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第1章 

9.魔法石訓練、及第点?

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そのまま、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
魔力を液体に平等に込めるというのが、こんなに難しいとは思わなかった。

両手にある十本の指から、同じ量の魔力を放出し、纏わせ、練り、固める。
それだけのことがこんなにもしんどいとは。

何十分経過したのだろうか。ずっと魔力を放出し続けているルナの息は自然と上がり、ふう、ふうと息苦しくなって頬に脂汗が流れた。

横に立つリロイも、アドバイスこそしてくれないが、一瞬も目を逸らさず顎に手を置いたままフラスコの中を見つめている。

ルナの聖女としての素質を見極めようと思っているのだろう。


失望されたくない。

その気持ちでさらに集中力を高めて魔力を注ぐと、ゆっくりと液体がまとまってきた。


そして最後には、カラン、という音が響き、容器の中に輝く宝石が落ちたのだ。


「やったぁ……!」


ルナは張り詰めていた集中の意図が切れ、そのまま椅子に座り込んだ。
力が抜けて、ぜえぜえと肩で息をする。

「おつかれ」

リロイはそう言うと、フラスコの中で錬成仕上がった宝石を取り出した。
親指と人差し指でその宝石を摘み上げ、窓から差し込む太陽の光にかざしている。


「へえ……」


何やら硬さや純度、光の差し込み具合などをくまなく確認しているように見える。
大魔導士リロイの厳しい査定。沈黙に押しつぶされそうになった。


「……今日初めてやったの? この魔法」


長いまつ毛を揺らしながら、リロイの青い目がこちらを向いた。

「そうですが……いかがですか?」

恐る恐るルナが尋ねると、

「下手くそだね」

とリロイが吐き捨てるように言った。

がーん、と眉を下げて口をへの字にして、ルナが机に頭を突っ伏すと、リロイは声をあげて笑った。


「ふふっ、嘘だよ。 なかなかここまで綺麗にできるものじゃない。正直みくびっていたよ」


どうやら及第点のようだが、からかっていたらしい。

機嫌のいいリロイが、錬成した宝石をルナの前にコロコロと転がす。
大粒のカラット。透明な液体だったはずなのに、薄い紫色の宝石になっている。


「まさか初めての錬成で、アレキサンドライトを作り上げるとなんて思わなかったよ。宝石の色は、各々が持つ魔力の個性だ。綺麗な色だね……光の聖女さん」


ぐい、とリロイはルナの顎を掴み、真っ直ぐに目を見据えてきた。

自分が天才ゆえに、凡才の人間には一切興味を持たない、孤高で高貴な大魔導士。

そんな彼が、ルナに興味を持った瞬間だった。
透けるように白い肌、長いまつ毛に垂れ目。泣きぼくろで銀髪の美しい青年。

(近い近い! 美しすぎる……! リロイ様に認められてよかった)

ルナは頬を赤くしながら、頷く。


「皆さんからの期待を裏切らないように、光の聖女としてもっと頑張らなきゃですね」


ホッとしながらそういうと、同意してくれると思ったが、向かいの席に腰を下ろしたリロイは意外にも首を傾げた。


「別に他人がどう思おうが関係ないじゃん。そんなことまで気にするの、お前生きづらそうだね」


自分の才能に絶対的自信を持ち、自分軸で生きている彼らしいセリフだ。
しかし、確かに図星だった。


「大事なのは、お前がこの騎士団でなにをしたいかでしょ」


皮肉屋の彼らしい言葉だが、どうやら励ましてくれているらしい。

自信を持て、と鼓舞してくれているようだ。

リロイの真っ直ぐな瞳で見つめられると、目を逸せない。


「私は、魔獣から人々を救いたいです。……なんて、甘えた考え、直した方がいいですかね」


頬を掻きながら恥ずかしそうにルナが言うと、リロイは形のいい唇を上げた。


「直すとしたらそのネガティブな性格だと思うけど。魔法は間違いなく一級品だよ。
僕が言ってるんだから間違いないでしょ」


なかなか他人を褒めない彼からの言葉は、最大級の賞賛だ。

リロイは黒いネイルをした細い指で、ルナの錬成した宝石を摘み、色々な角度から見つめている。
珍しく上機嫌な様子だ。


「紅茶でも飲もうか。おいしい茶葉があるんだ」


自分の興味のないものにはとことん興味がない、心の読めないサイコパスヤンデレ。

しかしそんな彼が、紅茶をご馳走してくれるらしい。

魔力の訓練は無事成功し、大魔導士リロイ・アイバーソンに少し興味をもたれたようだった。
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