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第3章 止まらぬ想い
報われない恋
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「答えないってことは肯定だね。
ま、それでもいいや」
ソファに座りこんで、ウィリーは唇を尖らせた。
しかし返答に戸惑い黙ったナギリを見ると、おかしそうに口の端を吊り上げた。
顔の前に揃えた手を置き、
「僕は、恋っていうのは一人でするものだと思うんだよ。相手が自分をどう思っているかは関係ない。
心の中で、そっと相手の事を想う。それが恋だ。
僕は君が好きだから、それでいいのさ」
と、何の損得勘定も無く言ってのけるのだ。
「報われないよねぇ、うん」
店中、壁時計や鳩時計、振り子時計など大小様々な時計に囲まれた、今にも潰れそうな城下町の修理屋で、ドライバー片手に仕事をするウィリーは、髪は油で汚れていたし服もみすぼらしかったが、ナギリの目には誰よりも輝いて見えたのだ。
恐ろしいほどの集中力と、並はずれた手先の器用さを持った男だ。
こんな所にダイヤモンドの原石がいたのだと、その場でナギリは彼を宮廷へと招いた。
「僕はあの古ぼけた時計屋で一生を終えるはずだったんだ。
それなのに宮廷に招かれて、しかもカティにまでしてくれた。
その上を望んじゃあ罰が当たるってものさ」
ただ、たまには僕の事も夜伽に呼んでね、と茶目っ気たっぷりにウインクするウィリーに、自然と笑みがこぼれる。
そうして立ち上がったウィリーだったが、
「ああ、それと。大事な話を忘れてた」
手をぽん、と打ち、思い出したように続けた。
「あのさ、五連大砲だけど、少しガタがきてるから修理したいんだよね」
どう考えてもびっくり箱を仕掛ける前にいち早く話すべきであろう、軍事に関する重要な出来事を、いともあっさりと切り出した。
五連大砲と言うのは、ハーディス王国の誇る巨大兵器であった。
丘の上にある城の胴部に仕込まれてある、その名の通り五つの大砲である。
一つが、大人の身長の二倍ほどもある大きな物で、中に詰める爆薬は飛距離も破壊力も、確認されている内では大陸一だという代物だ。
一度有事になれば、おそらく三つ先の国まで焼け野原にすることが出来るその兵器は、未だ使った事こそ無いが、黒々とした姿を城の中腹から覗かせているだけで、王国に反感を持つ他国への牽制へとなっているようだ。
その効果があってか、城の再建から今まで、大規模な戦争を仕掛けられた事は無い。
しかし、どれほど強威な兵器とはいえ、整備を怠ればいざという時に使用できない。
五連大砲は城が作られた八年前からあるのだから、確かに修理は必要だろう。
「どのくらいでできる?」
「うーん、一週間。……と言いたいところだけど、愛しのナギリ様のために四日で終わらせるよ」
右手の四本指を立ててナギリに掲げ、ウィリーは白い歯を見せる。
「よし。では早速取りかかってくれ。
しかし、修理中に他国に攻め入られたら、いくら護衛隊を配置してはいても大変な事になる。
この事はくれぐれも秘密裏に頼むぞ。
宮廷の者にも誰にも言ってはならん」
「もちろんそのつもりだよ」
誰にも知られず、国の命運を未来を担う僕ってまるで英雄だね、などと軽口を叩くウィリーだが、史上最大の兵器である大砲の設計図から、その複雑な構造の全てを完璧に熟知している彼は、やはり王国最高の技師であろう。
頼んだぞ、と念を押す。
それに笑顔で答えた後、さあこれから三日三晩寝ずに大砲の修理だ、と嫌そうに言いながらも、目は輝いている。根っからの機械マニアだ。
そしてひらひらと手を振って部屋から出ていった。
そこら中に散乱した紙の後処理もせず、ウィリーは颯爽と五連大砲のある地下の機械室へと向かうのであった。
ま、それでもいいや」
ソファに座りこんで、ウィリーは唇を尖らせた。
しかし返答に戸惑い黙ったナギリを見ると、おかしそうに口の端を吊り上げた。
顔の前に揃えた手を置き、
「僕は、恋っていうのは一人でするものだと思うんだよ。相手が自分をどう思っているかは関係ない。
心の中で、そっと相手の事を想う。それが恋だ。
僕は君が好きだから、それでいいのさ」
と、何の損得勘定も無く言ってのけるのだ。
「報われないよねぇ、うん」
店中、壁時計や鳩時計、振り子時計など大小様々な時計に囲まれた、今にも潰れそうな城下町の修理屋で、ドライバー片手に仕事をするウィリーは、髪は油で汚れていたし服もみすぼらしかったが、ナギリの目には誰よりも輝いて見えたのだ。
恐ろしいほどの集中力と、並はずれた手先の器用さを持った男だ。
こんな所にダイヤモンドの原石がいたのだと、その場でナギリは彼を宮廷へと招いた。
「僕はあの古ぼけた時計屋で一生を終えるはずだったんだ。
それなのに宮廷に招かれて、しかもカティにまでしてくれた。
その上を望んじゃあ罰が当たるってものさ」
ただ、たまには僕の事も夜伽に呼んでね、と茶目っ気たっぷりにウインクするウィリーに、自然と笑みがこぼれる。
そうして立ち上がったウィリーだったが、
「ああ、それと。大事な話を忘れてた」
手をぽん、と打ち、思い出したように続けた。
「あのさ、五連大砲だけど、少しガタがきてるから修理したいんだよね」
どう考えてもびっくり箱を仕掛ける前にいち早く話すべきであろう、軍事に関する重要な出来事を、いともあっさりと切り出した。
五連大砲と言うのは、ハーディス王国の誇る巨大兵器であった。
丘の上にある城の胴部に仕込まれてある、その名の通り五つの大砲である。
一つが、大人の身長の二倍ほどもある大きな物で、中に詰める爆薬は飛距離も破壊力も、確認されている内では大陸一だという代物だ。
一度有事になれば、おそらく三つ先の国まで焼け野原にすることが出来るその兵器は、未だ使った事こそ無いが、黒々とした姿を城の中腹から覗かせているだけで、王国に反感を持つ他国への牽制へとなっているようだ。
その効果があってか、城の再建から今まで、大規模な戦争を仕掛けられた事は無い。
しかし、どれほど強威な兵器とはいえ、整備を怠ればいざという時に使用できない。
五連大砲は城が作られた八年前からあるのだから、確かに修理は必要だろう。
「どのくらいでできる?」
「うーん、一週間。……と言いたいところだけど、愛しのナギリ様のために四日で終わらせるよ」
右手の四本指を立ててナギリに掲げ、ウィリーは白い歯を見せる。
「よし。では早速取りかかってくれ。
しかし、修理中に他国に攻め入られたら、いくら護衛隊を配置してはいても大変な事になる。
この事はくれぐれも秘密裏に頼むぞ。
宮廷の者にも誰にも言ってはならん」
「もちろんそのつもりだよ」
誰にも知られず、国の命運を未来を担う僕ってまるで英雄だね、などと軽口を叩くウィリーだが、史上最大の兵器である大砲の設計図から、その複雑な構造の全てを完璧に熟知している彼は、やはり王国最高の技師であろう。
頼んだぞ、と念を押す。
それに笑顔で答えた後、さあこれから三日三晩寝ずに大砲の修理だ、と嫌そうに言いながらも、目は輝いている。根っからの機械マニアだ。
そしてひらひらと手を振って部屋から出ていった。
そこら中に散乱した紙の後処理もせず、ウィリーは颯爽と五連大砲のある地下の機械室へと向かうのであった。
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