上 下
46 / 72
第6章 共に夢を叶えよう

46.朝考えると

しおりを挟む
学園の女子寮、ベッドの上で朝目覚めたレベッカは、寝起きの頭で考える。

 まるでおとぎ話のように、豪華で綺麗で夢のような舞踏会。

 素敵な銀髪の青年の手を取り踊り、星空の下のテラスでひざまづいてキスをされた。

 思い出すだけで、うっとりとため息が出てしまう。
 そして、冷徹公爵のクロードはレベッカのことが好きで、自分と結ばれるために何度も繰り返しているという。

 そこから抜け出したいと心を悩ませているのだと。
 レベッカと舞踏会で共に踊れたこと、ユリウスに奪われなかったこと、追放令が出されなかったこと。

 それが嬉しくて、テラスの手すりにもたれ、涙を浮かべてしまうほどだとは。


(なぜループするのか、その原因を探さなきゃいけないわよね……)


 休日の朝なので、レベッカはベッドでゴロゴロしながら、前世でのゲームのストーリーについて思い出す。


 この乙女ゲーム、『カルテット・シンデレラ』は、名前の通り4人の青年が攻略対象だ。

 王子のユリウス、公爵のクロード、あとは伯爵と騎士がいるのだが、クロードの攻略ルートのストーリーを思い返す。

 クールでつっけんどんな態度の彼に、試験勉強を教えてもらったり、委員会の手伝いを手伝ってもらったりして少しずつ仲を深めていく。

 そして、舞踏会の時にダンスのパートナーとして踊り、彼のルートが確定する。

 ただこれは、ヒロインのリリアでプレイするのが前提だ。

 悪役令嬢のレベッカは、始終ユリウスの取り巻きをしているので、クロードルートでは序盤の「廊下で突き飛ばされる」イベント以来ほとんど出番はなかったはずだ。


 とりあえずそこは置いておいて、彼のルートになってからは、彼のコンプレックスである「ライネル公爵家」と戦うストーリーだ。

 ヒロインのリリアは、まだ社交界に出たばかりのため、両親から反感を買わないように説得をしなければならなかったはずだ。

 格式高いライネル家のご両親を前に、俺の運命の女性だ、と啖呵を切るクロードは、とても男らしかった。

 そうして晴れて結ばれたリリアとクロードは、教会の鐘の下で口付けをする。


『もう、なにも後悔は無い。君を愛している』


 というストレートな愛の言葉に、帰りの満員電車の中で悶絶したのを覚えている。


「……後悔、か」


 その言葉に引っかかり、レベッカの頭の中には一本の道筋が見えた。

 彼は勉強会の帰りの場面を何度も何度も繰り返していると言っていた。

 同じシーンをやり直すなんて、まるでゲームのセーブデータの場所からやり直すみたいだな、と生粋のゲーマーなレベッカは思う。


 じゃあ、自分がゲームを「やり直す」時って、どんな時だろう。


  RPGなら、装備やレベル上げが甘くてボスに勝てなかった時。

恋愛ゲームなら、選択肢を間違えて、攻略対象キャラの好感度が上がらなかった時。


間違ってしまったと『後悔』した時に、セーブデータからやり直すのでは無いだろうか。

クロードがレベッカと結ばれたいのならば、彼の望む通りの道筋を進み、一度も『後悔』しなければいいのではないか?

追放令が出たレベッカを救えなかった。好きでも無いリリアと結婚した。

ユリウスにレベッカが奪われた。

彼が望まない展開のため、何度もセーブ地点である勉強会の帰りのベンチからやり直してるとしたら。
まるで根拠のない仮説だが、試してみる価値はありそうだ。


レベッカはベッドから立ち上がると、一時間後にはクロードとのデートの時間のため、急いで支度を始める。

寝癖のついた髪を梳き、自分のパーソナルカラーに合ったマットなリップを塗る。

深紅の髪に似合う、ダークブルーのワンピースを着て、鏡を見つめて意気込む。

今日は初めてのクロードとのデートだ。
自分らしく楽しもうと、頬を軽く叩く。


*  *  *



休日の午前中、温かい日差しが降り注ぐ、城下町。

待ち合わせ場所である城下町の入り口の街灯の前に容姿端麗な銀髪の青年が立っていた。

ボルドー色のジャケットを着た、高貴な公爵令息。


(かっ…………こよすぎる………!
 改めて、あんなイケメンと並んで歩けることに感謝します神様……!)


 現実ではあり得ないシチュエーションに、レベッカは思わず感激する。


「おはよう、レベッカ」

 手を上げてクロードがこちらを向いた。


「……私が、必ず助ける」

「? 何か言ったか?」

「い、いえ! なんでもないですわ!」


 思わず、覚悟が小さな声で漏れてしまった。

 レベッカは、私が転生したからには、もう彼に後悔はさせないと強く心に誓った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...