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第7章 忘れられぬ結婚式を

68、いいところを挙げるわ

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「お止めください!」


 実の息子に暴言を吐き続けるライネル公爵夫妻に、レベッカが声を上げる。

 急に大声を出したレベッカに夫人が、はしたない、と眉を上げる。


「それが血のつながった実の息子に向ける言葉でしょうか。聞くに耐えません」


 レベッカが苦言を呈すると、隣のクロードは焦ったようにこちらを見てきた。

 近くで談笑していた貴族たちも、一体なんの騒ぎかと注目している。

 由緒正しきライネル家の子息の相手に、レベッカがふさわしくないという話ならば、時間をかけてでも説得しようと思っていたが。

 そうではなく、ただクロードに悪口を浴びせ、支配するのが、許せなかった。 


「なんの取り柄もない息子を、親がどう言おうと、他人の知ったことではないだろう」


 同じ銀髪のくせに、クロードとは似ても似つかぬ傲慢な父親。


「愛想の無い出来損ないを、どうしてそこまで庇うのかしら、エイブラム嬢?」


 勘に触る母親の甲高い声を聞き、レベッカは頭の中でぷつん、と何かが切れる音が聞こえた。

 後から、あれは堪忍袋が切れる音だったのかと冷静に思えるのだが、その時のレベッカは止まることはできなかった。


「クロード様は、とても素敵な方です! 私は、彼のいいところをたくさん知っています」


 胸に手を当て、ロマンスブルーのドレスを着たレベッカは、両親に果敢に言い返す。

 訝しげに眉をひそめる二人に、全て伝えたかった。


「今から、長所を挙げさせていただきます」


 すう、とレベッカは大きく息を吸う。

 シャンデリアが輝き、貴族たちが集う華々しい皇太子婚約パーティー。

 そんな場所には不釣り合いな、子供の喧嘩のような言い争いだが、 この二人に理解させたかった。


「全てを受け止めてくれる包容力。空気の読める洞察力。勉強のできる地頭の良さ。
  気品のある仕草。有言実行の行動力、クラス中のみんなが彼を目標にすべきだと思いました」


 言葉は多くなく常に落ち着いており、大人びた風格は学園には他にいなかった。

 場の空気を読み、的確に場をまとめる力は卓越していた。

 レベッカは、指を折り何個も羅列していく。


「見た目も素敵です。月夜に輝く神秘的な銀の髪、銀の長いまつ毛。
  透けるように白い肌は女の私でも羨ましいですし、深い青の瞳も見つめるたびに吸い込まれそうです」


 何度も目を奪われて、心臓が高鳴った。その神秘的な美しさは、類を見ない。

 クロードは隣で自分の長所を言い連ねるレベッカを見て、彼にしては珍しく口を開け呆然としている。


「弱い人に手を差し伸べてくれる優しさ。辛いことも乗り越えられる忍耐力。
  未来を見据えて選べる決断力。そんな性格に、私は何度も救われました!」

 何度もループをしても、必ず望んだ結末に向かうという強い気持ち。
 
弱音を吐いたレベッカに、必ず最善策を提示してくれる。

 何度も救われ、彼のそばにいたいと思った。これからもずっと、一緒にと。


「も、もういい、レベッカ」


 クロードは恥ずかしいのか戸惑っているのか、慌てて止めようとしてくるが、止まらない。

 全世界の人に聞かせたかった。


「クロード様は、一途で愛情深くて、とても温かい人です!」


 広間に集まった貴族たちが皆、レベッカの姿を見ていた。

 いつも気品があり優雅なエイブラム令嬢が、ライネル公爵子息をかばっているのを、ただただ注視していた。

 静まり返った空間の中、レベッカの父であるエイブラム侯爵だけは、強く頷き、娘の勇姿を見守っていた。


「あなた方の息子さんは素敵です。私が証明します! 
  私の大切な人を侮辱するのは、いくらご両親でも許せません!」
 

 息を切らせて啖呵を切った。

 本当はまだまだ言いたかったが、息が続かない。ふうと息をつき、レベッカは呼吸を整える。


「あ、あなたねえ……!」


 ライネル夫人は唇を震わせて、侮辱されたと思ったのか扇子を閉じレベッカに食ってかかる。

 隣の公爵も、不服だと言わんばかりにレベッカを睨みつけていた。

 一触即発の張り詰めた空気。


 そこに、一人の拍手の音が響いた。
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