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逢瀬
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とん、ちゃん。とんとんちゃん。
雅かな音色にまぎれて、廊下をするすると渡ってくる足音に気づき、光之進はハッと顔を上げた。
(竜泉……)
果たして光之進の期待通り、足音は光之進の居る部屋の前で止まった。膝をつく衣擦れの音が聞こえる。
「……彦太郎様。竜泉、参りました」
「はいれ」
光之進の口から出た声は思ったより掠れていた。
すぅと襖が開けられ、顔を覗かせたのは美丈夫だった。
目鼻立ちが整った、自信に満ちた顔立ち。
どこか酷薄さを感じさせる涼やかな切長の目尻には、紅が刷かれていた。
相変わらず美しい。
「お待たせしてしまいまして」
「……うん」
竜泉に見惚れ、夜の空気に呑まれてぽぅとなっていた光之進は、気の利いた返しもできずにただ頷くことしかできなかった。
竜泉が立ち上がると、着物がよく見えた。
白い桜の花弁が舞い散り、足元に春霞が白く掛かる黒の小袖。それをすらとしなやかに筋肉がついた端麗な男の体にきっちりと着こなし、その上に、雅やかに金や銀で亀甲の刺繍が散らされた、右手が赤、左手が黒とでできた羽織を肩を落として腕にかけるようにして羽織っていた。黒の小袖の襟元から清楚な純白の下衣がちらと覗いているのが小粋だった。
派手な色合いなのに、存在が華やかな竜泉が着ていると、まるで着物たちが竜泉にひれ伏して主を引き立てているかのように見えた。
「こ、ここへ」
竜泉が側にやってくるのを見て、光之進は慌ててぽんぽんと右隣に置かれたもう一つの座布団を叩いた。光之進のすぐ隣に竜泉が来る。竜泉の動作の風に乗って、ふわと竜泉の香りがした。
甘やかな中にも清涼感のあるよい香り。
(竜泉の、匂い……)
竜泉が特別に調合させている、竜泉だけが使える香の匂いである。
光之進はこの香りが好きだった。
静かに座布団に腰を下ろした竜泉があまりにも近くにあって。自分で隣に座ってくれるように乞うたにも関わらず、光之進はどぎまぎしてしまった。まだ肌を合わせていないのに、竜泉の熱が感じられる気さえする。
光之進が二の句を告げぬうち。
手入れがされ美しいが、男らしく骨張った竜泉の手が、美しい所作で光之進の手を握った。
ひぇ。光之進の叫びが心の中で小さく上がった。声に出さなかっただけマシである。
ほのかに温かく、滑らかな竜泉の手。
触られているだけで気持ちがいい。
「今夜もご指名いただきありがとうございます。彦太郎様」
「あ、あぁ……」
光之進の目線は繋がった手に釘付けになっていた。その手をゆっくりと持ち上げられ、それに釣られて顔を上げると、美しく微笑んだ竜泉の顔に行き当たる。蠱惑的に弧を描いて笑む竜泉の目と目が合った。
ちゅ、と目の前で手の甲に口づけを落とされる。
「竜泉……」
「お会いしとうございましたよ」
「私も……あ、いや、俺も」
光之進が慌てて言い直したのに、竜泉がくすと笑みをこぼした。
「もうそれはようございましょう。……光之進様。この竜泉の前ですよ」
「そう、か。……そうだな」
「さぁ、俺にもっとよくお顔を見せてください」
竜泉の手に光之進の顔が包みこまれ、顔が、目が合わされる。
美しく雄の気配を漂わせた目に射抜かれて、光之進の腰がぐずと疼いた。
「他の男の元へ浮気などされませんでしたよね?」
「もちろん」
「光之進様はよい子ですね」
「ぁ」
正座をしていた腰から尻までを撫でられ、電流が走るような感覚に、光之進は思わず腰を前に逃してしまった。その腰を捕らえるように片腕が腰に回って抱きしめられる。
ちゅと唇に優しく口付けられて、光之進は陶然となった。
ここは。
この陰間茶屋は、男を抱きたい男ではなく、男に抱かれたい男が来るところだった。
女を買おうとしてなんとなく気分が乗らずにそのまま帰ろうとしたあの夜……。
冷やかし目的でふらとこの店の前を通りかかって、光之進は竜泉の虜になった。見世で優雅に片膝を立てて座りながら煙管を吹かす竜泉の流し目に、引き寄せられるように指名をし、一夜を過ごしたのである。男など受け入れるのは初めてだった光之進は、ここまで竜泉の手で躾けられてきた。
次男で行く当てのなかった光之進を、跡取りとしてもらってくれた義父や義母には申し訳ないとは思う。だが一度覚えてしまった快楽の味を光之進は忘れることができなかった。
ちゅ、ちゅと目に、頬に、顎先に。
慈しむように、舐めるように口付けられ、ぎゅうと焦がれた竜泉の腕に抱かれて。光之進は喘ぐように息をした。
竜泉に言われるがままに舌を出す。
れろと竜泉の舌先に舌先を弄ばれる。光之進の腰が……いや、すでに竜泉の手で開発されきった尻が疼いた。
「ん……、ちゅ…ぁ」
「ふふ、可愛い」
「りゅうせん」
「まだ、駄目です。俺に一献もくださらないおつもりですか?」
「ん、だが」
光之進様。
耳に息と声とを吹き込むように囁かれ、光之進の耳が一気に熱くなった。じんと赤く火照る耳たぶが竜泉の唇に挟まれ、もう一度。
「光之進さま」
「……わか、わかった」
光之進はようようそう言うと、竜泉に促されるまま体を離した。
「俺の禿たちにお菓子をくださったそうで、いつもありがとうございます」
「っ、ぁ……あぁ」
竜泉と体は離れたが、竜泉の指先は止まらなかった。
するっと襟元から竜泉の手のひらが入ってきて、光之進の乳首がキュッと摘まれる。
座敷にいる間、竜泉からは触れるが、許しがなければ光之進から触っては駄目なのである。
「竜泉には何もくださらぬので?」
「ひっ、それ、ゃ」
「おや。……もしや、無いのですか? つれない御方だ」
「あ、ある。ある」
光之進は懐に手を入れて、筒状に丸めた絵図の束を取り出した。
「西国の、ぁ、錦絵を」
「西国に行きたいと言ったのを、覚えていてくださったんですか?」
竜泉の不埒な手が抜けていき、腰を引き寄せられて頬に口付けられる。
