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第9章

3話 オバちゃんの仲間たち

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 リコの体は、日を追うごとに弱っていった。
 この頃は、ベッドから出れない毎日が続いている。

「リコさん? ダンが貴方の好きな桃を、持って来てくれましたよ。少し食べませんか? きっと口の中がスッキリしますよ!」

 ベッドに横たわるリコに、ネーヴェが綺麗に剥かれた桃を差し出した。

「……わぁ、美味しそう!」

 目を輝かせ起き上がろうとするリコを、ケツァルが支える。

「おお、リコ! 随分と気分が良さそうじゃのう」

「うん」

 頷きながら、リコは太陽の光が差す眩しい窓を見つめる。

「今日は天気がいいみたいだね。ケツァル、ネーヴェ。せっかくだから外で食べたいなぁ。久しぶりに村の皆にも会いたいし……ねぇ、ダメ?」

 甘えるように首を傾げるリコ。
 ケツァルとネーヴェは、顔を見合わせ微笑む。リコの久し振りのお願いが、二人はとても嬉しいのだ。

「ダメなもんですか! いい考えですよ。この際、皆さんを呼んで外でお茶会を開きましょう! 早速、用意しますね!」

 ネーヴェがウキウキしながら、お茶会の準備に取りかかる。
 ケツァルは、指でリコの髪をきながら語りかけた。

「皆もそれは嬉しがるであろうな。ワシも楽しみじゃ。じゃが……リコよ。余り無理はしてくれるなよ」

「うん、分かってる」

「よし! ならばワシは、ひとっ飛びしてルカたちを呼んで来るとしよう! リコ、ちょっと待っておれよ!」

 ケツァルの言葉に、リコは嬉しそうに目を細めた。





 ◆◆◆





 晴れ渡った初夏の日差しの下、賑やかお茶会が始まる。
 ネーヴェが用意してくれたスイーツが、所狭しと並べられていた。
 旬の桃がふんだんに使われたタルトやロールケーキ。カラフルでキラキラして乙女心を擽るゼリーやプリン。
 そのすべてが可愛くて、フォークを入れるのがもったいないくらいだ。
 お茶からも桃の甘い香りが漂っている。

 思ったよりも本格的なお茶会に、リコはワクワクが止まらなかった。
 リコの両脇に座るケツァルとネーヴェ。
 そしてその周りには、リコの大切な仲間が大勢駆けつけてくれていた。

「リコさん! 今日はお顔が輝いていますね! なんでしたらもっと輝くように、私を辱めてもいいんですよ! さぁ、リコさん! ご存分に!」

 相変わらずのアスワド。
 リコは、ちょっと残念な彼に優しく微笑む。

「まったく……アスワドがいると楽しくて仕方ないよ……ふふっ」

「そのような嬉しいお言葉! このアスワド、どうにかなりそうです! 大好きですよ! リコさーん!」

 満面の笑みで両手を広げるアスワドを、無情にもルカとルイがドカッと押し退け、彼らがリコの視線を勝ち取る。

「リコさん! 今日はお茶会、楽しもうね!」

「そうよ、リコ! 変態は放っておいて、目一杯楽しまなきゃ!」

「お、おう。楽しもう!」

 心の中でアスワドを不憫に思いながら、苦笑いで答えるリコ。
 次いでグラウが、地面に転がったアスワドをポーンと蹴り飛ばし、とうとうリコの見えない場所まで追いやってしまった。
 ズイと前に出るグラウ。

