64 / 72
第7章 忘れられぬ結婚式を
64、エイブラム侯爵へご挨拶
しおりを挟む
リリアのドレスアップの手伝いを済ませ、主賓の二人を見送ったあと、レベッカは控え室から出た。
あとは挙式が行われるまで、テイラー城の大広間で他の貴族達と待っているしかない。
アパレル店員兼スタイリストとして一仕事を終えたレベッカは、ふうと胸を撫で下ろす。
「うまくいったようだな、お疲れさま」
気がつくとそばにクロードが立っていた。
以前舞踏会用に作ったダークネイビーのタキシードを着て、銀髪をきっちりと整えている。
「ええ、リリア様も喜んでくださって良かったです」
「君の見立てなら間違いないだろう」
クロードは目を細めて優しく微笑むので、レベッカもつられて笑った。
「……今日のドレスも似合っている」
高い背を屈めて、そっと耳元でクロードが囁く。
今回のドレスは、ブルベ冬の自分の肌質と、真紅の髪に合うロイヤルブルーにした。
Vカットで大胆に肩を出しているが、下品にならないよう大粒のネックレスで飾り、スタイルを良く見せるためにウエストはしっかり絞ったタイトなドレスだ。
「気に入ってもらえて嬉しいですわ」
ダークネイビーとロイヤルブルーで、お互い青系の服で揃えたのも、パートナー同士でいいなとレベッカは思った。前世でいうところのペアルックや双子コーデのようだ。
円卓にドリンクや軽食が置かれ、貴族出身の優雅な人々が行き交っている。
由緒正しきライネル家出身のクロードは、あそこにいるのは有力な貴族の家系とか、屈強な体格の人は騎士団長だとか、あの男性は傲慢で態度が悪いから気をつけろ、とか説明や忠告をしてくれた。
人の顔を覚えるのが苦手なレベッカが、覚えねばと頷いていたら、
「レベッカ、ここにいたのか!」
と後ろから声をかけられた。
振り向くと、初老の男性がとことこと歩いてくるところだった。
「お父様、いらっしゃっていたのですね」
白髪をしっかりと固めて、小柄で恰幅のいい男性は、レベッカの実の父親のウィル・エイブラム侯爵だ。
前世でプレイしていた時はユリウスルートの結婚式の際に少し見られるだけのレアキャラだが、先日自分の店に並べ、レンタルに出す服を取りに屋敷に帰った際に初めて対面した。
とても穏やかで、常にニコニコしており、一人娘のレベッカを可愛がっているのがわかる父親だ。
「こう人が多いと迷ってしまうな。おや、そちらの青年は?」
愛娘の横に寄り添っている銀髪の青年は誰だろうと、父上が視線を向けた瞬間、クロードは一瞬で背筋を伸ばし胸に手を当て敬礼をし、頭を下げた。
一切の無駄のない、美しい動作だ。
「ご挨拶させてください、エイブラム侯爵。私はクロード・ライネルと申します」
深々と頭を下げ、よく通る低い声で名乗るクロード。
「おお、ライネル公爵の息子さんか。若い頃のお父上にそっくりだなぁ」
ほっほっ、と恰幅の良い体を揺らし、愉快そうに笑うエイブラム侯爵。
どうやら社交界でクロードの父上とは昔からの知り合いのようだ。
かしこまらなくていいよ、頭を上げておくれという父上の言葉に、はい、と返事をしてクロードが体を起こす。
「実は、この場をお借りしてご挨拶したいのですが……」
そこまで言って、クロードはちらりとレベッカに視線を向けた。
おそらく、この前話したことを言っていいかという合図だろう。
レベッカも覚悟を決めているため、小さく頷く。
あとは挙式が行われるまで、テイラー城の大広間で他の貴族達と待っているしかない。
アパレル店員兼スタイリストとして一仕事を終えたレベッカは、ふうと胸を撫で下ろす。
「うまくいったようだな、お疲れさま」
気がつくとそばにクロードが立っていた。
以前舞踏会用に作ったダークネイビーのタキシードを着て、銀髪をきっちりと整えている。
「ええ、リリア様も喜んでくださって良かったです」
「君の見立てなら間違いないだろう」
クロードは目を細めて優しく微笑むので、レベッカもつられて笑った。
「……今日のドレスも似合っている」
高い背を屈めて、そっと耳元でクロードが囁く。
今回のドレスは、ブルベ冬の自分の肌質と、真紅の髪に合うロイヤルブルーにした。
Vカットで大胆に肩を出しているが、下品にならないよう大粒のネックレスで飾り、スタイルを良く見せるためにウエストはしっかり絞ったタイトなドレスだ。
「気に入ってもらえて嬉しいですわ」
ダークネイビーとロイヤルブルーで、お互い青系の服で揃えたのも、パートナー同士でいいなとレベッカは思った。前世でいうところのペアルックや双子コーデのようだ。
円卓にドリンクや軽食が置かれ、貴族出身の優雅な人々が行き交っている。
由緒正しきライネル家出身のクロードは、あそこにいるのは有力な貴族の家系とか、屈強な体格の人は騎士団長だとか、あの男性は傲慢で態度が悪いから気をつけろ、とか説明や忠告をしてくれた。
人の顔を覚えるのが苦手なレベッカが、覚えねばと頷いていたら、
「レベッカ、ここにいたのか!」
と後ろから声をかけられた。
振り向くと、初老の男性がとことこと歩いてくるところだった。
「お父様、いらっしゃっていたのですね」
白髪をしっかりと固めて、小柄で恰幅のいい男性は、レベッカの実の父親のウィル・エイブラム侯爵だ。
前世でプレイしていた時はユリウスルートの結婚式の際に少し見られるだけのレアキャラだが、先日自分の店に並べ、レンタルに出す服を取りに屋敷に帰った際に初めて対面した。
とても穏やかで、常にニコニコしており、一人娘のレベッカを可愛がっているのがわかる父親だ。
「こう人が多いと迷ってしまうな。おや、そちらの青年は?」
愛娘の横に寄り添っている銀髪の青年は誰だろうと、父上が視線を向けた瞬間、クロードは一瞬で背筋を伸ばし胸に手を当て敬礼をし、頭を下げた。
一切の無駄のない、美しい動作だ。
「ご挨拶させてください、エイブラム侯爵。私はクロード・ライネルと申します」
深々と頭を下げ、よく通る低い声で名乗るクロード。
「おお、ライネル公爵の息子さんか。若い頃のお父上にそっくりだなぁ」
ほっほっ、と恰幅の良い体を揺らし、愉快そうに笑うエイブラム侯爵。
どうやら社交界でクロードの父上とは昔からの知り合いのようだ。
かしこまらなくていいよ、頭を上げておくれという父上の言葉に、はい、と返事をしてクロードが体を起こす。
「実は、この場をお借りしてご挨拶したいのですが……」
そこまで言って、クロードはちらりとレベッカに視線を向けた。
おそらく、この前話したことを言っていいかという合図だろう。
レベッカも覚悟を決めているため、小さく頷く。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう
冬月光輝
恋愛
ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。
前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。
彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。
それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。
“男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。
89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる