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終章 青銅の蝋燭立て

破滅の王の選んだ道

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「……動いても大丈夫なのか」
 
 蝋燭立てが、満身創痍なナギリに静かに問うと、


「まあ、本当は駄目なんだろう」
 
 
 医師から絶対安静を言い渡されていたが、ずっとベッドに寝ているのも飽きた。
 傷が残らぬよう縫合してくれた事には感謝するが、もう日常生活ぐらいはさせて欲しいものだ。
 
 何か忠告を言おうとした蝋燭立ての唇を、ナギリは片手で制した。

 雪を踏みしめて、一歩距離を詰める。


「お前に言っておかねばならないことがある」


 傷口を押さえながら、息を吐く。


「もう、勝手に消えてしまわないと約束しろ」

 
 蝋燭立ての顔を覗き込み、ナギリは強い口調で命じる。


「ちゃんと約束しないと、お前はまたはぐらかしそうだからな」


 今までの経験上、この千年族の男は、肝心な事は絶対に口にしない。

 ナギリが憮然と言うと、蝋燭立ては少しだけ眉を寄せた。


「そんなに、俺は信用が無いか」

「当たり前だ」


 お前はいつもそうだ、とナギリは小言を続けたくなった。


 ―――しかし次の瞬間、物凄い速さで、蝋燭立ては自身の胸にナギリを引き寄せた。


 わ! と、ナギリは驚いて声を上げる。


 すると、耳元で、


「……雪の間は、声が遠くまで響くぞ」


 青銅の蝋燭立てが、先ほどのナギリの台詞の真似をして耳元で言う。
 抱きしめられている今は見えないが、きっと彼の瞳は細められているのだろう。
 
 思い出した。こいつは案外、意地悪だったのだ。


「――――生意気な」

 ナギリは、自分の頬が熱くなっているのに気がついた。
 悔しくて、胸に顔を埋めると、蝋燭立ての心臓が一際大きく鼓動した。



「約束しよう。俺は、王のものだ」



 青銅の蝋燭立てが耳元で囁く。



「どうか、ずっと側に」



 暗い山奥に生まれた番犬が愛した、銀の瞳の野獣の王。
 その明るい光の側に居たいと、望んだ。


 優しく、温かく、強い抱擁。
 
 ナギリの頬に、涙が一粒流れる。


「……嫌だと言っても、離さんぞ」


 胸に空いた空虚な穴は、もうきっと広がらない。


 時間軸の違う者と結ばれる事は不可能かもしれないけれど。

 今この一瞬が永遠なのだと、ナギリは蝋燭立ての背中に腕を回した。




* *  *




 ナギリは亡国最後の王であったと記されている。

 国民のためになる政策を積極的に行い、皆から愛された王は、誰とも子を為すことはなかった。

 八十四歳で生涯に幕を閉じた後は、破滅の王と呼ばれたという。



 王の棺には、錆びたちっぽけな蝋燭立てがそっと添えられていた。

 それ以降、不老不死と恐れられた黒髪の男の姿を見た者は、誰ひとりいなかった。


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みんなの感想(4件)

cana
2022.12.13 cana

遅かりし由良助・・・投票終わっていた。

たかつじ楓
2022.12.13 たかつじ楓

お気持ちだけで嬉しいです!
ありがとうございました(^O^)

解除
cana
2022.12.13 cana

泣いた。BLと思って避けていたけれど、読んでよかった。
いつでも全ては望めない。幾つかの選択肢の中で、自分に何が大切か考えて、選び取る。
楽な道を選べば悲しみは少ないかもしれないけれど、何かを失う。
辛くても、本当に欲しいものを選び取れるようになりたい。
なれないから、憧れるのだろうなと思った。

たかつじ楓
2022.12.13 たかつじ楓

cana様、読んでいただきありがとうございます!

王は全てを手に入れられるけれど、1番大切な人を失いかけたので、もう絶対に手放さないと思います。
実生活でも、私も大切なものを見誤らないようにしたいです。

とても素敵なご感想、ありがとうございました!

解除
田沢みん
2022.11.01 田沢みん

よっしゃ!
やっと会えた!
ここから大きく動くだしますね。
楽しみです😆💕

たかつじ楓
2022.11.01 たかつじ楓

>みん先生
感想ありがとうございます😊
ついに10年ぶりに会えました…💕
次は過去編が始まります!

解除

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