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第3章 止まらぬ想い
もう戻れない
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「――初めて王を見た時、神話で読んだ天使が降りてきたのかと思いました」
弱々しい調子で、ティナは語りだした。まだお互いが幼かった頃、父と母の写真を手に泣いていたナギリに、ハンカチを差し出したあの時の事を。
「我が国の書庫の隅で泣いていたあなたは、弱々しくて、でも誰よりも美しくて――わたくしはこの人に会うために生まれてきたんだと思いましたわ」
大粒の涙が、次から次へと溢れだしティナの頬を濡らす。
およそ上品とは言えない泣き方で、何度もしゃくりあげながら。
「わたくしはずっとあなたの事だけを想っております。
あなたのことだけを愛するように育てられたのです。
わたくしだけを愛してくれないのなら、今すぐにでも殺してください」
かすれた声で、そう訴えるティナは本気であった。
きっと、ナギリの一言によってはそのまま窓を開け城下に身を投げるのも厭わない、そんな鬼気迫る調子だった。
「すまない。私の不手際だな」
細い腕を握り、引きよせた。
まつ毛は涙に濡れ、その瞳は「愛されたい」と語っている。
纏っていた外套を脱ぎ捨てた。
「抱くぞ」
そう一言だけ言って、細い首に噛みつくような口づけを落とす。
ティナの口からためらいがちの、しかし熱い吐息が漏れる。腰を抱きあげ、猫足のソファに押し倒す。
撫でた髪からは甘い薔薇の香りがした。
おざなりの抵抗をする手首を掴み、上気し赤みの差した肌に指を這わせる。
ふと、涙がこぼれた。
何かの間違いではないかと、頬に垂れた雫を拭うも、後から後から溢れ出て、止まらない。
その涙は組み敷いたティナの胸元に落ちる。
出窓から差し込む月明かりに照らされたソファの上、ナギリは泣いた。
完全な体に不安定な心。
誰もが羨む、神から祝福された美しさと、絶対的な権力を手にしているというのに、どうしてこんなにも哀しいのだろう。
どんなに美しい女を抱いても、どんなに強き男に抱かれても、永遠に満たされることのないこの心は渇き続ける。
ティナの大きな瞳に映る自分の顔。
そして気づいてしまったのだ。
私にはもうあの男しかいないのだと。
自分でももうどうしようもないほど、青銅の蝋燭立ての事を愛してしまったのだ、と。
弱々しい調子で、ティナは語りだした。まだお互いが幼かった頃、父と母の写真を手に泣いていたナギリに、ハンカチを差し出したあの時の事を。
「我が国の書庫の隅で泣いていたあなたは、弱々しくて、でも誰よりも美しくて――わたくしはこの人に会うために生まれてきたんだと思いましたわ」
大粒の涙が、次から次へと溢れだしティナの頬を濡らす。
およそ上品とは言えない泣き方で、何度もしゃくりあげながら。
「わたくしはずっとあなたの事だけを想っております。
あなたのことだけを愛するように育てられたのです。
わたくしだけを愛してくれないのなら、今すぐにでも殺してください」
かすれた声で、そう訴えるティナは本気であった。
きっと、ナギリの一言によってはそのまま窓を開け城下に身を投げるのも厭わない、そんな鬼気迫る調子だった。
「すまない。私の不手際だな」
細い腕を握り、引きよせた。
まつ毛は涙に濡れ、その瞳は「愛されたい」と語っている。
纏っていた外套を脱ぎ捨てた。
「抱くぞ」
そう一言だけ言って、細い首に噛みつくような口づけを落とす。
ティナの口からためらいがちの、しかし熱い吐息が漏れる。腰を抱きあげ、猫足のソファに押し倒す。
撫でた髪からは甘い薔薇の香りがした。
おざなりの抵抗をする手首を掴み、上気し赤みの差した肌に指を這わせる。
ふと、涙がこぼれた。
何かの間違いではないかと、頬に垂れた雫を拭うも、後から後から溢れ出て、止まらない。
その涙は組み敷いたティナの胸元に落ちる。
出窓から差し込む月明かりに照らされたソファの上、ナギリは泣いた。
完全な体に不安定な心。
誰もが羨む、神から祝福された美しさと、絶対的な権力を手にしているというのに、どうしてこんなにも哀しいのだろう。
どんなに美しい女を抱いても、どんなに強き男に抱かれても、永遠に満たされることのないこの心は渇き続ける。
ティナの大きな瞳に映る自分の顔。
そして気づいてしまったのだ。
私にはもうあの男しかいないのだと。
自分でももうどうしようもないほど、青銅の蝋燭立ての事を愛してしまったのだ、と。
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