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第3章 止まらぬ想い

アンセルドの来訪

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 朝早く、薄暗い地下室へと行ったが、五連大砲の修理の方はなかなか順調に進んでいるようだった。

 着ている白衣はすすで真っ黒になっていたが、天才技師と名高いウィリーはナギリの訪問にも手を止めることなく大きなその兵器を分解し、整備を続けていた。

 手伝いを寄こすか、と尋ねるも一人で大丈夫と言ってきかない。

「それよりアンセルドには一応言っておいた方がいいんじゃないかなあ」

 とウィリーが言うので、

「そのつもりで、後で部屋に呼んでおいた」

 と返す。
 軍事に関する事は、戦略を練る事が仕事の軍師には、伝えておいた方が確かにいいだろう。


 昼過ぎ、アンセルドが「失礼いたします」と音も無く尋ねてきた。

 涼しげな表情で眼鏡を押し上げた彼だったが、その頬が少し、腫れている。


「どうした、その頬」


 尋ねると、アンセルドは少し困ったように言い淀んで、

「さきほど一階の廊下でティナ殿に話しかけられて」

「ああ……」

 すぐに合点がいった。


 どこに行くのかと聞かれ、王の部屋へ、と言ったら、夜伽の相手に行くのだと勘違いされたのだろう。

 普段軍事の話は執務室でするものだから、そう思われても仕方がない。

 それにしても軍師にまで手を上げるとは、血気盛んな女である。


「なんのために二重螺旋階段を作らせたのか、意味がないな」


 王の部屋には入り口と出口があり、部屋へ入る者と、出る者が決して顔を合わせないような造りになっている。

 それはその日夜伽を命じられた者が誰なのかが分からないように配慮されたもので、カティ達の争いを無くすための二重螺旋階段だ。


 しかし、一階の廊下で起きた押し問答には対処しきれない。

 ナギリが苦笑いをしていると、アンセルドは王に頬が見えないよう顔をそむけた。
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