中途半端に高められた身体が切なくて竜泉の唇を追ったが、ふっと逃げられてしまった。
「これは美しい。……書物でも堺の賑わいは知っていましたが、あの絵師にかかるとこのように描かれるのですね」
天橋立の絵は海の青が美しい。
金閣寺にふる雪がきらきらと光って目に楽しい。近頃流行りの、雲母を顔料に混ぜ込むという手法でしょうか。
光之進様はどこか旅にいきたいところはありますか。
竜泉と一緒に、絵図を見ながら話をする。
その間も竜泉の手はあちらこちらと気ままに動いた。
すべての絵図が見終わる頃には。
光之進の襟元は左右には完全にはだけられ、ぴんと天を向いて立ち上がる二つの胸の頂がはしたなくも露わにされていた。
その胸から腹にかけて竜泉の滑らかな手のひらでゆっくりと撫で下ろされたかと思うと、胸の飾りを人差し指で転がされ、もう片方を吸われ舌で可愛がられ。
光之進が達しかけると手が口が逃げていく。
下肢も同じだった。
常の癖で正座で座った光之進の帯のすぐ下から、裾が大きくはだけられ、下帯の布がよかされ。
屹立してよだれをこぼす好色な魔羅が晒されてしまっていた。その屹立に、戯れに竜泉の手がかかる。優しくするすると上下に撫でられ、光之進がたまらず腰をゆらめかせると、竜泉の手が逃げていく。
光之進の頭も身体ももう、襖の先の寝所へと流れていきかかっていた。登りつめかけるたびに竜泉に巧みに引き戻され、熱に狂うに狂えない。
昂るだけ昂らされた生殺し状態のまま、光之進は熱く火照り疼く身体を持て余し、なんとか竜泉との会話を続けていた。
早く。
早く、何もわからぬあの快楽に揉みくちゃにされたい。
後ろ手をついて胸も魔羅も竜泉の前に差し出す光之進の顔は、喘ぐ口の端から涎がつぅと滴り、赤く火照った頬を生理的な熱い涙が溢れ。淫欲に染まり切った、武家の跡取り息子としては大層みっともない有様だった。
光之進はなにより、竜泉のそれが既に下肢の着物を押し上げているのに、興奮していた。光之進からだけの一方的な情欲ではなく、竜泉もこの行為で昂ってくれている。それがわかる。竜泉の頬がわずかに赤く染まっていた。きっと、酒のせいからだけではない。
「りゅうせん、ぁ、りゅうせん」
触れる許しが出ていないので、声だけで精一杯ねだる。
汗でしっとりと濡れた光之進の頬に、竜泉の手のひらが添わされた。
「どうなさいました? 光之進様」
「っぁ、も、無理」
「堪え性のないお武家様ですね」
なかなか来てくださならかった罰ですよ。
光之進のぐちゃぐちゃな顔を見ながら、竜泉がうっとりと笑った。
「ぁ…、ひ、ぃ」
「貴方は俺のお気に入り。……会えず寂しかった」
「りゅ、せ……ぁ」
「男でないなら、女でもできましたか?」
嫁が。
光之進は息も絶え絶えに答えた。
跡取り養子の光之進は、子どもの頃から養家の親族から嫁を貰うことが決まっていた。いよいよ年頃ということで見合いに追われ、なかなか時間が取れなかったのである。
「なるほど……。嫁御ですか」
竜泉は真意の見えない顔で目を細めた。
「も、ほし……欲しい」
「ふふ、何が欲しいのですか?」
「……りゅ、せんのがほし」
「おやおや、貴方が欲しいのはこれだけですか?」
そっと手を取られ、硬くなった竜泉のそこへと手が置かれた。
ようやく再び触れ得た竜泉の身体。その膨れた核心を、光之進は涎をこぼしながらよしよしと何度も撫でた。
これも欲しい。だがこれだけでは足りない。
「ぁ…ん……りゅ、せんが欲しい。竜泉がいい」
「よくできましたね光之進様」
いい子いい子と魔羅を撫でられ頬に口付けられ抱きしめられて、光之進は嬉しさのあまりぽろぽろと涙を零した。
では、あちらに行きましょうか。
耳元に密やかに吹き込まれた蠱惑的な誘いに、光之進は阿呆のようにこくこくと何度も頷いた。
竜泉に手を引かれてふらとおぼつかない足取りで立ち上がる。
はしたなく乳首が立ち上がった胸元と、そそり立ったまま震える魔羅とを隠すことが許されぬまま、光之進は夢現の気分で竜泉に手を引かれ、ふらふらと寝所の襖へと足を進めた。
襖の向こうには、墨色の部屋があった。
遊廓というと普通、壁は一面赤いのだが、竜泉の部屋は独特で、壁は一面濃い墨色に塗られていた。
そこに細かな金箔や銀箔の欠片が散りばめられ、流水の模様をなだらかに上品に描いている。
部屋の中央にはふかふかとたっぷりと綿を詰められた上等な布団が敷かれ、枕が二つ、仲良く並んでいた。
布団の奥。
枕元の左手には金箔の貼られた華やかな屏風が、右手には行灯が灯っていた。屏風の金が火灯りを反射して、上品なまばゆい光を絹の白布団へと落としている。
ふわと香るのは竜泉の香の匂い。
光之進の後ろで襖がぴしゃりと閉められた。竜泉に誘われるまま、掛布団がめくられ現れた敷布団に座り込む。
ようやく来られた竜泉の寝所……いや、獲物を狩るための巣穴かもしれない。
仕留められるのを心待ちにする獲物。
光之進は呆けた顔をして、閉じられた雄の巣穴の皿の上で、竜泉を見上げていた。
竜泉の背は光之進よりもわずかに高い。
六尺には届かぬくらいであろうか。
その長身が、するすると光之進の前で纏う着物をゆっくりと見せつけるように脱いでいった。
「そんなに見られては穴が開いてしまいますよ」
「……竜泉はかっこいいな」
思わず漏れた感嘆のため息と共に賛辞を送る。
「知ってます」
竜泉がにこと笑った。
「貴方は目がいい」
下衣の白単衣の姿で、竜泉は光之進の前に膝をついた。
両手で顔を挟まれ、よしよしと愛でられる。
「見てくださる皆さんがそのように褒めてくださるので、私は綺麗に咲けるのですよ」
竜泉は「貴方が」とは言ってくれなかった。
光之進の胸につきんと痛みが走る。少し寂しい。
だが、嘘を言われるのも悲しい。
だからこれでいいのだ。きっと。
「今夜はどうなさいますか?」
竜泉の指先が、光之進の曝け出された熱い胸元をつっとくすぐるように伝い落ちていった。
今夜。
今夜、は。
「優しく」
「本当に?」
くすくすという竜泉の秘めやかな笑い声が耳に毒だった。
熱く張り詰めた亀頭の敏感な穴の左右、そこに人差し指と中指が置かれて。
