【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

第4章 今夜処刑台にて

お前のいない千年など

　胸が熱かった。
　熱い血が流れ出て、そして急速に冷めていく。
　もう、少しも動けない。
　

　蝋燭立ては、駆け寄りナギリの顔を覗き込んだ。
　駆け寄るなんて事も出来るのか、とナギリは心の中で感心したが、蝋燭立ては手錠をかけられたままなので、ナギリの傷の手当てをする事も、体に触れる事も出来ない。

　その漆黒の瞳は確かにこちらを向いていて、そしてそこから一筋、涙が落ちた。


「お前も泣けるのか。初めて知った」


　普段だったら、その涙を拭ってやるのに。
　床に倒れたままのナギリは、指一本動かせない。
　
　ああ、こんな時になって蝋燭立ての新たな表情を知ることになるとは。
　もっともっと、新しい蝋燭立てを知りたかった。
　そしてその全部を受け入れ、好きになりたかった。

　しかし、もうそれも無理だろう。


「ナギリ。お前の居ない千年など、どう生きていけばいい」


　相変わらずのゆっくりとした声、白い頬に透明な雫が落ちる。



　これ以上綺麗な涙がこの世にあるだろうか、と、ナギリは思った。

　草原で、迫り来る追手に殺されるはずだった。

　しかし故郷を捨てた番犬のきまぐれによって生き延びる事になった。




　寂しかった。心は扇情と恋情を吸い込み、孤独の穴は時が経つほど広がっていった。

　でも、遠く離れていても、心はいつも傍にあったのだ。



「青銅の蝋燭立て。―――この広い世界で、私を見つけてくれてありがとう」


　そう言って、ナギリは目を閉じた。
　
　もう、二度とその瞳を開かぬように。