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レティーツィア 十三歳

Ep.1 学園入学前

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 姿見に映る自分は、可愛らしい。心を落ち着かせるアッシュグリーンの髪と、榛色の瞳。誰もが振り返るような美貌と、しなやかな体。神に選ばれたような娘だと。

 それもそのはず。私──レティーツィア・エルヴィスは「ハッピーエンドを捧ぐ」という乙女ゲームの、ヒロインなのだから。
 「ハッピーエンドを捧ぐ」とは、ヒロインのもつ「幸福の乙女」という力を元に引き起こされる問題を次々に解決していくものである。攻略対象は五人。
 ストーリーを進めていくと、ヒロインには「幸福の乙女」の力が表れ、そのの証として瞳に十字が刻まれる。
 
物心がついたときから、私は自分に違和感を感じていた。自分が自分ではないような。平民のエルヴィス家長女として生まれた私は、何をするにも完璧だった。
 
 ここまで来れば、自分が選ばれ、思いのままになると思い込んでしまいそうなものだが、私の頭はそこまで落ちぶれてはいなかった。
 綺麗事を並べたり、人の心を紐解いたり、国を救ったり。そんな危険なことが出来るはずがない。
 悪役令嬢も大変だが、身を危険にさらすヒロインにもなりたくはない。ヒロインは逃げ道がどこにもないのだ。

 八歳の頃に記憶が蘇ってから、地味におとなしく生きてきた。しかし、ゲームの強制力故か、ヒロインに使える珍しい光魔法やその他の魔法を、こっそり使っていた事が魔法省にバレてしまった。後々、魔力を暴走させないために、魔法が使える者はルルーシェ学園へ入学する事が義務付けられている。
 ゲームの舞台であるルルーシェ学園は国内唯一の、魔法科がある。それを修了しなければいけないのだ。

 「ねぇ、母さん。姉さんどっか行くの?」

弟であるクラリスが母に尋ねた。

「ルルーシェ学園よ。…どう?レティ、制服は?」
「良い感じ」
「姉さん可愛い!似合ってる!」

私と同じアッシュグリーンの髪を揺らしながら、無邪気な笑顔を綻ばせるクラリス。思わず頬を緩めた。

「ありがとう。クラリスは十一歳だから、二年後ね」

魔力の成長が著しい十三歳から入学するルルーシェ学園。原則として入寮しなければならないため、こうして荷造りをしている。
 私がヒロインになってしまえば、家族と離れることになり、危険な目に会わせることにもなる。そうならないためにも、地味に生きていかなければならないのだ。


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