肉が左右にくぱくぱと引っ張られ、閉じられ、小さな穴の形が卑猥に歪む。
「……本当に?」
もう、ここなら。
竜泉に触ってもいい。
光之進は竜泉の腕に縋って、息も絶え絶えに応えを返した。
「ぁ、ぁ、優しく、いじめて、ほし……」
「よく言えました」
竜泉に抱きついて、焦がれた唇に口付ける。竜泉は抗わずに光之進を腕の中に受け止めてくれた。温かい体温が、身体を締め付ける竜泉の両腕が、光之進の心を満たした。
もう我慢は終わり。
「舐めたい」
竜泉の。
深い、竜泉の本気の口づけを受けてとろとろに解けて。
光之進は俗世のしがらみを全て捨てて素直に甘えた。
男の魔羅が舐めたい。
竜泉の。
「変態」
竜泉は優しく笑いながら、光之進の願いを許してくれた。
現世では願うことすら叶わない、欲望。
「では、貴方が取り出してくださいますか?」
優しくね。
喉元をくすぐるように撫でられ、光之進はうわずった声で「わかった」と返事をした。
竜泉に足を投げ出すように座ってもらい、乱れた単衣の裾を下から割って、竜泉の伸びやかな美しい足をむき出しにしていく。
「性急な男は嫌われますよ、光之進様? 俺の足にもちゃんと挨拶してくださいね」
竜泉に見下ろされながら、光之進はむしゃぶるようにして竜泉の足に、足首から順々に口づけを落としていった。手のひらで撫でて肌を堪能し、舌で舐めて肌を味わう。
脛、ふくらはぎ、膝、内腿。
柔らかい内腿、股のきわに軽く吸い付くと、竜泉がわずかに息を乱した。
よしよしと頭を優しく撫でられる。
光之進のすぐ目の前には、下帯を押し上げる竜泉の逞しいそれがあった。
湿り始めた下帯越しに、呼吸と共に緩やかに動く熱。光之進は無意識に生唾を飲み込んだ。
「ほら、あとちょっと」
「ぁ」
竜泉の手に押され、光之進の顔は下帯越しに、ぐっと竜泉のそこに押し当てられた。
鼻腔いっぱいに竜泉の匂い。
顔に当たる膨れた柔らかい熱の感触。
光之進は自分からなおも顔を擦り付けて、すんすんと鼻を鳴らした。膝をついて犬のように布団に這いつくばり、竜泉の股ぐらに顔を埋める光之進の尻がふりふりと期待に揺れる。
「口で」
竜泉の指示に従って、下帯の布の端を唇で掴むと、ぐいっと横に引っ張った。
「ッ、ん」
ぶるっと飛び出てきた太く熱い魔羅に、光之進の顔が打たれる。
「さぁ、俺のことも楽しませてください。……できますよね? 光之進」
「ッ、……はい」
硬く立ち上がった竜泉の熱でぺちぺちと顔を叩かれ、光之進は溶けた顔で涎を垂らしながら頷いた。
どこもかしこも熱い。
欲望に背中を蹴られるようにして竜泉の魔羅にれろと舌を這わせる。
先走りで濡れた竜泉の魔羅の裏筋は、少し苦味があった。
それを味わうように下から上へ、何度も舌を這わせる。竜泉の太腿の裏に手をかけ竜泉の腰を持ち上げて、ふぐりから会陰までも舌を這わせた。綺麗好きな竜泉は下の毛を全て剃毛していたから、陰部は滑らかで綺麗だった。それでも、肌に舌を押し当て這わせると、肌の下に残った毛が、ざりっと舌を刺激した。その感覚がなんとなく気持ちよくて、光之進は竜泉の魔羅だけでなく、隠部全体を犬のように舐めしゃぶった
ここに来るまで、男のそれの舐め方など知りもしなかった光之進を仕込んだのは竜泉だった。竜泉と夜を過ごすたび、光之進は武家として……否、人として、男としていけない快楽を擦り込まれていく。
カリ首の境目を辿るように舌先でそこをなぞり、亀頭だけをぱくと咥えて、根元を手でゆるゆると優しく扱く。
「ぁ、は……上手です」
頭を撫でられ、光之進の脳がじわっと喜びで溶けた。
見目も構わずに竜泉の太い魔羅を深く咥え込み、頭を前に後ろにと動かしてじゅぼじゅぼとはしたない音を立てて味わう。
「……っ、ぁ、出し…ますよ」
「ん、ぐ……」
竜泉に頭をぐっと引き寄せられた。
喉奥まで膨れた亀頭で塞がれ。息、が。
その光之進の喉の奥の奥で、竜泉は容赦無く熱い白濁を撒き散らした。
光之進の口のなかで竜泉の魔羅がビクビクと跳ね回る。苦しいのに、逃げる場所がない。
呼吸困難による生理的な反応で暴れながらも、光之進は男に虐げられ、雄と交尾しているという事実に酔っていた。
膝をついた股の間に、太ももに、だらだらと熱い粘液が溢れていくのを感じる。光之進は触れられもしないのに達してしまっていた。情けない魔羅から貴重な子種が滴り落ちていく。
あーあ、という竜泉の呆れた声が落ちる。
「いけない人ですね。これでは俺の躾の程度が疑われてしまうでしょう?」
全てを吐き出して。
ぬぼぅと竜泉の魔羅が抜けていった。
光之進の顔はそれはひどいものだった。
白目を剥き、口と鼻から白濁を垂らして、涙と涎で濡れて。
「……ふふ、百年の恋も覚めるお顔ですね」
俺は好きですけど。
竜泉は枕元に用意されていた濡れ手ぬぐいで光之進の顔を拭き清めてくれた。
「りゅ、せん」
「はい」
「りゅうせ、竜泉」
「ここにおります」
ぎゅっと竜泉に抱きつく。
光之進の背中に回った竜泉の手に尻を撫で回される。
光之進は、ふにゃと力の抜けた己の魔羅を竜泉のそれに押しつけ、ゆらゆらと腰を揺らした。
「おやおや。言葉で言っていただかなければわかりませんよ光之進様」
「も、ほしい、りゅうせんの…入れてくれ」
「では入れてほしいところをちゃんと見せてくださいますか?」
前からと後ろからとどちらがよろしいのですか。
竜泉に問われ、光之進は仰向けになり、太ももを持って大きく足を広げた。
下帯からまろび出て震える陰茎も、白濁に濡れて透ける下帯越しに見える尻穴も。
全てを竜泉の前にさらけ出す。
光之進は片手を尻に伸ばすと、濡れた下帯に指を引っ掛けて期待にひくつく尻穴を出した。
「こ、こに」
「どこに?」
「私、の、淫らな尻穴、に……」
「おやおや。何もしていないのに、お口が開いていますよ」
「あ、…だって……ひ、ぃ」
何もせずともぽかりと穴を開けていた尻穴に、精液のぬめりを借りて、竜泉の指がぬるんと入り込んできた。
「…ぁ、きつ」
「ふふ、二本同時に入ってしまいました」
