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第4章

1話 オバちゃんの儀式

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 怒濤の出産騒動から一夜明け、翌日の朝。
 ダンの家では、賑やかな朝食が囲まれていた。

「リコ、卵のスープに入ってるこの白いの何? トロッとしてて美味しい」

「ん? ああ、ノビルだよ。ティーラ、ノビル知らないの?」

 驚くリコに、ティーラは「コクン」と頷く。
 すると、ダンが「オレも知らない」と話に加わる。

「ノビルって言うのかぁ。オレ、ニンニクだと思って食べてたよ」

「うわっ、ダンまで? ……凄い体に良いんだよ。貧血とかお腹の調子を整えるとか。あーもったいない、村の入り口にいっぱい生えてんのにー。私なんかそれ見つけて、ワクワクしちゃったよ」

 リコのサラッと言った言葉に、ケツァルは夢中で口に運んでいたスプーンをはたと止めた。

「村の入り口? ならば――こ、これは、雑草ではないか! オヌシ、いくら体に良くともそんな物をこのワシに――」

「――何かご不満でも?」

 リコはケツァルの文句を遮り、冷ややな視線を送った。
 身の危険を感じたケツァルが、慌てて話題を変える。

「そ、そう言えば、ティーラよ。落ち着く先が見つかってよかったではないか」

 嬉しそうに「ええ!」と微笑むティーラ。
 彼女はこのヨーク村で、しばらく暮らすことになったのである。
 ティーラの村は襲われてしまったし、何よりカランデの大森林には、もう安全な所などないと言うのだ。
 それを聞いたライデルが「この村で匿おう」と村人たちに提案。
 彼らは二つ返事で賛成した。せめてもの罪滅ぼしらしい。

「ティーラよ、しばらくはこの村で大人しくしておるのじゃぞ。ここは何処よりも安全じゃからな。それはそうと――」

 ケツァルは、ティーラからダンに視線を移す。

「――ダン、オヌシに聞きたいことがあるのじゃが」

「何だい? ケツァル」

「女王のペンダントとは一体どんな物なのじゃ? 確かそれで傀儡石を生み出しておるのじゃろう?」

「ああ、そうだよ。女王が片時も離さず、いつも胸にぶら下げているらしい。黒い石のついたペンダントなんだって。それ位しかオレ、知らないや……ごめん」

 すまなそうに頭を掻くダン。
 しかし、ケツァルは前足を「バン」とテーブルに置き、その話に食いついた。

「むむっ! 黒い石だと! 石ならば……もしかしてリコが触れたら、それもただの石コロになるのではないか?」

「ん? そうか! そうだよ、きっとリコさんなら石コロにしちゃうよ。そしたらもう傀儡石なんてなくなる。ケツァルって頭がいいなー」

「おお! そうじゃろう。そうじゃろう」

 ケツァルが前足を組み、偉そうにふんぞり返る。
 異様な盛り上がりをみせるダンとケツァルに、リコが遠慮がちに口を開いた。

「あのー、私が傀儡石を石コロにしちゃう前提で話してるけど……それはあの時、たまたまだったかもしれないよ? それなのにさー、そのペンダントもって言うのは……いくら何でもちょっと強引すぎない?」

「む? なんじゃ、リコらしくない。オヌシなら奇跡を起こせるはずじゃ!」

「オレもそう思う。オレさー、リコさんを無鉄砲だなんて言ったけど……それは間違いだった。だってこの村を一晩で変えちまったんだよ。絶対、何かを秘めてるよ!」

「そうよ、リコは私を救ってくれた英雄なのよ。自信を持って!」

 ケツァルとダン、ティーラまでもが、心をくすぐるワードでリコを持ち上げる。

(うわっ、何? この人たち。キラッキラッした目で私を見てる……いやーマジかー。マジで私、奇跡起こしちゃうのか。ただのオバちゃんなのに?)

 リコが葛藤してる間中、期待を込めた熱い視線がビシバシ送られてくる。

(やめてー、そんな目で見ないでー。このままじゃ私……調子に乗っちゃうよ? 英雄、気取っちゃうよ? うーーーーん、よっしゃー!)

 おだてられると、ついついその気になっちゃうリコ。
 出来る子だと勘違いしちゃうリコ。
 彼女は「この際、形から入ってやろうじゃないの」と居住まいを正し、偉そうな咳払いをひとつした。

「コホン……これより私は王都に向かう。そして諸悪の根源である女王に鉄槌を下し、混沌とするこの世界を正しき安寧の地へ――いざ、導かん! さあ、ダンよ。王都までどの位かかるのか答えるがいい!」

 まんまとその気になっちゃたリコ――因みに彼女の中の英雄は、こういうイメージなのである。
 唐突に誕生した英雄リコに、ダンは躊躇するどころかスルッと乗っかる。

「はっ。馬車で大体、5日はかかるかと」

(ほう! ダン! アンタも実は嫌いじゃないね!)

 リコは心の中でほくそ笑み、益々調子に乗る。

「おお。しかし、馬車が必要か……。ダン、すまぬがこのヨーク村で馬車を借りることは可能か?」

「申し訳ありませんが、私にはなんとも……。リコ様。リコ様たちの今後について村長のライデルが、きちんとお話ししたいと申しておりました。その時に尋ねてみてはいかがかと」

「ほう。ならば早速、村長に会おうではないか! くぞ!」

 それまで呆れ顔で見ていたケツァルが口を挟む。

「行くぞ――じゃない! リコ、いきなりなんなのじゃ。戯れも大概にせんか。オヌシ、気でも触れたか?」

(チッ、ケツァルってば付き合い悪いな。よーし、見てろよ!)

 英雄リコは、ゆっくりと首を横に振る。

「戯れでも気が触れたのでもない。これは己を鼓舞する為の大切な儀式なのだよ。分かるかな? 守護神ケツァルよ!」

「しゅ、しゅごっ!」

 ケツァルは目を見開き、長い尻尾もピーンと伸ばし固まった。

「どうした? 守護神ケツァルよ。出発の時ぞ! 早く肩に乗れぃ! この肩は我が守護神ケツァルの為にある」

 英雄リコが畳みかける。
 すると、ケツァルは感動に打ち震え、尻尾をヤタラメッタラ振り回しながら、リコの肩に飛び乗った。

われは守護神ケツァル! 我が友リコを守護する者なり! さあ、我が友よ。共に茨の道を進もうではないか!」

 簡単に落ちたケツァル。なんともチョロいもんである。
 英雄リコは、最後に残るティーラに目を遣った。
 果たして、彼女はリコの儀式に乗ってくれるだろうか。いや、さすがにこのノリは無理であろう。

 ――が、しかし、その予想はアッサリ覆される。なんとティーラは内心ウズウズしながら、仲間に加わるのを待ち望んでいたのだ。

「リコ様。もちろん、わたくしもご一緒致しますわ」

(なんと! この娘……ええ子過ぎるやないかい!)

 目を輝かすリコ。

「おお、ティーラよ。美しく聡明な其方そなたが我が友となり、私はなんという幸せ者か!」

「と、友! わたくしを友と呼んで頂けるのですか! ああ、リコ様。微力ながらこのティーラ、貴方様のお役に立ちたいと思っております」

 ティーラは胸に手を当て、静かに一礼した。



 ――類は友を呼ぶ。



 結局、全員こういうのが嫌いじゃないのだ。いやむしろ、大好物なのである。
 リコたちは英雄譚よろしく、颯爽と家を飛び出した。
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