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第7章 忘れられぬ結婚式を
69、最高の味方
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乾いた拍手の音の出所は、大広間の中央だった。
穏やかに微笑んだ夫人が、拍手しながらレベッカの暴挙とも言える行動を称賛している。
「そんなにパートナーを褒めることができるなんて、素晴らしいわ。相手への、深い信頼と愛情の賜物ね」
どこかで聞いたことがある声。
靴の音を響かせて近づいてきたのは、すらりとした美しい女性だった。
栗色の髪に、ライム色のドレスを着ている。
「あなたたち『レベッカ・クローゼット』のお二人よね、お久しぶり」
店を開店し一人目のお客様だった、ライム色のマーメイドドレスを貸し出した、セリーヌ夫人だった。
「せ、セリーヌ殿下……!」
ライネル夫妻は急に現れたセリーヌ夫人が恐れ多いのか、頭を下げて後退りした。
レベッカは思い出す。
(そうだ、このお方はユリウス様の叔母様。皇太子の叔母は、皇帝のご兄妹…!)
クロードもすぐに胸の手を当て敬礼したため、レベッカも頭を下げる。
「祝いの席で騒々しくしてしまい申し訳ございません、殿下」
クロードの謝罪に、セリーヌは首を横に振る。
「いいのよ、ユリウスも怒りはしないし、きっと見たかったっていうはずよ」
確かに、陽気なユリウスなら、レベッカがクロードの両親と言い争いをしてるのなど、わくわくしながら見そうである。
「ライネル公爵夫妻、あなたのご子息と、婚約者のエイブラム令嬢の作った服飾店がとても素晴らしかったの。
わたくし、とても気に入ってしまって、皇室御用達にしたいと思っててね」
歳を重ねても、気品のああるセリーヌ殿下は、穏やかな口調でライネル夫妻に告げる。
たおやかに微笑むセリーヌ殿下の言葉に、父も母も目を丸くして驚いている。
「素晴らしいお店の店員同士がクラスメイトで、結ばれるなんて、いい話よね。
ユリウスの親友だし、今後も家族ぐるみで末長くよろしくお願いします」
セリーヌ殿下からの祝福の言葉は、レベッカとクロードの婚約を後押しするのに、これ以上のものはない。
「ありがとうございます…!」
クロードが再び胸に手を当て頭を下げる。その横顔は、驚きと喜びで高揚しているようだった。
「二人の婚約を、祝福しているわ。お店もまた寄らせてもらうわね」
「はい!」
レベッカは満面の笑みでセリーヌ殿下に返事をする。
「で、殿下が言うのでしたら……ねえ、あなた」
「はは……祝福していただけるなど、身に余る光栄でございます」
先程まで、エイブラム令嬢の結婚は認めない、たとえ三男でも役に立てと暴言を吐き散らかしていた二人も、セリーヌ殿下自ら祝福すると賜られたのを、反対できないのだろう。
さらに、貴族が商売を始めるなんてあり得ないと言っていたが、皇室御用達は誉れ高いと思ったのか、急に薄ら笑いを浮かべ、息子の婚約を認めたようだ。
「正式な婚約のご挨拶の場は、また後日設けます。父上、母上」
クロードの言葉に、公爵は咳払いをし、小さく頷いた。
そしてちょうどその時、城内に鐘の音が響き渡った。
「ほら、ユリウスとリリア嬢の挙式が始まるわ。みなさま、教会の方へ移動いたしましょう?」
セリーヌ殿下自らの声かけで、大広間にいた貴族たちが手に持ったグラスを円卓に置き、挙式へ向かうべく歩き出した。
バツが悪そうに、ライネル公爵夫妻も大勢の流れに乗って歩いていく。
立ち尽くして呆然状態のクロードとレベッカに、ライム色のドレスを着ているセリーヌがウインクをした。
私に似合う色を教えてくれたあなたに、恩返しよ、と言わんばかりのお茶目な淑女だ。
穏やかに微笑んだ夫人が、拍手しながらレベッカの暴挙とも言える行動を称賛している。
「そんなにパートナーを褒めることができるなんて、素晴らしいわ。相手への、深い信頼と愛情の賜物ね」
どこかで聞いたことがある声。
靴の音を響かせて近づいてきたのは、すらりとした美しい女性だった。
栗色の髪に、ライム色のドレスを着ている。
「あなたたち『レベッカ・クローゼット』のお二人よね、お久しぶり」
店を開店し一人目のお客様だった、ライム色のマーメイドドレスを貸し出した、セリーヌ夫人だった。
「せ、セリーヌ殿下……!」
ライネル夫妻は急に現れたセリーヌ夫人が恐れ多いのか、頭を下げて後退りした。
レベッカは思い出す。
(そうだ、このお方はユリウス様の叔母様。皇太子の叔母は、皇帝のご兄妹…!)
クロードもすぐに胸の手を当て敬礼したため、レベッカも頭を下げる。
「祝いの席で騒々しくしてしまい申し訳ございません、殿下」
クロードの謝罪に、セリーヌは首を横に振る。
「いいのよ、ユリウスも怒りはしないし、きっと見たかったっていうはずよ」
確かに、陽気なユリウスなら、レベッカがクロードの両親と言い争いをしてるのなど、わくわくしながら見そうである。
「ライネル公爵夫妻、あなたのご子息と、婚約者のエイブラム令嬢の作った服飾店がとても素晴らしかったの。
わたくし、とても気に入ってしまって、皇室御用達にしたいと思っててね」
歳を重ねても、気品のああるセリーヌ殿下は、穏やかな口調でライネル夫妻に告げる。
たおやかに微笑むセリーヌ殿下の言葉に、父も母も目を丸くして驚いている。
「素晴らしいお店の店員同士がクラスメイトで、結ばれるなんて、いい話よね。
ユリウスの親友だし、今後も家族ぐるみで末長くよろしくお願いします」
セリーヌ殿下からの祝福の言葉は、レベッカとクロードの婚約を後押しするのに、これ以上のものはない。
「ありがとうございます…!」
クロードが再び胸に手を当て頭を下げる。その横顔は、驚きと喜びで高揚しているようだった。
「二人の婚約を、祝福しているわ。お店もまた寄らせてもらうわね」
「はい!」
レベッカは満面の笑みでセリーヌ殿下に返事をする。
「で、殿下が言うのでしたら……ねえ、あなた」
「はは……祝福していただけるなど、身に余る光栄でございます」
先程まで、エイブラム令嬢の結婚は認めない、たとえ三男でも役に立てと暴言を吐き散らかしていた二人も、セリーヌ殿下自ら祝福すると賜られたのを、反対できないのだろう。
さらに、貴族が商売を始めるなんてあり得ないと言っていたが、皇室御用達は誉れ高いと思ったのか、急に薄ら笑いを浮かべ、息子の婚約を認めたようだ。
「正式な婚約のご挨拶の場は、また後日設けます。父上、母上」
クロードの言葉に、公爵は咳払いをし、小さく頷いた。
そしてちょうどその時、城内に鐘の音が響き渡った。
「ほら、ユリウスとリリア嬢の挙式が始まるわ。みなさま、教会の方へ移動いたしましょう?」
セリーヌ殿下自らの声かけで、大広間にいた貴族たちが手に持ったグラスを円卓に置き、挙式へ向かうべく歩き出した。
バツが悪そうに、ライネル公爵夫妻も大勢の流れに乗って歩いていく。
立ち尽くして呆然状態のクロードとレベッカに、ライム色のドレスを着ているセリーヌがウインクをした。
私に似合う色を教えてくれたあなたに、恩返しよ、と言わんばかりのお茶目な淑女だ。
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