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第4章 今夜処刑台にて
処刑台にて
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* * *
処刑の時がやってきた。
処刑場は、街の中心にある。二階ほどの高さの階段を上ると、正方形状に作られた足場の中心へと行き、そこで処刑人に首を刎ねられる手順だ。
何人も殺してきた処刑場の中央部分は、赤黒い染みがこびりついてしまっている。
騎士達はその処刑場を取り囲み、腕を組んで今か今かと待ちわびている。
「見張りが二人いなくなった」、「どこでさぼってやがる」という者もいるが、そいつらは、草葉の陰で折り重なるように二人の死体が捨てられている事を知らない。
敵前逃亡をした者、他国に裏切った者。
そういった人間はすぐに捕えられ、皆の見ている前で見せしめに殺されるのだ。
そうやって騎士達に恐怖心を植え付け、士気を高めるためである。
牢が開かれ、黒髪の男が両脇を抱えられ、その処刑台に上がる。
妙に歩みが遅いので、両脇の男達はこの男が処刑を嫌がっているのかと思い、何度も早く歩けとその頬を殴る。しかし、黒髪の男は、ゆっくりとした歩みを止めない。
処刑場の中心には、この国の一番の権力者である将軍が立っている。
浅黒い肌、分厚い軍服の上からでも分かるほどの隆々とした筋肉。
そして、目を向けずにはいられない、彼の額に刻まれた、生々しい十字の傷跡。
リーフェンシュタール将軍は、貫禄のある佇まいで処刑場の中央、処刑人のすぐ隣に立っていた。
一度目を合わせれば、相手を震え上がらせることが出来るような、冷酷な瞳だ。
最後は突き飛ばされるようにして処刑場の中心に連れてこられた蝋燭立てを、じっと見つめている。
周りの騎士達からはたちまち声が上がる。みな拳を振り上げ叫ぶ。
殺せ、殺せ、と。
狂気に満ちた声が交差する中、リーフェンシュタールが蝋燭立てに向かって問う。
「お前だな。何度も我が軍に一人で立ち向かってきた、黒髪の死神と言うのは」
腹に響くような低く重圧な声。心の弱い者ならば、それだけで逃げ出してしまいそうな気迫だ。
蝋燭立ては答えない。答えないばかりか、今まさに処刑されようという段階でも、その無表情は崩さず、真っ直ぐにリーフェンシュタールに視線を合わせる。
群衆達の声にかき消されそうなほど小さな声で、
「無駄だ。お前では王を殺せない」
はっきりと言い放った。
途端、リーフェンシュタールの目が見開かれた。
「―――――殺れ!」
吐き捨てるように叫ぶと、処刑人は蝋燭立ての首元を乱暴に掴んだ。
そこに、何人もの血を吸った禍々しい斧が突き立てられる。
周りでそれを見ている騎士達から歓声が上がる。
何度も殺せといい、騎士達の高揚は最高潮だった。
「その処刑、待て」
凛とした声が、殺伐とした処刑場に響き渡る。
処刑人は斧を降ろして、声のした方向を見た。
そこには、深紅のドレスを着た、一人の女が立っていた。
ふてぶてしく、リーフェンシュタールを見つめている。
処刑場は一気に沈黙に包まれた。招かれざる客の登場に、水を打ったかのように静まり返る。
「イゼル王―――」
リーフェンシュタールは一瞬、その姿を見て信じられないものを見たかのように呟いた。
処刑の時がやってきた。
処刑場は、街の中心にある。二階ほどの高さの階段を上ると、正方形状に作られた足場の中心へと行き、そこで処刑人に首を刎ねられる手順だ。
何人も殺してきた処刑場の中央部分は、赤黒い染みがこびりついてしまっている。
騎士達はその処刑場を取り囲み、腕を組んで今か今かと待ちわびている。
「見張りが二人いなくなった」、「どこでさぼってやがる」という者もいるが、そいつらは、草葉の陰で折り重なるように二人の死体が捨てられている事を知らない。
敵前逃亡をした者、他国に裏切った者。
そういった人間はすぐに捕えられ、皆の見ている前で見せしめに殺されるのだ。
そうやって騎士達に恐怖心を植え付け、士気を高めるためである。
牢が開かれ、黒髪の男が両脇を抱えられ、その処刑台に上がる。
妙に歩みが遅いので、両脇の男達はこの男が処刑を嫌がっているのかと思い、何度も早く歩けとその頬を殴る。しかし、黒髪の男は、ゆっくりとした歩みを止めない。
処刑場の中心には、この国の一番の権力者である将軍が立っている。
浅黒い肌、分厚い軍服の上からでも分かるほどの隆々とした筋肉。
そして、目を向けずにはいられない、彼の額に刻まれた、生々しい十字の傷跡。
リーフェンシュタール将軍は、貫禄のある佇まいで処刑場の中央、処刑人のすぐ隣に立っていた。
一度目を合わせれば、相手を震え上がらせることが出来るような、冷酷な瞳だ。
最後は突き飛ばされるようにして処刑場の中心に連れてこられた蝋燭立てを、じっと見つめている。
周りの騎士達からはたちまち声が上がる。みな拳を振り上げ叫ぶ。
殺せ、殺せ、と。
狂気に満ちた声が交差する中、リーフェンシュタールが蝋燭立てに向かって問う。
「お前だな。何度も我が軍に一人で立ち向かってきた、黒髪の死神と言うのは」
腹に響くような低く重圧な声。心の弱い者ならば、それだけで逃げ出してしまいそうな気迫だ。
蝋燭立ては答えない。答えないばかりか、今まさに処刑されようという段階でも、その無表情は崩さず、真っ直ぐにリーフェンシュタールに視線を合わせる。
群衆達の声にかき消されそうなほど小さな声で、
「無駄だ。お前では王を殺せない」
はっきりと言い放った。
途端、リーフェンシュタールの目が見開かれた。
「―――――殺れ!」
吐き捨てるように叫ぶと、処刑人は蝋燭立ての首元を乱暴に掴んだ。
そこに、何人もの血を吸った禍々しい斧が突き立てられる。
周りでそれを見ている騎士達から歓声が上がる。
何度も殺せといい、騎士達の高揚は最高潮だった。
「その処刑、待て」
凛とした声が、殺伐とした処刑場に響き渡る。
処刑人は斧を降ろして、声のした方向を見た。
そこには、深紅のドレスを着た、一人の女が立っていた。
ふてぶてしく、リーフェンシュタールを見つめている。
処刑場は一気に沈黙に包まれた。招かれざる客の登場に、水を打ったかのように静まり返る。
「イゼル王―――」
リーフェンシュタールは一瞬、その姿を見て信じられないものを見たかのように呟いた。
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