにしゃぶりつく操さんの入り口に、静かに指を這わせて撫で上げる。
 愛液の濡れた音が響くと、操さんの身体が波打った。
 
 
 感じている操さんを見ていると、犯したいという衝動に駆られてくる。
 それにどうしても、首回りに噛み付きたいと思ってしまうのだ。
 俺には以前佐京と侑京を、操さんに付けた噛み痕で、大泣きさせてしまった前科がある。
 俺としてはなるべく、操さんの身体に残るような痕は残したくない。
 けれどそんな気持ちを気にしてないようで、操さんは俺をひたすら煽っていた。
 
 
「あっあっあっ………いく………!!!そこ、そんなにされたら………もう………!!」
 
 
 俺の指で乱れる操さんの入り口からは、だらだらと蜜が溢れ出す。
 操さんのものから白濁が滲みだした瞬間、達した事がすぐに解った。
 イクと強くなる甘い匂いは、俺の理性を飛ばそうとしてくる。
 なるべく平静を保とうとしている俺に対して、息を乱した操さんが甘い声色で囁いた。
 
 
「………ね、虎ちゃん………はげしく、シテ………おねがい………」
 
 
 俺に抱き付く様に腕を絡ませて、甘えた声色で強請る。その瞬間に更にふわりと甘い薫りが漂った。
 わざと俺の背中に淡く爪を立てて、悪戯に煽ってくるのが解る。
 潤んだ瞳も、汗ばんで仄かに上気した肌も、俺の劣情を駆り立てた。
 
 
 孕ませたくて仕方ない。今すぐこの華奢な体をねじ伏せて、立てなくなるまで抱き潰したい。
 
 
 何時もなら絶対に思わないような感情が沸き上がり、俺はそれを見ないふりをする。
 優しく抱くと自分で自分に言い聞かせながら、操さんの身体を布団に寝かせた。
 操さんの入り口に自分のものを宛がい、ゆっくりと最奥に腰を沈めてゆく。
 すると操さんは俺の耳元で、蠱惑的に囁いた。
 
 
「おかして……おねがい…………」
 
 
 あっ、これ無理。理性とか利かない。何それ反則過ぎない?
 
 
 操さんの身体を押さえ付ける様にしながら、最奥目掛けて腰を突き上げる。
 俺の下にいる操さんが、ほんの少しだけ得意げな笑みを浮かべた。完全に謀られたと、思わず笑う。
 
 
「ちょっと!!操さん!!アンタって人は!!人の気も知れないでっ!!!」
「あっ………ああっそこぉ!!!すきなのぉ!!ひどくされるの、だいすきっ………!!!」
 
 
 世界一可愛くてどうしようもない俺の好きな人は、とんでもない毒婦だ。
 本当に優しくて綺麗で、どうしようもなく悪い人だと心から思う。
 奪う様なキスをすれば、唇を薄く開いて舌を絡ませる。そして縋る様にきつく、俺の背中に爪痕を残した。
 こんなに甘えられて、こんなに激しく求められているのに、この人は俺のものじゃない。
 操さんは俺の知らない他の誰かの所に、ずっと心を置き去りにしているままだ。
 
 
***
 
 
 操さんは俺の布団で寝転がり、無意識のうちに俺の着ていた服を、布団に中に引きずり込む。
 完全に俺の匂いを身体に纏いながら、すやすやと寝息を立てている。
 どう見たってこれはΩの巣作りじゃないかと、操さんの状態を見ながら俺は思っていた。
 というか操さんが俺の服を使って、無意識で巣を作ってるのは嬉しい。凄く嬉しい。
 
 
「………操さん絶対、明日にはヒートだな………」
 
 
 眠る操さんの頬を優しく撫でながら、これからの事を考える。
 前回の操さんのヒートの時は、誰が何をして上手く出勤の調整をしていたのかが解らない。
 俺と操さんが知り得ない所で、誰かが動いていた事位は解っている。
 でもそれが何処の誰だったのかは、俺も一切解らないのだ。
 
 
 早いところ誰かに操さんがヒートになると、伝えておいた方がいい。
 そう思いながら、営業終了後の嘉生館のロビーに向かう。
 仄かに俺の身体から漂う操さんの残り香に、ほんの少しだけ胸が躍る。
 好きな人の匂いが身体からするのは、一つになった証拠みたいで、純粋に嬉しいと思う。
 自動販売機でほんの少しだけ割高なコーラを買い、社員寮に戻ろうと来た道を戻る。
 その時にふと事務所から、灯りが漏れている事に気が付いた。
 
