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第4章 今夜処刑台にて

何者かによって

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*  *  *

 アンセルドの部屋に、他のカティをすべて集めた。
 裏切り者とはいえ、死人を後ろ手に縛ったままは駄目だと、縄をほどき、彼の上にシーツをかぶせる。

 シュジュは部屋に入るや否や、アンセルドの死に様を見て怯えたような悲鳴を上げた。
 ティナの反応は冷たく、

「王を裏切るなど、馬鹿な男」

 と呟き俯いた。
 
 レナードが、銃弾をかすめた脇腹に応急処置として布を巻いている。
 大丈夫かと尋ねると、「かすり傷ですから」と言ってのけた。


 アンセルドが読んでいた、リーフェンシュタール軍事国家からの書簡は、暗号交じりの文章ですぐに解読はできなかった。
 そして彼の机の引き出しの中に、自国語で書かれた偽の密書が見つかった。
 字が、ウィリーに似せて作られている。

 おそらくアンセルドはもう一人の軍事機密を知っていたウィリーに罪を着せるつもりだったのだろう。

「そんな、僕を犯人に仕立て上げようだなんて、酷い」

 五連大砲の修理をしていたウィリーはすすだらけの白衣を着て、偽の密書を手に取ると大袈裟に反応した。

「お前の事は少しも疑っていない。機械馬鹿のお前が、国を裏切るメリットは無いからな」

 とナギリが言うと、

「僕の事良く分かってるじゃない」

 と笑った。

 レナードはやはり傷が少し痛むのか、渋い顔をしながらウィリーに話しかける。

「五連大砲の修理はあとどれほどかかる」
 
「少なくともあと丸一日はかかるよ」

 ウィリーの瞳は充血して真っ赤だし、幾分か頬もこけている様子だ。
 あれほどの兵器を一人で修理しているのだから、相当な体力と気力を消耗しているのだろう。


「リーフェンシュタールの軍の第一陣は、どうやららしい。

 五連大砲が明日いっぱいで修理が終わるということは伝わっているだろうから、修理が終わる前、明日中にもう一度攻めてくるか。
 それとも陣の建て直しに時間を要するため今回は諦めるか、可能性は五分だな」


 ナギリが書簡を眺めながら言うと、ウィリーが、

「へえ、この国にも守護神がいるんだね」
 
 と感心した。
 ナギリは動揺を表に出さぬよう黙っていたが、傍らのレナードだけは、ナギリの横顔をじっと見つめていた。

 大陸随一の兵器が正常に作動する時にハーディス王国に攻め入っても、敗北するということは相手も分かっているのだろう。

 攻めてくるか、気を窺うか。
 十字傷の男、リーフェンシュタールはどんな決断を下すのだろう。


「城下の者達は同盟国に避難させ、宮廷には要塞を降ろすしかなさそうですね」

 レナードの提案に、とギールクも同じく頷く。
 ハーディス王国の宮廷には、要塞が装備されていた。

 分厚い石造りの壁を宮廷の周り一帯を囲むように降ろすのである。
 騎士を何十人も集めてやっと降ろせるほど、相当大きな要塞で、人はもちろん、虫一匹城内に入れないように造られている。
 多少の砲撃や弓矢などにはびくともしないのは実践済みだ。

 攻の五連大砲に、防の要塞。
 そして精練された護衛隊と近衛隊。

 ――ハーディス王国が無敵の軍事力を誇ると謳われている所以である。

 しかし、要塞を降ろすと外からのいかなる侵入者も防げるが、裏を返せば宮廷内にいる者もいっさい外へ出る事は出来ないのである。
 いわゆる籠城、というわけだ。

 そのため、大量の食糧や資源を備蓄している地下倉庫がある。
 
 例えリーフェンシュタールの軍が攻め込んできても、五連大砲を修理し終わるだけの時間が稼げればそれでいい。
 ナギリは口元に手を置いき、しばらく思案した。


 王の取るべき行動は一つだ。


「決まりだ。ギールク、護衛隊を集めろ。要塞を下ろすぞ!」


 その掛け声に、ギールクが敬礼をして準備に取り掛かる。レナードも慌ただしく部屋を出ていく。


 ナギリは目を閉じて、心の中で念じた。

 王国の平和、部下と国民の命を取るべきなのだ。


 守るべきものと、たった一人の千年族の男を天秤にかけてはいけないのだ。
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