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第4章 今夜処刑台にて

呪いの瞳

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 冷たい処刑場の床が背中から体温を奪っていく。
 額に十字傷のある男は、ゆっくりとナギリへと近づいた。

 剣を握り直し、とどめの一撃を放つため、ナギリの胸へと剣を振り下ろした。


 ――その瞬間、夜空を真っ白にするような、一筋の雷が落ちた。

 その雷光で、組み敷かれたナギリの瞳が、一瞬、銀色に染まった。
 リーフェンシュタールの振り下ろそうとした剣が、ほんの刹那、止まった。

 その隙を見逃がさなかった。

 ナギリは最後の力を振り絞って、真ん中から折れた自らの剣を、リーフェンシュタールの左胸に突き刺した。

 折れた剣では、突き刺すというよりは叩きこむという表現の方が正しいだろう。
 剣としての用途を失った銀製の板を、覆いかぶさってきた男の胸に渾身の力で突き立てる。
 

 獣の咆哮のような声を上げ、リーフェンシュタールが夜空に轟いた。


 胸に刺さったそれを抜こうとするが、柄の部分まで深く肉へと差しこまれたため、びくとも動かない。
 
 リーフェンシュタールは体を弓なりに反らせると、口から血を吐いた。
 生温いそれは、ナギリのドレスにかかる。

 奥歯を噛みしめ、眼球だけを動かし、リーフェンシュタールはナギリを見た。


 最後に、捨て台詞を。


「――俺を殺しても、お前のその瞳は次の災いを産む。覚悟しておくのだな」


 リーフェンシュタールは自ら呪いの言葉を吐いた。闇の中、額の十字傷が不気味に浮かぶ。
 
 ナギリはその男を見上げた。


 故郷を去り、死地で戦い続けることを余儀なくされた、哀れな叔父貴。


「この瞳を呪った事もあったが、もう運命を嘆いて生きるのはやめた。

 私は未熟なうえに傲慢で、先代の王達が積み重ねてきた歴史にあぐらをかいているだけだが。

 しかし―――未来はどうなるかわからんだろう?」


 憎しみの業火でその身を焦がし、復讐だけを糧に生きてきた男は、口の端を吊り上げた。

 目尻には皺が寄る。宮廷を燃やしたあの日から、歳を重ねたことを表していた。


「言うじゃないか。
 ……誓いを破るほど落ちぶれてはいない。あいつは好きにするがいい」
 

 蝋燭立てを指差して、ゆっくりと、リーフェンシュタールは処刑場の床に倒れ込んだ。
 

 何かから解放されたような、そんな顔をしていた。
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