 
「あれ?誰か電気消し忘れたかな………」
 
 
 そう思ってフロントを通り、事務所に繋がるドアの鍵を開く。
 ドアを少し開くと煌々と灯りが漏れ、キーボードを打つ音が響き渡った。事務所の中に誰かいる。
 作業の手は俺がドアを開くのと同時に、一度停止する。
 恐る恐るドアの隙間から顔を覗かせれば、意外な人間と視線がぶつかった。
 
 
 其処にはブルーライトの光を浴びた大女将が、眼鏡を掛けてデスクに腰掛けていた。
 蛇の皮そっくりな柄の着物を着て、金色の細い縁の眼鏡を掛けている。
 眼鏡には細い金のメガネチェーンが輝いていた。
 俺だと解った大女将は、またすぐに作業を再開する。大女将は目にも止まらぬ速さで、パソコンのキーボードを打ち始めた。
 
 
「………え??」
 
 
 俺が素っ頓狂な声を出すと、大女将が不機嫌そうに俺を見る。
 大女将は俺の事を睨み付けながら、冷ややかな声色でこう言い放った。
 
 
「久しぶりに逢うた目上の人間に対して、挨拶もなしに『へぇ』やないやろ………?
アンタ嘉生館に勤めてどれ位時間たっとるん??…………仕切り直しぃや………」
 
 
 し、仕切り直し………!?!?え、何処から仕切り直せばいい……??
 
 
 全く想像もしていなかった言葉が飛び出し、俺は思わず狼狽える。
 混乱してしまった俺が取った行動は、地に膝を付けて頭を床に擦り付ける、完全な土下座スタイルだった。
 
 
「お………お久しぶりで………す………。この度は大変、申し訳なく………」
 
 
 大女将はそんな俺を見下ろし、目を丸くしてから小馬鹿にした様に笑う。
 そしてデスクの上にあった書類を細かくまとめ、整理を始めた。
 
 
「アンタ………ホンマに阿呆やな………誰も土下座せいなんていうとらんわ………」
 
 
 目にも止まらぬ速さで作業を終えた大女将はデスクから離れて、慣れた所作で荷物を風呂敷に包む。
 それから俺の事を一瞥し、ツカツカと歩み寄って来た。
 大女将と俺がした接触といえば、佐京と侑京を嘉生荘に送り届けた時位だ。
 まだ大女将をよく知らない俺としては、どう接して良いのかも一切解らない。
 大女将は俺にとって、得体の知れない人である。
 
 
 俺の傍に来た大女将は俺の首元迄顔を近付ける。スッと呼吸をしたかと思えば、急にまた黙りこくった。
 大女将が何を考えているのかが、解らなさすぎて俺はどうしたら良いか解らない。
 怯え慄く俺に向かい、大女将がこんな事を言い放った。
 
 
「……………なんや操、ヒートなん?そろそろ隔離せんとあかんなぁ………」
 
 
 え、なんでそんな事知ってるの?この人。
 
 
 思わずゾッとした瞬間に、蛇の様な目の虹彩がキラキラと輝く。
 その瞬間に俺はやっと、大女将がαである事に気が付いた。この人が操さんのヒートに気付いたのは残り香だ。
 大女将は事務所の壁に掛かっている鍵の束から、赤い花のキーホルダーが付いた金色の鍵を手にする。
 そしてそれを俺に手渡すと、すれ違い様に肩を叩いた。
 
 
「アンタ、明日から操の御守りや。その鍵は庭の先にある和室の鍵。普段から片付けとるし何時でも使える。
…………無理矢理だろうが何だろうが、とっとと番なりなんなり、操と契約したらええ………。
αなんやろ?アンタ…………」
 
 
 大女将が吐き捨てた言葉を聞いた瞬間、俺の心がささくれだった。
 無理矢理にでも番にしろという言葉は、俺にとって地雷以外の何物でもない。
 まるでその言い方じゃ、Ωに人権がないみたいじゃないか。番は愛し合って結ぶものだ。
 何か一言でも言い返してやらなければ、俺の腹の虫がおさまらないと思った。
 
 
「………大女将!!ちょっと待ってください!!その言い方はΩに対して失礼です!!」 
 
 
 事務所から出て行こうとする大女将に向かい、声を荒げて叫ぶ。
 大女将は一度俺の方を見て、眉を顰めて顎を引き上げた。
 まるで見下されているかの様な視線を送られた瞬間、大女将の薄い唇がゆっくりと開く。
 
 
「なんやアンタ、想像しとったより無鉄砲で、暑苦しい男やなぁ…………。同じαと思えへんわ…………」
 
 
 暑苦しい。そう言い捨てられるのと同時に、事務所のドアが閉まる。
 苛立つ感情を懸命に腹の底に沈めながら、手のひらに握らされた金色の鍵を見下ろす。
 そういえば大女将とまともに対峙したのは、今のが初めてだった事に気が付いた。
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