「そん、な……嘘」
「嘘じゃありませんよ。ほら」
「ゃ、あ、それ駄目、だ……ッ」
ぐっとさらに深く押し入ってきた二本の指が、光之進の泣きどころを意地悪くも容赦無く挟み上げた。
「駄目ではないでしょう? なんと言うのですか? 正直に言わねばやめてしまいますよ」
しこりをぬるぬると捏ね回され、光之進は身体の熱さに涙目になりながら「いい」と返事をした。
「ぉ゛…りゅうせ、もっと」
「相変わらず、女陰のように柔らかな尻穴ですね」
「りゅ、せ。…ん゛、ぉ竜泉」
「そんなに尻を振って……。ほら、腰を上げてくださいな光之進様」
光之進は、竜泉に言われるがままに震える足をつき腰を高くあげた。下肢に入った力のせいで、いつのまにか三本に増えていた竜泉の指を尻穴で締め上げることになり、指先で優しく搔くように中のしこりを刺激されて光之進の魔羅が硬く立ち上がる。
着流しの腰帯が解かれ、濡れ切って役目を果たせていない下帯を抜き取られ。
光之進の腰の下に、枕元に用意されていた高さのある綿入れが差し込まれた。何もせずとも、光之進の腰から下が浮いたような体勢になる。
その足の間に。
竜泉が魔羅を勃たせて入り込んできた。
今から、あれに可愛がってもらえるのだ。
「さぁ、足を持っていてくださいね」
「あ、あぁ」
再び太腿の裏に手をかけて足を持ち上げる。
今度こそ隠すものもなく、光之進の隠部が露わになっていた。
「はや、く…っ」
「そう…ですね。俺ももう限界です」
三本入りましたし、いいでしょう。
「痛いのも、お好きですもんね」
指が抜けていき竜泉が覆いかぶさってくるのを、光之進は歓喜でもって迎えた。
両足で竜泉の腰を抱え込み、両腕を竜泉の首に巻き付けて引き寄せる。
大好きな体温、匂い。竜泉。
ぎゅっと抱きしめてその存在を堪能する。
光之進の尻穴に、くちゅっと竜泉の魔羅の先があてがわれた。
「俺をちゃんと受け入れてくださいね」
「りゅ、せん。早く」
「…くそっ、これでも加減してるんですから、煽らないでください」
「あ゛、ぁ、きた。来た、りゅうせん」
ぐっと竜泉の腰が押しつけられ、ぬぬぬと竜泉の魔羅がゆっくりゆっくりと肉の隘路を押し開いて入ってくる。
熱い。
中のしこりを丁寧に何度も亀頭で愛されて、光之進は竜泉を抱きしめたままのけぞって喘いだ。
「い、ぃ。……きも、ち」
「ッ、光之進」
「きもち、ぁ゛、ん」
ぱちゅずちゅと竜泉の腰が前後して、奥の奥まで何度も突かれる。
その度に稲妻のように腰から背筋をかけのぼる快楽が光之進の身体を焼く。
「すき。りゅ、うせ……好き」
「…ん、可愛い、ですよ光之進さま」
「あ゛、あ」
竜泉からもぎゅぅと抱きしめ返されて、光之進の脳が幸せと快楽の坩堝へと沈んでいく。
もう何もわからない。
ただただ揺すられながら、口から涎をこぼし強すぎる快楽の奔流に呑まれる。
「魔羅、好き。いい、ぁ、ぁ、きも、ち」
「……こんの、淫乱」
「あ、ぃ、ッーーーー!」
中だけの快楽で、光之進は魔羅から子種を飛ばした。
びくびくと震える光之進の身体がなおも揺さぶられる。
絶頂でぎゅうぎゅうと締まる肉が、竜泉の熱く硬い陰茎にしゃぶりつき。それを押し開いて奥をさらに突き回された。
「お゛…し、ぬ。りゅ、せ、ぁ……とま゛って」
「は、……っん、まだ俺はいってないでしょう?」
「だめ、りゅ、せ駄目」
「死んでくださいな」
抱擁の腕の牢獄に閉じ込められ。
光之進は絶頂から降りてこれずに絶え間なくびくびくと身体を震わせ、獣のような声を上げた。
何度も突かれた尻穴の奥。
そこが、口を開け始めて、いて。
ぐぽ、と竜泉の魔羅が結腸を超えて人として許してはならぬところまで入り込んできたとき。
光之進は小水を吹きこぼして逝き果てた。
「あ゛ぁ゛、ぉ゛ーーー」
「ん、っく」
一際敏感な結腸の奥の内壁に、竜泉の熱い子種液がびゅくびゅくと噴き出し、焼かれ。
熱い。
光之進のつま先がびくびくと何度も不随意に空中で突っ張る。
「ぉ゛…ぁ…」
強く抱きしめられたまま、余すところなく快楽を享受させられる。
気持ちいい。
熱い。
イキ果てて帰ってこられない光之進の頬を竜泉がれろと舐めた。
水のように滴る汗で湿った前髪をかき上げる。
「こんな体で嫁御が抱けるとでも……?」
竜泉の押し殺した声が寝所に落ちた。
愛おしい男の涙を啜り、赤く染まった熱い目尻に口付ける。
「ねぇ光之進様。こんな男好きの旦那に嫁がされる娘が可哀想だ」
「……ぁ、言う…な」
いっそ。
「光之進様が孕んでしまえばよろしいのに」
耳元に吹き込まれる竜泉の言葉は毒のようだった。
「お義父上の魔羅がよろしいか? それとも訓練のたびにひそかに体を盗み見ているご同僚の魔羅がよろしいか」
「りゅ…せ、…っ」
それとも。
「この竜泉の子を孕んでくださいますか光之進様?」
ここで。
竜泉の手のひらに腹を撫でられて、光之進は息を詰めた。
男が孕めるはずはない。
わかっている。
「乳首もこのように大きくしこって。乳くらい出せるでしょう?」
「む…り、無理だ」
これは戯言だ。
陰間と客との間の遊び。嘘。
惑わされてはならない。
もし孕めれば。
竜泉はにこりと笑った。
「男の魔羅をずっと咥え込んでいられますよ」
「……っ、ぁ」
いまだ固い竜泉の魔羅が、くんと光之進の奥へ押し込まれた。光之進が求めて止まない同性の性器。
「光之進様はこれが好きでしょう?」
「りゅ、せ…やめ…ぁ、ぁ」
「好きでしょう?」
小刻みに竜泉に揺さぶられ、光之進は「好き」と濡れた声で答えた。
「竜泉の子を孕んでくださいまし光之進様」
「ゃ…無理、むりだ」
「できますよ。光之進様なら。……それに、光之進様だけに押し付けたりしませんから」
「りゅう、せん…?」
「ふふ、今夜は俺も頑張ります。ね? 佐伯家の跡取りを作りましょうね」
ぎゅっと両の乳首をひねり上げられる。
「ぁ゛…っ、りゅう、せ」
「孕ませて差し上げますね」
俺と光之進の子。
暗い笑みを浮かべた竜泉をただ怖いと思えたらよかったのに。
いつも。
