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第6章 共に夢を叶えよう
46.朝考えると
しおりを挟む「どうして、あなたが……、ここに」
「決まってる……、お前を、迎えに来たんだよ」
瞳孔が開ききっている。
明らかに、テレンスはまともな状態ではない。
――薬の影響なのだろうか。
どうあれ、一刻も早く、ここを離れなければならない。テレンスのそばにいるのは、危険だ。
馬車から降りようと、扉に手を伸ばす。
「おっと……、逃げちゃ駄目だよ」
テレンスは笑みを浮かべたまま、僕の腕を遮る。
「やめてください。人を、呼びますよ」
言いながら、思う。
――本来いるはずの馬車の御者は一体、どこに行ったのだろう?
――テレンスは、彼に何をした?
「何を言っているんだ? ずっと、俺を待っていたんだろう?
知ってるんだ。ずっと、ずっと、俺を待っていてくれていただろう?」
――まただ。
――この、表情。
――湖でのパーティのあの後、豹変したテレンス。
「おっしゃっている意味が、わかりません」
「意地を張ったって、無駄だよ。俺には、全部わかってるんだ……ノエル」
「僕は、ノエルさんじゃないっ!」
テレンスの肩を強く押す。
そのまま、手を前に突き出し、扉側にまわる。
身体の向きを変え、そのまま、外に出ようと扉に手を伸ばす。
そのとき、右腕に嫌な違和感を覚える。
「……っ、何を!」
テレンスは僕の腕に、注射器を突き刺していた。
透明な液体が、針を通して僕の体内に入っていく。
「……一緒に天国に行こう。……ノエル」
意識が遠のいていく……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
激しい頭痛と、吐き気とともに、僕は覚醒した。
「やっと起きた……。なかなか目を覚まさないから、心配したじゃないか」
すぐ近くにテレンスの顔があった。
「ここは……」
見覚えのない天井。
身動きがとれない。
僕はベッドに両手足をくくりつけられていた。
部屋は豪華な内装で、どこかの屋敷の中のようだ。
「大丈夫。ここなら、誰も来ない……」
僕の隣に寝そべるテレンスは、ゆっくりと僕の身体をなで始めた。
「やめろっ、僕に触るなっ!」
僕は身をよじる。ギリギリとロープが手首に食い込んだ。
「恥ずかしがることないだろう? あんなに俺のこと好きだっていってくれたじゃないか?」
コートを脱がせ、シャツのボタンを一つ一つはずしていく。
テレンスの手が、僕の素肌に触れる。
「やめろっ……」
「綺麗だよ……」
僕のあごをつかみ、自分に向けさせる。
思わず僕は顔をそむける。
「ノエル、機嫌を直して。もう俺は、お前から逃げたりしない……」
「だからっ、僕はノエルじゃないんだ!」
必死で訴えるが、テレンスは鼻先で笑うだけだった。
「何を言ってるんだ? ノエル。お前はノエルだよ。だって、俺が間違えるはずがない。この目を、俺が見間違えるはずがない……。俺は、お前の瞳が一番好きだった。まっすぐで、人を疑うことを知らない、汚れを知らない水色の瞳……」
テレンスが頬を寄せる。
避けようとするが、有無を言わさず押さえつけられる。
「んんっ、ん……」
唇が重なる。
「愛してる……」
テレンスの舌が、僕の舌に絡みつく。
「嫌だっ!」
思わず、その舌に噛みついていた。
「ノエル……何で……」
テレンスは口を手でぬぐう。
「目を覚ませよ! ノエルさんはもうこの世にいない。ノエルさんは、自殺したんだろう? 僕は、ルイ・ダグラスだ。ノエル・ホワイトさんじゃない!」
テレンスの瞳に、一瞬強い光が宿った。
「嘘だ……。嘘だ……」
テレンスは頭を抱え、首を振る。
その光は、次の瞬間、狂気に変わっていた。
「この……っ、裏切り者……!!」
テレンスが、僕の首に手を回す。
「ぐっ……、やめ……」
手に少しずつ力を込め、僕の首を締め上げていく。
「俺以外の男に抱かれやがって……、この淫乱がっ……、何で、何で、死んだんだ。俺を置いて……。俺は、ずっとお前をっ、お前だけをっ……」
「苦しっ……」
目の前がかすむ。
四肢を縛られたこの状況では、抵抗らしい抵抗もできない。
うすらぐ意識の中、部屋の扉のドアが開いたのが見えた。
ぼんやりした黒いシルエットの人物が、僕とテレンスに近づいてくる。
テレンスがその人物に気づく様子はない。
「もう、大丈夫ですよ」
その人物は言うと、テレンスの首筋に一瞬のためらいも見せずに注射器を突き刺した。
僕の首を絞める力が緩む。ほんの数秒で、テレンスは目を閉じベッドに突っ伏すように倒れこんだ。
「全く、馬鹿なことをして……。ノエルさんはもういないと、何度も言ったのに……」
そう言って、テレンスの髪をいとおしげに撫でる。
「――可愛そうなお兄様……」
「決まってる……、お前を、迎えに来たんだよ」
瞳孔が開ききっている。
明らかに、テレンスはまともな状態ではない。
――薬の影響なのだろうか。
どうあれ、一刻も早く、ここを離れなければならない。テレンスのそばにいるのは、危険だ。
馬車から降りようと、扉に手を伸ばす。
「おっと……、逃げちゃ駄目だよ」
テレンスは笑みを浮かべたまま、僕の腕を遮る。
「やめてください。人を、呼びますよ」
言いながら、思う。
――本来いるはずの馬車の御者は一体、どこに行ったのだろう?