「リコ! 会いたかったぞ!」

「グラウ!」

 リコはアスワドの悲劇を見なかったことにして、グラウとの久々の抱擁――控えめなモフモフ――を楽しんだ。
 そこへカイルが登場する。

「リコー! 俺の話を聞いてくれよ! あいつら鬼だー!」

 叫ぶその顔はゲッソリとやつれ、長い耳は憐れに萎れていた。
 リコは「カイルは頑張ってる」と、彼の背中をあやすようにポンポンと叩く。
 カイルは今、クスタルとヨーク村をコンスタントに行き来しているのだ。内心はヨーク村に定住希望なのだが、そうも行かない。
 年中、頭の中がピンクの彼ら――リドルとガーズ――に目を光らせてないと、とんでもないことをしでかしそうで気が気じゃないのである。
 面倒見のいい損な性分なカイル。きっと彼は、このままずーっとリドルとガーズのお守り役であろう。

「もう、嫌だっ! 俺、あいつらと縁を切りたいーーーーっ!」

「カイルー。愚痴もほどほどにしろよー。せっかくのイケメンが台無しだぞ!」

 うち拉がれるカイルを、ダンが茶化した。
 キッと睨むカイル。

「何だよ、ダン! お前はいいよなー! 可愛い嫁さんと娘に囲まれててさ!」

 ダンは「あはは!」と豪快に笑いながら、隣に座るカレンと娘を愛おしそうに見つめる。

「オレの嫁さんと娘は可愛いだけじゃない。サイコーに優しいんだ!」

「はいはい。またのろけ? カイルはね、クスタルで大変な思いをしてるのよ! ダン、少しは同情してあげたら?」

 そこにティーラが参戦。
 心強い援軍を得たカイルは、ティーラの膝に泣きつく。

「ティーラ! アンタは分かってくれるんだな! 俺、辛いんだよーーっ!」

 ティーラは、カイルの頭を優しく撫でる。そして、しみじみと語り出した。

「カイル……私にはよく分かるわ。私だって毎日、同じような思いをしてるもの。女に目のない男なんて、一回痛い目を見るといいんだわ。いいえ、いっそ消えてしまえばいい!」

 カイルはパッと顔を上げ、ティーラに向かって両手を広げる。

「ティーラ!」

「カイル!」

 お互い辛い者同士のカイルとティーラは、ひしっと固く抱き合う。
 そんな二人の横で、お茶を啜っていたメグルが言い放つ。

「おや! アンタたち、いいコンビだね! 丁度いい。くっついちまいなよ!」

「お祖母さん、それはいい考えですね! さて、式はいつにしますか?」

 生真面目なライデルも加わり、話が本格的になる。

「そりゃあ、村長。早いに越したことないよ! なぁ、皆!」

 村人たちもその話に乗っかり、皆「そうだ! そうだ!」と口々に賛同した。
 顔を真っ赤にするカイルとティーラ。

「ティーラよ。ラドルフの承諾なんぞ要らん! 儂が許そう!」

 端っこにちょこんと座っていた長老が、すました顔で頷いた。
 その後ろに控えるクスタルの元護衛たちも「その通りだ!」と言わんばかりに頷き合う。
 すると皆が、カイルとティーラを楽しそうに囃し立てる。

「わー! 結婚だー! おめでとう!」

「二人共、お似合いよ! お幸せにねー!」



 ――この場にいる誰もが、はしゃぎ笑っていた。



 ケツァルとネーヴェの肩に頭を預けたリコは、そんなひとりひとりの笑顔を眺め、顔を綻ばせる。

「ふふっ。思わぬカップルが誕生したね。それにしても、皆……幸せそうだ」

「そうじゃな。皆、幸せそうに笑っておるのう」

「ええ、本当ですね」

 満面の笑みを浮かべるケツァルとネーヴェ。その目尻は下がり、彼らも実に幸せそうであった。
 リコは澄み渡る異世界の空を見上げ、大きく深呼吸する。そして、ケツァルとネーヴェの手をそっと握った。



「ねぇ……ケツァル、ネーヴェ。私……幸せだよ。側にいてくれてありがとう……ね。ああ……願わくば……大好きな仲間たちがずーっと幸せでありますように……。そしてね……また……笑顔で会えると……いいな……」



 リコは大切な仲間の笑顔に囲まれ、まるで眠るようにその目を閉じた。
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