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エピローグ クロード・ライネル公爵の決意
71、もう一度プロポーズを
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ユリウスの結婚式から数日経った。
皇太子夫妻の誕生に、王国の祝福ムードは今も続いている。
あの日は、俺にとって特別な日になった。
生まれてからずっと、役立たずだと馬鹿にされて生きてきた卑屈な俺が、初めて両親に自分の意思を伝えて、今後の人生を切り開いた日。
両親から入れ知恵をされ、打算のために皇太子に近づいた俺は、本当にユリウスのことを信頼していたが、どこか心の中で負い目を感じていた。
しかしユリウスはそんな俺にブーケを投げ、唯一無二の大親友だと言ってくれた。
皇太子という肩書き抜きでも、俺はずっと仲良くしていたいという気持ちが、伝わっていたのが嬉しかった。
長年の悩みが一気に晴れた日。
あの日からようやく、ゆっくりと眠ることができ、晴れた空の下を堂々と歩けるようになった気がする。
それも、レベッカのおかげだ。
俺に勇気と信念を与えてくれた彼女に、今日正式にプロポーズしようと思っている。
* * *
今日は店を休んで、街の小高い丘で待ち合わせをしている。
薄闇が降りた時間に一人で歩くのは危ないと、彼女の家の前まで馬車を遣わせた。
昨日も会ったというのに、もう早く会いたいと思っている自分がいる。
時間になると、蹄の音を響かせて馬車がゆっくりと近づいてきた。
馬車から降りたレベッカは、今日は黒いドレスを着ている。
俺の顔を見てぱっと花が咲いたかのように笑うレベッカの笑顔は、本当に可愛らしい。
舞踏会で一緒に踊った時に着ていたものだ。肌の白い彼女にとても似合う。
彼女は俺に駆け寄って挨拶した後、目の前に広がる景色に感嘆の声を上げた。
「わあ、凄く夜景が綺麗ですわね……!」
「ああ。君に見せたかった」
あまり人通りがないが、ここから見える夜景は特別だと噂されている場所だ。
「見せてくださってありがとうございます」
レベッカは嬉しそうに微笑んでいた。
星空と、眼下に広がる家の灯りたちがきらきらと輝く。
彼女の横顔を見つめると、星よりも綺麗なその瞳が、夜景を見つめ輝いている。
「レベッカ」
彼女の美しい紅い髪を撫でると、深紅の瞳がこちらを向いた。
「俺と結婚してくれないか」
ずっと伝えたかったことだ。
俺は生涯、君のそばにいたい。
純粋な彼女は、まさかプロポーズされると思っていなかったのだろう、目を丸くしていた。
少し早急だったか。食事をした後の方がよかっただろうか。
しかし二人きりの時、この夜景の前で伝えたかった。
何を言おうか悩んだ様子で、レベッカがゆっくり口を開ける。
「とても嬉しいです。はい、と返事をしたいのですが……」
―――が?
店の閉店後の公園でも、ユリウスの結婚式でも、彼女の気持ちは確認していた。
ずっと俺と一緒にいたいと言ってくれたのに。
まさかの返答に、情けないことに俺の心臓は跳ね上がっていた。
嘘だろ。
断られるのか?
「私、クロード様にずっと黙っていたことがありまして……」
レベッカの細い指が、小さく震えていた。
何か隠し事をしていたということだろうか。
実は他に婚約者がいる?
俺の両親や家庭に嫌気が差し、白紙に戻したいと思った?
そもそも店の共同経営者なだけで、俺に気持ちなどなかった?
