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エピローグ クロード・ライネル公爵の決意
72、ループを終止符を
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「私は以前、こことは違う遠い世界に生きていて、服飾店で働いていました。
どういう理由かわかりませんが、目が覚めたらレベッカとして生まれ変わっていたんです」
ずっと言いたくて、しかし黙っていた秘密ごとなのだろう。
堰を切ったかのように、彼女の言葉は止まらない。
「リリアに靴を作ったり、クロード様にタキシードを作った五度目の人生の私と、それまであなたが好きだったレベッカは、別人なんです!
あなたは、前のレベッカと結ばれるために、何度も繰り返していたのでしょう?
あなたが好きなのは、以前のレベッカです」
レベッカは目に涙を浮かべ、時折声を詰まらせながら語る。
「これからもずっと隠して、プロポーズを受けようとも考えました。
でも、嘘をついたまま、いつか失望されたら、耐えられないって思って……!」
ドレスの裾を握り、唇を噛み締め、彼女はぼろぼろと大粒の涙を流した。
遠い世界で生きていた別人格が、レベッカの中に生まれ変わったなんて、本来なら空想的で信じがたいが。
俺自身が何度も人生をループするという異常な自体に巻き込まれているので、嘘とは思えなかった。
以前ループのことを彼女に打ち明けた時、すんなり受け入れてもらえたのも、そういう事情からか。
全てが繋がった。
「ははっ、なんだ、そんなことか」
てっきりプロポーズを無碍に断られると思っていた俺は、安堵の声が漏れた。
しかし、レベッカは眉根を寄せて反論してくる。
「そんなことって…大事なことですよ?
中身が別人なんですから……っ!」
ずっと違和感はあった。
どんなに口調や仕草を似せようとしても、わかるものだ。
一人きりの図書館で、頭を整理しようとノートに、レベッカは『別人なのか?』と文字を書いたのを思い出す。
「気がついていたよ。
というか、気が付かないわけないだろう。全然違うんだから」
でもいつの間にか、そんなことはどうでも良くなっていた。
綺麗にドレスアップされ、喜ぶみんなの顔が見たいと、服を作る君は美しかった。
些細なことで一喜一憂し、泣いたり不安になったりするのに、ここぞという時、俺の両親に言い返すことができる芯の強さに、どうしようもなく惹かれた。
渾身の告白をして、不安で涙を流すレベッカに、俺の気持ちを伝えよう。
「前の君は、俺に自由の意味を教えてくれた」
放課後、二人きりの教室で、孤独な俺が羨ましいと彼女は言った。
生まれながらに絶望していた俺を、あなたは自由だ、という言葉で解き放ってくれた。
「今の君は、俺に居場所を与えてくれた」
『冷徹公爵』は自分の家で感情を出せず、『皇太子の腰巾着』は学園でいつも人目を気にして行動していた。
しかし底なしに明るい君が、『レベッカ・クローゼット』という店で、俺とともに歩んでくれた。
「どちらの君もとても大切な、俺の全てだ」
確かに4回分の人生は、凛とした彼女を追いかけていた。
2度追放令を出され、遠い極寒の地へと去っていった彼女。
その涙は、透明で綺麗で、真っ直ぐ頬に流れていた。
今目の前にいる5度目の彼女は、目の周りをぐしゃぐしゃにし、顔中が濡れている。
だがそれが、どうしようもなく愛おしい。
ポケットからハンカチを取り出し、レベッカの顔をそっと拭いた。
涙で潤んだ真紅の瞳と目が合う。
真っ白なハンカチ。
ループを繰り返したせいで、いつか俺の名前を書いてくれた刺繍は、消えてしまった。
でも、それでいい。
『あなたはどうか、後悔のない生き方を』
今生の別れをし、去り行く君が、大切なことを伝えてくれていたことに今更気がつく。
なぜだか、勉強会帰りの園庭のベンチにもう戻ることはないように思えた。
疑問がやっと解けた。
二度と君を泣かせない。
君に選ばれた自分を、誰よりも誇りに思おう。
俺は手を伸ばし、レベッカの肩を引き寄せた。
華奢な体は、いとも簡単に俺の胸の中に収まってしまう。
柔らかい髪を撫でて、強く抱きしめると、彼女の鼓動が一際強く高鳴ったのが分かった。
「ずっと、ずっと言いたかったことがあるんだ」
人生を何度繰り返しても、心から求めていた。
俺に生きる意味と価値を与えてくれた、赤毛の少女。
「レベッカ。君を愛している」
やっと言えた。
そして、君が笑っている。
もうなにも後悔はないのだと思った。
どういう理由かわかりませんが、目が覚めたらレベッカとして生まれ変わっていたんです」
ずっと言いたくて、しかし黙っていた秘密ごとなのだろう。
堰を切ったかのように、彼女の言葉は止まらない。
「リリアに靴を作ったり、クロード様にタキシードを作った五度目の人生の私と、それまであなたが好きだったレベッカは、別人なんです!