光之進の知らない光之進の本当へと導いてくれるその笑みに呑まれ、光之進はこくんと従順に頷いて竜泉の口づけを受け止めた。
雅かな音色にまぎれて、廊下をするすると渡ってくる足音に気づき、光之進はハッと顔を上げた。
(竜泉……)
果たして光之進の期待通り、足音は光之進の居る部屋の前で止まった。膝をつく衣擦れの音が聞こえる。
「……彦太郎様。竜泉、参りました」
「はいれ」
光之進の口から出た声は思ったより掠れていた。
すぅと襖が開けられ、顔を覗かせたのは美丈夫だった。
目鼻立ちが整った、自信に満ちた顔立ち。
どこか酷薄さを感じさせる涼やかな切長の目尻には、紅が刷かれていた。
相変わらず美しい。
「お待たせしてしまいまして」
「……うん」
竜泉に見惚れ、夜の空気に呑まれてぽぅとなっていた光之進は、気の利いた返しもできずにただ頷くことしかできなかった。
竜泉が立ち上がると、着物がよく見えた。
白い桜の花弁が舞い散り、足元に春霞が白く掛かる黒の小袖。それをすらとしなやかに筋肉がついた端麗な男の体にきっちりと着こなし、その上に、雅やかに金や銀で亀甲の刺繍が散らされた、右手が赤、左手が黒とでできた羽織を肩を落として腕にかけるようにして羽織っていた。黒の小袖の襟元から清楚な純白の下衣がちらと覗いているのが小粋だった。
派手な色合いなのに、存在が華やかな竜泉が着ていると、まるで着物たちが竜泉にひれ伏して主を引き立てているかのように見えた。
「こ、ここへ」
竜泉が側にやってくるのを見て、光之進は慌ててぽんぽんと右隣に置かれたもう一つの座布団を叩いた。光之進のすぐ隣に竜泉が来る。竜泉の動作の風に乗って、ふわと竜泉の香りがした。
甘やかな中にも清涼感のあるよい香り。
(竜泉の、匂い……)
竜泉が特別に調合させている、竜泉だけが使える香の匂いである。
光之進はこの香りが好きだった。
静かに座布団に腰を下ろした竜泉があまりにも近くにあって。自分で隣に座ってくれるように乞うたにも関わらず、光之進はどぎまぎしてしまった。まだ肌を合わせていないのに、竜泉の熱が感じられる気さえする。
光之進が二の句を告げぬうち。
手入れがされ美しいが、男らしく骨張った竜泉の手が、美しい所作で光之進の手を握った。
ひぇ。光之進の叫びが心の中で小さく上がった。声に出さなかっただけマシである。
ほのかに温かく、滑らかな竜泉の手。
触られているだけで気持ちがいい。
「今夜もご指名いただきありがとうございます。彦太郎様」
「あ、あぁ……」
光之進の目線は繋がった手に釘付けになっていた。その手をゆっくりと持ち上げられ、それに釣られて顔を上げると、美しく微笑んだ竜泉の顔に行き当たる。蠱惑的に弧を描いて笑む竜泉の目と目が合った。
ちゅ、と目の前で手の甲に口づけを落とされる。
「竜泉……」
「お会いしとうございましたよ」
「私も……あ、いや、俺も」
光之進が慌てて言い直したのに、竜泉がくすと笑みをこぼした。
「もうそれはようございましょう。……光之進様。この竜泉の前ですよ」
「そう、か。……そうだな」
「さぁ、俺にもっとよくお顔を見せてください」
竜泉の手に光之進の顔が包みこまれ、顔が、目が合わされる。
美しく雄の気配を漂わせた目に射抜かれて、光之進の腰がぐずと疼いた。
「他の男の元へ浮気などされませんでしたよね?」
「もちろん」
「光之進様はよい子ですね」
「ぁ」
正座をしていた腰から尻までを撫でられ、電流が走るような感覚に、光之進は思わず腰を前に逃してしまった。その腰を捕らえるように片腕が腰に回って抱きしめられる。
ちゅと唇に優しく口付けられて、光之進は陶然となった。
ここは。
この陰間茶屋は、男を抱きたい男ではなく、男に抱かれたい男が来るところだった。
女を買おうとしてなんとなく気分が乗らずにそのまま帰ろうとしたあの夜……。
冷やかし目的でふらとこの店の前を通りかかって、光之進は竜泉の虜になった。見世で優雅に片膝を立てて座りながら煙管を吹かす竜泉の流し目に、引き寄せられるように指名をし、一夜を過ごしたのである。男など受け入れるのは初めてだった光之進は、ここまで竜泉の手で躾けられてきた。
次男で行く当てのなかった光之進を、跡取りとしてもらってくれた義父や義母には申し訳ないとは思う。だが一度覚えてしまった快楽の味を光之進は忘れることができなかった。
ちゅ、ちゅと目に、頬に、顎先に。
慈しむように、舐めるように口付けられ、ぎゅうと焦がれた竜泉の腕に抱かれて。光之進は喘ぐように息をした。
竜泉に言われるがままに舌を出す。
れろと竜泉の舌先に舌先を弄ばれる。光之進の腰が……いや、すでに竜泉の手で開発されきった尻が疼いた。
「ん……、ちゅ…ぁ」
「ふふ、可愛い」
「りゅうせん」
「まだ、駄目です。俺に一献もくださらないおつもりですか?」
「ん、だが」
光之進様。
耳に息と声とを吹き込むように囁かれ、光之進の耳が一気に熱くなった。じんと赤く火照る耳たぶが竜泉の唇に挟まれ、もう一度。
「光之進さま」
「……わか、わかった」
光之進はようようそう言うと、竜泉に促されるまま体を離した。
「俺の禿たちにお菓子をくださったそうで、いつもありがとうございます」
「っ、ぁ……あぁ」
竜泉と体は離れたが、竜泉の指先は止まらなかった。
するっと襟元から竜泉の手のひらが入ってきて、光之進の乳首がキュッと摘まれる。
座敷にいる間、竜泉からは触れるが、許しがなければ光之進から触っては駄目なのである。
「竜泉には何もくださらぬので?」
「ひっ、それ、ゃ」
「おや。……もしや、無いのですか? つれない御方だ」
「あ、ある。ある」
光之進は懐に手を入れて、筒状に丸めた絵図の束を取り出した。
「西国の、ぁ、錦絵を」
「西国に行きたいと言ったのを、覚えていてくださったんですか?」
竜泉の不埒な手が抜けていき、腰を引き寄せられて頬に口付けられる。
中途半端に高められた身体が切なくて竜泉の唇を追ったが、ふっと逃げられてしまった。
「これは美しい。……書物でも堺の賑わいは知っていましたが、あの絵師にかかるとこのように描かれるのですね」
