上 下
55 / 72
第6章 共に夢を叶えよう

55、ライム色のワンピース

しおりを挟む
「まあ、ライム色……そういえば、着てみたことないわ」

 婦人は興味深そうにその服を眺める。

 ライム色は、緑と黄色を合わせた中間色で、明るく春らしい爽やかなグリーンだ。

 まさに、イエベ春のパーソナルカラーの彼女にはぴったりである。


「お客様の髪や瞳の色のブラウンに、ライム色は合います。くすんだ色よりも華やかな色が似合う肌質ですので、今着てらっしゃる白も良いですが、せっかくのお茶会でしたら明るい色味がおすすめです」

「そうね、確かに…無難だけど少し地味かも、と思ってはいたの」


 今身につけているシンプルな白のワンピースを摘み、婦人が頷く。


「昔はピンクやオレンジとか着てたんだけど、若作りって言われたくなくてねぇ……」

「今でもその色は似合うと思います。
 ただ、そう悩まれる気持ちもわかるので、ライム色のような明るいけど媚びてない色合いがいいと思うんです!」


 最初は驚いていたが、レベッカの熱弁に少しずつ心が揺れてきている婦人。
 
 静かに二人の話を聞いていたクロードは、さっと婦人が手に持っている日傘と鞄を受け取り、素早く全身鏡を目の前に持ってきた。
 
 さすがね、と内心レベッカは声をかける。 
 
 クールな彼に接客業は苦手かもしれないと思ったが、客の行動を先読みし、エスコートするのがうまく、心配いらなかったようだ。
 
 鏡の前で婦人に合わせてもらい、さらに続ける。


「お客様、スラリとしていてスタイルがいいので、足の長さを活かすマーメイドラインのスカートが良いと思います」

「マーメイドライン?」

「前面はスカートの裾は膝丈なのですが、背面の裾はふくらはぎまであって少し長いんです。
 まるで人魚の尾びれのような優雅なシルエットなんですよ」

「あら、人魚、ね……」


 頬に手を置き、人魚と言われ満更でもなさそうな婦人の様子を見て、レベッカは後もう一押しだ、と自分を鼓舞する。 


「もしよろしければ、試着してみてはいかがですか。試着室に案内します!」


 商品を置いてある部屋の隣には、カーテンで仕切りをつけ鏡を置いた試着室がある。実際に着て実感したほうが良いと伝えると、婦人は頷いたので案内する。

 ライム色のマーメードワンピースを手渡し、試着室へ入った婦人へ何かありましたらお声がけください、と伝える。

 その間に、クロードは服を広げた棚や鏡を整頓し、婦人の荷物を丁寧にテーブルの上へ置く。

 数分後、少し恥ずかしそうにカーテンを開けた婦人。


「ど、どうかしら……?」

 レベッカの見立て通り、黄色味がかったきめ細やかな肌には、明るいライム色がとても似合う。

 年相応の明るい色合いで、春の新緑のようで爽やかである。


「まあ、とてもお似合いですよ!」

 小さく拍手をしながらレベッカが言うと、お世辞でも嬉しいわ、と婦人は眉を下げる。


「このマーメイドラインていうのも面白いわね、確かにスタイルが良く見える気がする」

「スラリとしてますよね。お客様の素材のよさが際立ちます」

「うふふ、恥ずかしいわぁ。じゃあ、これをお借りしようかしら」

「はい、ありがとうございます!」


 どうやらお気に召したようだ。


「そして、もしよろしければこちらの白い帽子もいかがですか?」


 レベッカは、手に持っていた帽子を婦人へ渡す。

 柔らかい白い布地で、つばが広いバケットハットだ。
 天気の良い日にお茶会だというので、紫外線も防げて肌や目にも優しく、見た目も涼やかである。


「あら素敵。確かに、お庭でのお茶会で、日傘を差すわけにはいかないものね」


 大きなつばの帽子をかぶると、婦人がますます小顔に見えてぴったりだ。

 ではこちらもお借りするわ、了承され、トータルコーディネートが完成していく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。 でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。 果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか? ハッピーエンド目指して頑張ります。 小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪魔騎士の愛しい妻

NA
恋愛
望まない結婚を強いられそうになった没落令嬢ヴァイオレットは、憂いを帯びた美貌の貴公子エリックに救われた。 しかし、彼は不老の悪魔だった。 ヴァイオレットが彼の横で胸を張っていられる、若く美しい時間はあっと言う間に過ぎ去った。 変わらぬ美貌のエリックに群がる女たちへの嫉妬で、ヴァイオレットはやがて狂っていく。 しかし、エリックはいつまでも優しく、ヴァイオレットに愛を囁き続けて…… これは、悪魔に魅入られた女の物語。 および、召使いによる蛇足。 ★ご注意ください★ バッドエンドのろくでもない話です。 最後に笑うのは悪魔だけ。 一話1000字前後。 全9話で完結済。

悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~

イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?) グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。 「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」 そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。 (これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!) と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。 続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。 さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!? 「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」 ※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`) ※小説家になろう、ノベルバにも掲載

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...