――テレンスは、彼に何をした?
「何を言っているんだ? ずっと、俺を待っていたんだろう?
知ってるんだ。ずっと、ずっと、俺を待っていてくれていただろう?」
――まただ。
――この、表情。
――湖でのパーティのあの後、豹変したテレンス。
「おっしゃっている意味が、わかりません」
「意地を張ったって、無駄だよ。俺には、全部わかってるんだ……ノエル」
「僕は、ノエルさんじゃないっ!」
テレンスの肩を強く押す。
そのまま、手を前に突き出し、扉側にまわる。
身体の向きを変え、そのまま、外に出ようと扉に手を伸ばす。
そのとき、右腕に嫌な違和感を覚える。
「……っ、何を!」
テレンスは僕の腕に、注射器を突き刺していた。
透明な液体が、針を通して僕の体内に入っていく。
「……一緒に天国に行こう。……ノエル」
意識が遠のいていく……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
激しい頭痛と、吐き気とともに、僕は覚醒した。
「やっと起きた……。なかなか目を覚まさないから、心配したじゃないか」
すぐ近くにテレンスの顔があった。
「ここは……」
見覚えのない天井。
身動きがとれない。
僕はベッドに両手足をくくりつけられていた。
部屋は豪華な内装で、どこかの屋敷の中のようだ。
「大丈夫。ここなら、誰も来ない……」
僕の隣に寝そべるテレンスは、ゆっくりと僕の身体をなで始めた。
「やめろっ、僕に触るなっ!」
僕は身をよじる。ギリギリとロープが手首に食い込んだ。
「恥ずかしがることないだろう? あんなに俺のこと好きだっていってくれたじゃないか?」
コートを脱がせ、シャツのボタンを一つ一つはずしていく。
テレンスの手が、僕の素肌に触れる。
「やめろっ……」
「綺麗だよ……」
僕のあごをつかみ、自分に向けさせる。
思わず僕は顔をそむける。
「ノエル、機嫌を直して。もう俺は、お前から逃げたりしない……」
「だからっ、僕はノエルじゃないんだ!」
必死で訴えるが、テレンスは鼻先で笑うだけだった。
「何を言ってるんだ? ノエル。お前はノエルだよ。だって、俺が間違えるはずがない。この目を、俺が見間違えるはずがない……。俺は、お前の瞳が一番好きだった。まっすぐで、人を疑うことを知らない、汚れを知らない水色の瞳……」
テレンスが頬を寄せる。
避けようとするが、有無を言わさず押さえつけられる。
「んんっ、ん……」
唇が重なる。
「愛してる……」
テレンスの舌が、僕の舌に絡みつく。
「嫌だっ!」
思わず、その舌に噛みついていた。
「ノエル……何で……」
テレンスは口を手でぬぐう。
「目を覚ませよ! ノエルさんはもうこの世にいない。ノエルさんは、自殺したんだろう? 僕は、ルイ・ダグラスだ。ノエル・ホワイトさんじゃない!」
テレンスの瞳に、一瞬強い光が宿った。
「嘘だ……。嘘だ……」
テレンスは頭を抱え、首を振る。
その光は、次の瞬間、狂気に変わっていた。
「この……っ、裏切り者……!!」
テレンスが、僕の首に手を回す。
「ぐっ……、やめ……」
手に少しずつ力を込め、僕の首を締め上げていく。
「俺以外の男に抱かれやがって……、この淫乱がっ……、何で、何で、死んだんだ。俺を置いて……。俺は、ずっとお前をっ、お前だけをっ……」
「苦しっ……」
目の前がかすむ。
四肢を縛られたこの状況では、抵抗らしい抵抗もできない。
うすらぐ意識の中、部屋の扉のドアが開いたのが見えた。
ぼんやりした黒いシルエットの人物が、僕とテレンスに近づいてくる。
テレンスがその人物に気づく様子はない。
「もう、大丈夫ですよ」
その人物は言うと、テレンスの首筋に一瞬のためらいも見せずに注射器を突き刺した。
僕の首を絞める力が緩む。ほんの数秒で、テレンスは目を閉じベッドに突っ伏すように倒れこんだ。
「全く、馬鹿なことをして……。ノエルさんはもういないと、何度も言ったのに……」
そう言って、テレンスの髪をいとおしげに撫でる。
「――可愛そうなお兄様……」
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