天橋立の絵は海の青が美しい。
金閣寺にふる雪がきらきらと光って目に楽しい。近頃流行りの、雲母を顔料に混ぜ込むという手法でしょうか。
光之進様はどこか旅にいきたいところはありますか。
竜泉と一緒に、絵図を見ながら話をする。
その間も竜泉の手はあちらこちらと気ままに動いた。
すべての絵図が見終わる頃には。
光之進の襟元は左右には完全にはだけられ、ぴんと天を向いて立ち上がる二つの胸の頂がはしたなくも露わにされていた。
その胸から腹にかけて竜泉の滑らかな手のひらでゆっくりと撫で下ろされたかと思うと、胸の飾りを人差し指で転がされ、もう片方を吸われ舌で可愛がられ。
光之進が達しかけると手が口が逃げていく。
下肢も同じだった。
常の癖で正座で座った光之進の帯のすぐ下から、裾が大きくはだけられ、下帯の布がよかされ。
屹立してよだれをこぼす好色な魔羅が晒されてしまっていた。その屹立に、戯れに竜泉の手がかかる。優しくするすると上下に撫でられ、光之進がたまらず腰をゆらめかせると、竜泉の手が逃げていく。
光之進の頭も身体ももう、襖の先の寝所へと流れていきかかっていた。登りつめかけるたびに竜泉に巧みに引き戻され、熱に狂うに狂えない。
昂るだけ昂らされた生殺し状態のまま、光之進は熱く火照り疼く身体を持て余し、なんとか竜泉との会話を続けていた。
早く。
早く、何もわからぬあの快楽に揉みくちゃにされたい。
後ろ手をついて胸も魔羅も竜泉の前に差し出す光之進の顔は、喘ぐ口の端から涎がつぅと滴り、赤く火照った頬を生理的な熱い涙が溢れ。淫欲に染まり切った、武家の跡取り息子としては大層みっともない有様だった。
光之進はなにより、竜泉のそれが既に下肢の着物を押し上げているのに、興奮していた。光之進からだけの一方的な情欲ではなく、竜泉もこの行為で昂ってくれている。それがわかる。竜泉の頬がわずかに赤く染まっていた。きっと、酒のせいからだけではない。
「りゅうせん、ぁ、りゅうせん」
触れる許しが出ていないので、声だけで精一杯ねだる。
汗でしっとりと濡れた光之進の頬に、竜泉の手のひらが添わされた。
「どうなさいました? 光之進様」
「っぁ、も、無理」
「堪え性のないお武家様ですね」
なかなか来てくださならかった罰ですよ。
光之進のぐちゃぐちゃな顔を見ながら、竜泉がうっとりと笑った。
「ぁ…、ひ、ぃ」
「貴方は俺のお気に入り。……会えず寂しかった」
「りゅ、せ……ぁ」
「男でないなら、女でもできましたか?」
嫁が。
光之進は息も絶え絶えに答えた。
跡取り養子の光之進は、子どもの頃から養家の親族から嫁を貰うことが決まっていた。いよいよ年頃ということで見合いに追われ、なかなか時間が取れなかったのである。
「なるほど……。嫁御ですか」
竜泉は真意の見えない顔で目を細めた。
「も、ほし……欲しい」
「ふふ、何が欲しいのですか?」
「……りゅ、せんのがほし」
「おやおや、貴方が欲しいのはこれだけですか?」
そっと手を取られ、硬くなった竜泉のそこへと手が置かれた。
ようやく再び触れ得た竜泉の身体。その膨れた核心を、光之進は涎をこぼしながらよしよしと何度も撫でた。
これも欲しい。だがこれだけでは足りない。
「ぁ…ん……りゅ、せんが欲しい。竜泉がいい」
「よくできましたね光之進様」
いい子いい子と魔羅を撫でられ頬に口付けられ抱きしめられて、光之進は嬉しさのあまりぽろぽろと涙を零した。
では、あちらに行きましょうか。
耳元に密やかに吹き込まれた蠱惑的な誘いに、光之進は阿呆のようにこくこくと何度も頷いた。
竜泉に手を引かれてふらとおぼつかない足取りで立ち上がる。
はしたなく乳首が立ち上がった胸元と、そそり立ったまま震える魔羅とを隠すことが許されぬまま、光之進は夢現の気分で竜泉に手を引かれ、ふらふらと寝所の襖へと足を進めた。
襖の向こうには、墨色の部屋があった。
遊廓というと普通、壁は一面赤いのだが、竜泉の部屋は独特で、壁は一面濃い墨色に塗られていた。
そこに細かな金箔や銀箔の欠片が散りばめられ、流水の模様をなだらかに上品に描いている。
部屋の中央にはふかふかとたっぷりと綿を詰められた上等な布団が敷かれ、枕が二つ、仲良く並んでいた。
布団の奥。
枕元の左手には金箔の貼られた華やかな屏風が、右手には行灯が灯っていた。屏風の金が火灯りを反射して、上品なまばゆい光を絹の白布団へと落としている。
ふわと香るのは竜泉の香の匂い。
光之進の後ろで襖がぴしゃりと閉められた。竜泉に誘われるまま、掛布団がめくられ現れた敷布団に座り込む。
ようやく来られた竜泉の寝所……いや、獲物を狩るための巣穴かもしれない。
仕留められるのを心待ちにする獲物。
光之進は呆けた顔をして、閉じられた雄の巣穴の皿の上で、竜泉を見上げていた。
竜泉の背は光之進よりもわずかに高い。
六尺には届かぬくらいであろうか。
その長身が、するすると光之進の前で纏う着物をゆっくりと見せつけるように脱いでいった。
「そんなに見られては穴が開いてしまいますよ」
「……竜泉はかっこいいな」
思わず漏れた感嘆のため息と共に賛辞を送る。
「知ってます」
竜泉がにこと笑った。
「貴方は目がいい」
下衣の白単衣の姿で、竜泉は光之進の前に膝をついた。
両手で顔を挟まれ、よしよしと愛でられる。
「見てくださる皆さんがそのように褒めてくださるので、私は綺麗に咲けるのですよ」
竜泉は「貴方が」とは言ってくれなかった。
光之進の胸につきんと痛みが走る。少し寂しい。
だが、嘘を言われるのも悲しい。
だからこれでいいのだ。きっと。
「今夜はどうなさいますか?」
竜泉の指先が、光之進の曝け出された熱い胸元をつっとくすぐるように伝い落ちていった。
今夜。
今夜、は。
「優しく」
「本当に?」
くすくすという竜泉の秘めやかな笑い声が耳に毒だった。
熱く張り詰めた亀頭の敏感な穴の左右、そこに人差し指と中指が置かれて。
肉が左右にくぱくぱと引っ張られ、閉じられ、小さな穴の形が卑猥に歪む。
「……本当に?」
もう、ここなら。
竜泉に触ってもいい。
