【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!

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第4章 今夜処刑台にて

番犬の使命

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「――――何が言いたいんだ?」

 と問うと、鶴細工はしばらくじっとこちらを見ていた。蝋燭立てと同じ、漆黒の瞳孔。
 言おうかどうしようかたっぷりと溜めた後、

「少し前に、この王国が黒十字の旗を掲げる国に攻め入られる夢を見た」

 しん、と耳の奥が静かになった。
 黒い十字旗――それは、リーフェンシュタールが、将軍となった軍事国家の旗である。

 瞳がこぼれんばかりに目を見開いて、ナギリは息を飲む。

「そして僕がそんな夢を見たということは、他の千年族もその夢を見たということだ」

 言っている意味、分かるかな、と鶴細工は組んだ両手の上に顎を乗せて、じっとナギリを見つめてきた。

「……まさか」

 頭の中で、全ての事が一本につながるような感覚に陥った。

 鶴細工は、表情を引き締めてじっとナギリを見据えた。
 軽い印象のする彼から見る、初めての厳しい表情だ。

「ずっと不思議だったんだ。
 ハーディス王国が他国から攻められるという夢はここ数年で何度も見た。
 しかし、結局現実では、君はずっと平和な毎日を過ごしていただろう? 
 それで気がついたんだ。
 同じように予知夢を見る誰かが、自ら手を加える事によって未来を捻じ曲げてるんだって、ね」


 頭が真っ白になった。

 しかしそれに反して体は熱くなる。
 脳が考え出した仮定に、すぐに心の整理が出来なかった。


 窓の桟に腰掛け、足を組んで、鶴細工はうすら笑いを浮かべている。

「湖のほとりで青銅の蝋燭立てに再会した時、すぐに分かったよ。
 ああ、彼は山を下りた後も、まだ番犬として生きているのだと。
 あれほど、自分の使命に縛られた奴は見た事が無い。
 ただ、獣を討つためでなく、獣の王を守るために剣を振るっているのには、驚いたけど」


 鶴細工は、蝋燭立てと同じ千年族とは思えないほど流暢に喋る。

 微動だにせず、人形のように眠る蝋燭立ての横顔を思い出した。
 そうやって瞳を閉じて、この国の崩壊をいつも見ていたのか。
 
 彼はいつも唐突にいなくなる。
 追いかけようとしたときには、その背は遥かかなた見えなくなっている。

 実に緩慢な歩みで、彼は王国の、王の敵とたった一人で戦っていたのか。
 ナギリは急に体中の力が抜け、ソファに座りこんだ。こめかみを押さえて目を見開く。

 ああ、自分は何という思い違いをしていたのだろう。
 
 心の中で彼の事を、王の寵愛を拒み、姿を消す愚か者だと思っていた。
 
 ――本当は、むしろ非情なほどに、のだ。

 
 千年族として山の上で一生を終える運命を捨てて、異郷の地で一人、剣を振るう。

 何も語らず、見返りも求めずに。
 
 それが、あの男の愛情の表し方だというのか。
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