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第3章 止まらぬ想い
ギールクの慰め
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「王、ちょっと陣営の事で確認して欲しいんだが」
正門を警護する護衛隊長のギールクが、王の部屋の扉を叩いた。
しかし返事が無い。
ギールクは不思議に思い、扉を開けそっと中へ顔を出す。
明かりをつけない真っ暗な部屋の中を見渡す。
しばらくして目が慣れてきたら、ギールクはナギリが机に突っ伏しているのに気がついた。
「おい、寝てるのか?」
明かりはつけないまま、ギールクは近づいた。
いつも自室でも凛とした佇まいを崩さないナギリが、突っ伏すなど珍しい。
その背に触れようとした瞬間、ナギリは抑揚のない声でうわ言のように呟いた。
「―――私に愛されたいと言う者は数え切れぬほど居るというのに、どうして」
と、苦しそうに。
ギールクはナギリの声が震えているのに気がつくと、眉根を寄せた。
珍しく王が弱音を吐いている。
しかし、ギールクは腕の立つ騎士であるが、落ち込んでいる者を慰めるような言葉をすぐに思いつくような、器用な男ではなかった。
「……何があったか知らねーけど」
こういう時なんて言えばいいのか分からん、と頭を掻き、ギールクは困ったように唸り声を上げる。
「お前は優しいから、愛して欲しいと言われたらそれに全力で応えてしまうんだろ」
暗闇の中そっとナギリに顔を寄せる。
「神から授けられた魔性の瞳だなんて言われているが、俺にはお前のその瞳が、呪われているものだと思っちまうよ。
元々、人間は一度に一人の相手しか愛せないようになってるってのに」
浅黒い肌に、鍛え抜かれた体。
部下の信頼も厚いギールクの言葉は、ぶっきらぼうだがどこか温かい。
「とにかく泣くなよ。
俺は惚れた女が泣くのは見てられねぇ性分でな」
「王に性別は無い。それに泣いてもいない」
「そーかい」
西部の港町出身のギールクは、少々口が悪い。
乱暴にナギリの頭を撫でる。
「今から俺の部屋に来るか。
嫌な事なんか忘れさせてやるよ」
「…本当にお前は情緒のない馬鹿者だ」
「おう、悪かったな。嫌いじゃないだろ?」
カティの中でも一番年上だというのに、悪戯盛りの少年のような顔でギールクは口元を緩めた。
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「おい、寝てるのか?」
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「―――私に愛されたいと言う者は数え切れぬほど居るというのに、どうして」
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しかし、ギールクは腕の立つ騎士であるが、落ち込んでいる者を慰めるような言葉をすぐに思いつくような、器用な男ではなかった。
「……何があったか知らねーけど」
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「お前は優しいから、愛して欲しいと言われたらそれに全力で応えてしまうんだろ」
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「とにかく泣くなよ。
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「そーかい」
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