光之進は竜泉の腕に縋って、息も絶え絶えに応えを返した。
「ぁ、ぁ、優しく、いじめて、ほし……」
「よく言えました」
竜泉に抱きついて、焦がれた唇に口付ける。竜泉は抗わずに光之進を腕の中に受け止めてくれた。温かい体温が、身体を締め付ける竜泉の両腕が、光之進の心を満たした。
もう我慢は終わり。
「舐めたい」
竜泉の。
深い、竜泉の本気の口づけを受けてとろとろに解けて。
光之進は俗世のしがらみを全て捨てて素直に甘えた。
男の魔羅が舐めたい。
竜泉の。
「変態」
竜泉は優しく笑いながら、光之進の願いを許してくれた。
現世では願うことすら叶わない、欲望。
「では、貴方が取り出してくださいますか?」
優しくね。
喉元をくすぐるように撫でられ、光之進はうわずった声で「わかった」と返事をした。
竜泉に足を投げ出すように座ってもらい、乱れた単衣の裾を下から割って、竜泉の伸びやかな美しい足をむき出しにしていく。
「性急な男は嫌われますよ、光之進様? 俺の足にもちゃんと挨拶してくださいね」
竜泉に見下ろされながら、光之進はむしゃぶるようにして竜泉の足に、足首から順々に口づけを落としていった。手のひらで撫でて肌を堪能し、舌で舐めて肌を味わう。
脛、ふくらはぎ、膝、内腿。
柔らかい内腿、股のきわに軽く吸い付くと、竜泉がわずかに息を乱した。
よしよしと頭を優しく撫でられる。
光之進のすぐ目の前には、下帯を押し上げる竜泉の逞しいそれがあった。
湿り始めた下帯越しに、呼吸と共に緩やかに動く熱。光之進は無意識に生唾を飲み込んだ。
「ほら、あとちょっと」
「ぁ」
竜泉の手に押され、光之進の顔は下帯越しに、ぐっと竜泉のそこに押し当てられた。
鼻腔いっぱいに竜泉の匂い。
顔に当たる膨れた柔らかい熱の感触。
光之進は自分からなおも顔を擦り付けて、すんすんと鼻を鳴らした。膝をついて犬のように布団に這いつくばり、竜泉の股ぐらに顔を埋める光之進の尻がふりふりと期待に揺れる。
「口で」
竜泉の指示に従って、下帯の布の端を唇で掴むと、ぐいっと横に引っ張った。
「ッ、ん」
ぶるっと飛び出てきた太く熱い魔羅に、光之進の顔が打たれる。
「さぁ、俺のことも楽しませてください。……できますよね? 光之進」
「ッ、……はい」
硬く立ち上がった竜泉の熱でぺちぺちと顔を叩かれ、光之進は溶けた顔で涎を垂らしながら頷いた。
どこもかしこも熱い。
欲望に背中を蹴られるようにして竜泉の魔羅にれろと舌を這わせる。
先走りで濡れた竜泉の魔羅の裏筋は、少し苦味があった。
それを味わうように下から上へ、何度も舌を這わせる。竜泉の太腿の裏に手をかけ竜泉の腰を持ち上げて、ふぐりから会陰までも舌を這わせた。綺麗好きな竜泉は下の毛を全て剃毛していたから、陰部は滑らかで綺麗だった。それでも、肌に舌を押し当て這わせると、肌の下に残った毛が、ざりっと舌を刺激した。その感覚がなんとなく気持ちよくて、光之進は竜泉の魔羅だけでなく、隠部全体を犬のように舐めしゃぶった
ここに来るまで、男のそれの舐め方など知りもしなかった光之進を仕込んだのは竜泉だった。竜泉と夜を過ごすたび、光之進は武家として……否、人として、男としていけない快楽を擦り込まれていく。
カリ首の境目を辿るように舌先でそこをなぞり、亀頭だけをぱくと咥えて、根元を手でゆるゆると優しく扱く。
「ぁ、は……上手です」
頭を撫でられ、光之進の脳がじわっと喜びで溶けた。
見目も構わずに竜泉の太い魔羅を深く咥え込み、頭を前に後ろにと動かしてじゅぼじゅぼとはしたない音を立てて味わう。
「……っ、ぁ、出し…ますよ」
「ん、ぐ……」
竜泉に頭をぐっと引き寄せられた。
喉奥まで膨れた亀頭で塞がれ。息、が。
その光之進の喉の奥の奥で、竜泉は容赦無く熱い白濁を撒き散らした。
光之進の口のなかで竜泉の魔羅がビクビクと跳ね回る。苦しいのに、逃げる場所がない。
呼吸困難による生理的な反応で暴れながらも、光之進は男に虐げられ、雄と交尾しているという事実に酔っていた。
膝をついた股の間に、太ももに、だらだらと熱い粘液が溢れていくのを感じる。光之進は触れられもしないのに達してしまっていた。情けない魔羅から貴重な子種が滴り落ちていく。
あーあ、という竜泉の呆れた声が落ちる。
「いけない人ですね。これでは俺の躾の程度が疑われてしまうでしょう?」
全てを吐き出して。
ぬぼぅと竜泉の魔羅が抜けていった。
光之進の顔はそれはひどいものだった。
白目を剥き、口と鼻から白濁を垂らして、涙と涎で濡れて。
「……ふふ、百年の恋も覚めるお顔ですね」
俺は好きですけど。
竜泉は枕元に用意されていた濡れ手ぬぐいで光之進の顔を拭き清めてくれた。
「りゅ、せん」
「はい」
「りゅうせ、竜泉」
「ここにおります」
ぎゅっと竜泉に抱きつく。
光之進の背中に回った竜泉の手に尻を撫で回される。
光之進は、ふにゃと力の抜けた己の魔羅を竜泉のそれに押しつけ、ゆらゆらと腰を揺らした。
「おやおや。言葉で言っていただかなければわかりませんよ光之進様」
「も、ほしい、りゅうせんの…入れてくれ」
「では入れてほしいところをちゃんと見せてくださいますか?」
前からと後ろからとどちらがよろしいのですか。
竜泉に問われ、光之進は仰向けになり、太ももを持って大きく足を広げた。
下帯からまろび出て震える陰茎も、白濁に濡れて透ける下帯越しに見える尻穴も。
全てを竜泉の前にさらけ出す。
光之進は片手を尻に伸ばすと、濡れた下帯に指を引っ掛けて期待にひくつく尻穴を出した。
「こ、こに」
「どこに?」
「私、の、淫らな尻穴、に……」
「おやおや。何もしていないのに、お口が開いていますよ」
「あ、…だって……ひ、ぃ」
何もせずともぽかりと穴を開けていた尻穴に、精液のぬめりを借りて、竜泉の指がぬるんと入り込んできた。
「…ぁ、きつ」
「ふふ、二本同時に入ってしまいました」
「そん、な……嘘」
「嘘じゃありませんよ。ほら」
「ゃ、あ、それ駄目、だ……ッ」
ぐっとさらに深く押し入ってきた二本の指が、光之進の泣きどころを意地悪くも容赦無く挟み上げた。