「教えてくれ」
緊張で喉の奥が締まり、声が掠れた。
もうループを繰り返したくない一心の俺が、彼女の気持ちを考えず先走ってしまっていただけかもしれないと、疑惑はぐるぐると頭を駆け巡る。
きっと俺は酷い顔をしていたに違いない。
レベッカは少々怯えながら、恐る恐る口を開いた。
「あなたは、何度も人生を繰り返して、今回が5度目なのですよね?」
「ああ、そうだ」
レベッカは俺に問いかけ、目を伏せる。
「……これまでの4回分のループ中に存在したレベッカと、私は別人なんです」
俺のことが好きじゃないとか、考えさせてくれとか、気持ちの問題ではない。
思いもよらない彼女の言葉に、俺は面食らった。
皇太子夫妻の誕生に、王国の祝福ムードは今も続いている。
あの日は、俺にとって特別な日になった。
生まれてからずっと、役立たずだと馬鹿にされて生きてきた卑屈な俺が、初めて両親に自分の意思を伝えて、今後の人生を切り開いた日。
両親から入れ知恵をされ、打算のために皇太子に近づいた俺は、本当にユリウスのことを信頼していたが、どこか心の中で負い目を感じていた。
しかしユリウスはそんな俺にブーケを投げ、唯一無二の大親友だと言ってくれた。
皇太子という肩書き抜きでも、俺はずっと仲良くしていたいという気持ちが、伝わっていたのが嬉しかった。
長年の悩みが一気に晴れた日。
あの日からようやく、ゆっくりと眠ることができ、晴れた空の下を堂々と歩けるようになった気がする。
それも、レベッカのおかげだ。
俺に勇気と信念を与えてくれた彼女に、今日正式にプロポーズしようと思っている。
* * *
今日は店を休んで、街の小高い丘で待ち合わせをしている。
薄闇が降りた時間に一人で歩くのは危ないと、彼女の家の前まで馬車を遣わせた。
昨日も会ったというのに、もう早く会いたいと思っている自分がいる。
時間になると、蹄の音を響かせて馬車がゆっくりと近づいてきた。
馬車から降りたレベッカは、今日は黒いドレスを着ている。
俺の顔を見てぱっと花が咲いたかのように笑うレベッカの笑顔は、本当に可愛らしい。
舞踏会で一緒に踊った時に着ていたものだ。肌の白い彼女にとても似合う。
彼女は俺に駆け寄って挨拶した後、目の前に広がる景色に感嘆の声を上げた。
「わあ、凄く夜景が綺麗ですわね……!」
「ああ。君に見せたかった」
あまり人通りがないが、ここから見える夜景は特別だと噂されている場所だ。
「見せてくださってありがとうございます」
レベッカは嬉しそうに微笑んでいた。
星空と、眼下に広がる家の灯りたちがきらきらと輝く。
彼女の横顔を見つめると、星よりも綺麗なその瞳が、夜景を見つめ輝いている。
「レベッカ」
彼女の美しい紅い髪を撫でると、深紅の瞳がこちらを向いた。
「俺と結婚してくれないか」
ずっと伝えたかったことだ。
俺は生涯、君のそばにいたい。
純粋な彼女は、まさかプロポーズされると思っていなかったのだろう、目を丸くしていた。
少し早急だったか。食事をした後の方がよかっただろうか。
しかし二人きりの時、この夜景の前で伝えたかった。
何を言おうか悩んだ様子で、レベッカがゆっくり口を開ける。
「とても嬉しいです。はい、と返事をしたいのですが……」
―――が?
店の閉店後の公園でも、ユリウスの結婚式でも、彼女の気持ちは確認していた。
ずっと俺と一緒にいたいと言ってくれたのに。
まさかの返答に、情けないことに俺の心臓は跳ね上がっていた。
嘘だろ。
断られるのか?
「私、クロード様にずっと黙っていたことがありまして……」
レベッカの細い指が、小さく震えていた。
何か隠し事をしていたということだろうか。
実は他に婚約者がいる?
俺の両親や家庭に嫌気が差し、白紙に戻したいと思った?
そもそも店の共同経営者なだけで、俺に気持ちなどなかった?
「教えてくれ」
緊張で喉の奥が締まり、声が掠れた。
もうループを繰り返したくない一心の俺が、彼女の気持ちを考えず先走ってしまっていただけかもしれないと、疑惑はぐるぐると頭を駆け巡る。
きっと俺は酷い顔をしていたに違いない。
レベッカは少々怯えながら、恐る恐る口を開いた。
「あなたは、何度も人生を繰り返して、今回が5度目なのですよね?」
「ああ、そうだ」
レベッカは俺に問いかけ、目を伏せる。
「……これまでの4回分のループ中に存在したレベッカと、私は別人なんです」
俺のことが好きじゃないとか、考えさせてくれとか、気持ちの問題ではない。
思いもよらない彼女の言葉に、俺は面食らった。
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