あなたは、前のレベッカと結ばれるために、何度も繰り返していたのでしょう?
あなたが好きなのは、以前のレベッカです」
レベッカは目に涙を浮かべ、時折声を詰まらせながら語る。
「これからもずっと隠して、プロポーズを受けようとも考えました。
でも、嘘をついたまま、いつか失望されたら、耐えられないって思って……!」
ドレスの裾を握り、唇を噛み締め、彼女はぼろぼろと大粒の涙を流した。
遠い世界で生きていた別人格が、レベッカの中に生まれ変わったなんて、本来なら空想的で信じがたいが。
俺自身が何度も人生をループするという異常な自体に巻き込まれているので、嘘とは思えなかった。
以前ループのことを彼女に打ち明けた時、すんなり受け入れてもらえたのも、そういう事情からか。
全てが繋がった。
「ははっ、なんだ、そんなことか」
てっきりプロポーズを無碍に断られると思っていた俺は、安堵の声が漏れた。
しかし、レベッカは眉根を寄せて反論してくる。
「そんなことって…大事なことですよ?
中身が別人なんですから……っ!」
ずっと違和感はあった。
どんなに口調や仕草を似せようとしても、わかるものだ。
一人きりの図書館で、頭を整理しようとノートに、レベッカは『別人なのか?』と文字を書いたのを思い出す。
「気がついていたよ。
というか、気が付かないわけないだろう。全然違うんだから」
でもいつの間にか、そんなことはどうでも良くなっていた。
綺麗にドレスアップされ、喜ぶみんなの顔が見たいと、服を作る君は美しかった。
些細なことで一喜一憂し、泣いたり不安になったりするのに、ここぞという時、俺の両親に言い返すことができる芯の強さに、どうしようもなく惹かれた。
渾身の告白をして、不安で涙を流すレベッカに、俺の気持ちを伝えよう。
「前の君は、俺に自由の意味を教えてくれた」
放課後、二人きりの教室で、孤独な俺が羨ましいと彼女は言った。
生まれながらに絶望していた俺を、あなたは自由だ、という言葉で解き放ってくれた。
「今の君は、俺に居場所を与えてくれた」
『冷徹公爵』は自分の家で感情を出せず、『皇太子の腰巾着』は学園でいつも人目を気にして行動していた。
しかし底なしに明るい君が、『レベッカ・クローゼット』という店で、俺とともに歩んでくれた。
「どちらの君もとても大切な、俺の全てだ」
確かに4回分の人生は、凛とした彼女を追いかけていた。
2度追放令を出され、遠い極寒の地へと去っていった彼女。
その涙は、透明で綺麗で、真っ直ぐ頬に流れていた。
今目の前にいる5度目の彼女は、目の周りをぐしゃぐしゃにし、顔中が濡れている。
だがそれが、どうしようもなく愛おしい。
ポケットからハンカチを取り出し、レベッカの顔をそっと拭いた。
涙で潤んだ真紅の瞳と目が合う。
真っ白なハンカチ。
ループを繰り返したせいで、いつか俺の名前を書いてくれた刺繍は、消えてしまった。
でも、それでいい。
『あなたはどうか、後悔のない生き方を』
今生の別れをし、去り行く君が、大切なことを伝えてくれていたことに今更気がつく。
なぜだか、勉強会帰りの園庭のベンチにもう戻ることはないように思えた。
疑問がやっと解けた。
二度と君を泣かせない。
君に選ばれた自分を、誰よりも誇りに思おう。
俺は手を伸ばし、レベッカの肩を引き寄せた。
華奢な体は、いとも簡単に俺の胸の中に収まってしまう。
柔らかい髪を撫でて、強く抱きしめると、彼女の鼓動が一際強く高鳴ったのが分かった。
「ずっと、ずっと言いたかったことがあるんだ」
人生を何度繰り返しても、心から求めていた。
俺に生きる意味と価値を与えてくれた、赤毛の少女。
「レベッカ。君を愛している」
やっと言えた。
そして、君が笑っている。
もうなにも後悔はないのだと思った。
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