「駄目ではないでしょう? なんと言うのですか? 正直に言わねばやめてしまいますよ」
しこりをぬるぬると捏ね回され、光之進は身体の熱さに涙目になりながら「いい」と返事をした。
「ぉ゛…りゅうせ、もっと」
「相変わらず、女陰のように柔らかな尻穴ですね」
「りゅ、せ。…ん゛、ぉ竜泉」
「そんなに尻を振って……。ほら、腰を上げてくださいな光之進様」
光之進は、竜泉に言われるがままに震える足をつき腰を高くあげた。下肢に入った力のせいで、いつのまにか三本に増えていた竜泉の指を尻穴で締め上げることになり、指先で優しく搔くように中のしこりを刺激されて光之進の魔羅が硬く立ち上がる。
着流しの腰帯が解かれ、濡れ切って役目を果たせていない下帯を抜き取られ。
光之進の腰の下に、枕元に用意されていた高さのある綿入れが差し込まれた。何もせずとも、光之進の腰から下が浮いたような体勢になる。
その足の間に。
竜泉が魔羅を勃たせて入り込んできた。
今から、あれに可愛がってもらえるのだ。
「さぁ、足を持っていてくださいね」
「あ、あぁ」
再び太腿の裏に手をかけて足を持ち上げる。
今度こそ隠すものもなく、光之進の隠部が露わになっていた。
「はや、く…っ」
「そう…ですね。俺ももう限界です」
三本入りましたし、いいでしょう。
「痛いのも、お好きですもんね」
指が抜けていき竜泉が覆いかぶさってくるのを、光之進は歓喜でもって迎えた。
両足で竜泉の腰を抱え込み、両腕を竜泉の首に巻き付けて引き寄せる。
大好きな体温、匂い。竜泉。
ぎゅっと抱きしめてその存在を堪能する。
光之進の尻穴に、くちゅっと竜泉の魔羅の先があてがわれた。
「俺をちゃんと受け入れてくださいね」
「りゅ、せん。早く」
「…くそっ、これでも加減してるんですから、煽らないでください」
「あ゛、ぁ、きた。来た、りゅうせん」
ぐっと竜泉の腰が押しつけられ、ぬぬぬと竜泉の魔羅がゆっくりゆっくりと肉の隘路を押し開いて入ってくる。
熱い。
中のしこりを丁寧に何度も亀頭で愛されて、光之進は竜泉を抱きしめたままのけぞって喘いだ。
「い、ぃ。……きも、ち」
「ッ、光之進」
「きもち、ぁ゛、ん」
ぱちゅずちゅと竜泉の腰が前後して、奥の奥まで何度も突かれる。
その度に稲妻のように腰から背筋をかけのぼる快楽が光之進の身体を焼く。
「すき。りゅ、うせ……好き」
「…ん、可愛い、ですよ光之進さま」
「あ゛、あ」
竜泉からもぎゅぅと抱きしめ返されて、光之進の脳が幸せと快楽の坩堝へと沈んでいく。
もう何もわからない。
ただただ揺すられながら、口から涎をこぼし強すぎる快楽の奔流に呑まれる。
「魔羅、好き。いい、ぁ、ぁ、きも、ち」
「……こんの、淫乱」
「あ、ぃ、ッーーーー!」
中だけの快楽で、光之進は魔羅から子種を飛ばした。
びくびくと震える光之進の身体がなおも揺さぶられる。
絶頂でぎゅうぎゅうと締まる肉が、竜泉の熱く硬い陰茎にしゃぶりつき。それを押し開いて奥をさらに突き回された。
「お゛…し、ぬ。りゅ、せ、ぁ……とま゛って」
「は、……っん、まだ俺はいってないでしょう?」
「だめ、りゅ、せ駄目」
「死んでくださいな」
抱擁の腕の牢獄に閉じ込められ。
光之進は絶頂から降りてこれずに絶え間なくびくびくと身体を震わせ、獣のような声を上げた。
何度も突かれた尻穴の奥。
そこが、口を開け始めて、いて。
ぐぽ、と竜泉の魔羅が結腸を超えて人として許してはならぬところまで入り込んできたとき。
光之進は小水を吹きこぼして逝き果てた。
「あ゛ぁ゛、ぉ゛ーーー」
「ん、っく」
一際敏感な結腸の奥の内壁に、竜泉の熱い子種液がびゅくびゅくと噴き出し、焼かれ。
熱い。
光之進のつま先がびくびくと何度も不随意に空中で突っ張る。
「ぉ゛…ぁ…」
強く抱きしめられたまま、余すところなく快楽を享受させられる。
気持ちいい。
熱い。
イキ果てて帰ってこられない光之進の頬を竜泉がれろと舐めた。
水のように滴る汗で湿った前髪をかき上げる。
「こんな体で嫁御が抱けるとでも……?」
竜泉の押し殺した声が寝所に落ちた。
愛おしい男の涙を啜り、赤く染まった熱い目尻に口付ける。
「ねぇ光之進様。こんな男好きの旦那に嫁がされる娘が可哀想だ」
「……ぁ、言う…な」
いっそ。
「光之進様が孕んでしまえばよろしいのに」
耳元に吹き込まれる竜泉の言葉は毒のようだった。
「お義父上の魔羅がよろしいか? それとも訓練のたびにひそかに体を盗み見ているご同僚の魔羅がよろしいか」
「りゅ…せ、…っ」
それとも。
「この竜泉の子を孕んでくださいますか光之進様?」
ここで。
竜泉の手のひらに腹を撫でられて、光之進は息を詰めた。
男が孕めるはずはない。
わかっている。
「乳首もこのように大きくしこって。乳くらい出せるでしょう?」
「む…り、無理だ」
これは戯言だ。
陰間と客との間の遊び。嘘。
惑わされてはならない。
もし孕めれば。
竜泉はにこりと笑った。
「男の魔羅をずっと咥え込んでいられますよ」
「……っ、ぁ」
いまだ固い竜泉の魔羅が、くんと光之進の奥へ押し込まれた。光之進が求めて止まない同性の性器。
「光之進様はこれが好きでしょう?」
「りゅ、せ…やめ…ぁ、ぁ」
「好きでしょう?」
小刻みに竜泉に揺さぶられ、光之進は「好き」と濡れた声で答えた。
「竜泉の子を孕んでくださいまし光之進様」
「ゃ…無理、むりだ」
「できますよ。光之進様なら。……それに、光之進様だけに押し付けたりしませんから」
「りゅう、せん…?」
「ふふ、今夜は俺も頑張ります。ね? 佐伯家の跡取りを作りましょうね」
ぎゅっと両の乳首をひねり上げられる。
「ぁ゛…っ、りゅう、せ」
「孕ませて差し上げますね」
俺と光之進の子。
暗い笑みを浮かべた竜泉をただ怖いと思えたらよかったのに。
いつも。
光之進の知らない光之進の本当へと導いてくれるその笑みに呑まれ、光之進はこくんと従順に頷いて竜泉の口づけを受け止めた。
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