49 / 72
第6章 共に夢を叶えよう
49.君の望みを
しおりを挟む
レベッカは言葉の意味がわからず、口を開けたまま呆然としてしまった。
数秒の沈黙が流れる。
「わ、私が、ですか?」
慌てて返事をすると、クロードはゆっくりと首を縦に振る。
「ああ。君はいつも、どこか影があった。
笑っていても、優雅に歩いていても、拭えない陰りが」
目を細めると、長いまつ毛の影が彼の白い頬に落ちる。
「…前に一度俺に話してくれた。『私は一人娘だから、家を継ぐために好きでもない人と結婚して、仕事もしなければいけないのだ』と」
繰り返すループの中で、レベッカが話してくれた心のうちを思い出すように、そっと囁く。
「俺の望みは、君が暗い人生を送らずに、毎日笑顔で過ごすことだ。
追放令もでず、家のために皇太子と結婚しなくてもいいように」
クロードは、真っ直ぐにレベッカを見つめる。
彼は、自分の感情ではなく、あくまでもレベッカが幸せに生きることが望みなのだという。
悪い噂を流されて1人で教室に座っていたり、追放令を出され泣いているレベッカを、もう2度と見たくないのだ、と。
「質問を返してすまないが、君の望みや、夢はなんだ?」
腕を組み、クロードはレベッカの気持ちを聞いてきた。
「私の夢、は……」
幼い頃から、ずっと願っていた夢。
前世ではその夢を追いかけて専門学校に入り、勉強し、就職し、忙しく仕事をしていた。
いつかその夢を叶えることを目指して。
「自分の服屋を出して、みんなに似合う服装を売ることです。
素敵な服や靴やメイクをして、キラキラ輝く人たちが見たいんです」
実現できないまま、前世では日々の仕事に追われ、過労で倒れてしまったから。
中学生の時、母の日に作って贈った服を、母はとても喜んでくれた。
初デートに行く友達にメイクをしてあげたら、相手から告白されたと報告してくれた。
背が低いのが悩みだというリリアにパンプスをプレゼントとしたら、恋敵なのに仲良くなった。
ずっと夢見ていて、しかし叶えることができずに諦めた夢を、この転生した乙女ゲームの世界では、できていることが嬉しかった。
ドレスやタキシードを作り、みんなに着てもらい、楽しく過ごしてほしい。
奥底にしまい込んでいた気持ちが、後から後から湧き上がる。
頬を高揚させながら、自分の望みを言ったレベッカを見て、クロードは手を打った。
「決まりだな」
「えっ、決まり、って……」
焦るレベッカに、唇を上げ、紅茶の香りの漂うカフェの窓際の席でクロードは宣言する。
「君の店を出そう。俺も手伝うよ」
優雅なお茶の時間に、公爵はいとも簡単に人生の分岐点になるようなことを言う。
「一緒に君の夢を叶えさせてくれ」
その隣には必ず自分がいると、一言添えて。
数秒の沈黙が流れる。
「わ、私が、ですか?」
慌てて返事をすると、クロードはゆっくりと首を縦に振る。
「ああ。君はいつも、どこか影があった。
笑っていても、優雅に歩いていても、拭えない陰りが」
目を細めると、長いまつ毛の影が彼の白い頬に落ちる。
「…前に一度俺に話してくれた。『私は一人娘だから、家を継ぐために好きでもない人と結婚して、仕事もしなければいけないのだ』と」
繰り返すループの中で、レベッカが話してくれた心のうちを思い出すように、そっと囁く。
「俺の望みは、君が暗い人生を送らずに、毎日笑顔で過ごすことだ。
追放令もでず、家のために皇太子と結婚しなくてもいいように」
クロードは、真っ直ぐにレベッカを見つめる。
彼は、自分の感情ではなく、あくまでもレベッカが幸せに生きることが望みなのだという。
悪い噂を流されて1人で教室に座っていたり、追放令を出され泣いているレベッカを、もう2度と見たくないのだ、と。
「質問を返してすまないが、君の望みや、夢はなんだ?」
腕を組み、クロードはレベッカの気持ちを聞いてきた。
「私の夢、は……」
幼い頃から、ずっと願っていた夢。
前世ではその夢を追いかけて専門学校に入り、勉強し、就職し、忙しく仕事をしていた。
いつかその夢を叶えることを目指して。
「自分の服屋を出して、みんなに似合う服装を売ることです。
素敵な服や靴やメイクをして、キラキラ輝く人たちが見たいんです」
実現できないまま、前世では日々の仕事に追われ、過労で倒れてしまったから。
中学生の時、母の日に作って贈った服を、母はとても喜んでくれた。
初デートに行く友達にメイクをしてあげたら、相手から告白されたと報告してくれた。
背が低いのが悩みだというリリアにパンプスをプレゼントとしたら、恋敵なのに仲良くなった。
ずっと夢見ていて、しかし叶えることができずに諦めた夢を、この転生した乙女ゲームの世界では、できていることが嬉しかった。
ドレスやタキシードを作り、みんなに着てもらい、楽しく過ごしてほしい。
奥底にしまい込んでいた気持ちが、後から後から湧き上がる。
頬を高揚させながら、自分の望みを言ったレベッカを見て、クロードは手を打った。
「決まりだな」
「えっ、決まり、って……」
焦るレベッカに、唇を上げ、紅茶の香りの漂うカフェの窓際の席でクロードは宣言する。
「君の店を出そう。俺も手伝うよ」
優雅なお茶の時間に、公爵はいとも簡単に人生の分岐点になるようなことを言う。
「一緒に君の夢を叶えさせてくれ」
その隣には必ず自分がいると、一言添えて。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
悪魔騎士の愛しい妻
NA
恋愛
望まない結婚を強いられそうになった没落令嬢ヴァイオレットは、憂いを帯びた美貌の貴公子エリックに救われた。
しかし、彼は不老の悪魔だった。
ヴァイオレットが彼の横で胸を張っていられる、若く美しい時間はあっと言う間に過ぎ去った。
変わらぬ美貌のエリックに群がる女たちへの嫉妬で、ヴァイオレットはやがて狂っていく。
しかし、エリックはいつまでも優しく、ヴァイオレットに愛を囁き続けて……
これは、悪魔に魅入られた女の物語。
および、召使いによる蛇足。
★ご注意ください★
バッドエンドのろくでもない話です。
最後に笑うのは悪魔だけ。
一話1000字前後。
全9話で完結済。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる