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第3章 止まらぬ想い
からくり箱
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たちまち、宮廷の中は噂が立ちまわった。
音楽会を中止して城下へ抜け出した王が、奇妙な白銀の髪の男を連れて帰って来たのだから、噂にならない方がおかしいのだが。
あれほど、毎晩のように部下達に夜伽を命じていた王が、まっすぐに自分の部屋に帰って行くようになった、と。
黒髪の男こそ王に選ばれし唯一無二の婚約者、フィリアだと、皆が口々に言い合った。
次期王がお生まれするのもそう遠くないのでは、と言う者までいて、宮廷内は密かに浮足立った。
その男を一目見ようと、食事の配膳や王の部屋の用事を行う者はこぞって私が、いや自分が、と順番を競い合っていた。
レナードの頭痛の種が増えるばかりであった。
もちろん、それを良く思わないのは、王のカティ達である。
* * *
ナギリが同盟国からの書簡に目を通していると、ふと執務室の扉が開いた。
腕一本が入るほど薄く開いた扉からは、人が入ってくる気配はしない。
「誰だ」と大きな声で問いかけると、その隙間から何かが部屋の中に侵入してきた。
両手で包めるほどの四角い箱の下に、小さな車輪が四つ付いている。
ころころと車輪で床を転がり、箱は自律で部屋の中を縦横無尽に動きまわると、ナギリの前で止まった。
すると箱のふたが突然開き、軽い破裂音が響いた。
中から、色とりどりの紙吹雪が舞いあがり、部屋中をきらきらと装飾する。
耳をつんざく音に驚かされて、しばらくその紙吹雪を見上げていたが、
「からかってないで早く入って来い、ウィリー」
声をかけると、扉の外からひょっこり顔を出して無邪気に笑う青年がいた。
「びっくりした? ウィリ―特製びっくり箱。
僕ぐらいの腕になると、このくらい数分で作っちゃうんだよ」
会心の出来だ、と部屋に入ってくる。
つなぎの上に白衣を着たウィリーは、前からこういう悪戯を仕掛けるのが趣味だった。
やれやれ、とナギリは車輪のついた箱を持ち上げて中の構造を眺める。
バネと摩擦の力を応用した簡単な造りだが、なかなか精巧である。
「いつも急だな、お前は」
箱を持ちながら言うと、
「いや、ついに王のフィリアが黒髪の彼に決まりそうだから、その先祝いだよ」
と屈託ない調子でウィリーは手を叩いた。
視線を上げる。
ウィリーの顔を見るも、彼はナギリの表情を真正面からじっと見つめた後、やれやれ、と肩をすくめた。
音楽会を中止して城下へ抜け出した王が、奇妙な白銀の髪の男を連れて帰って来たのだから、噂にならない方がおかしいのだが。
あれほど、毎晩のように部下達に夜伽を命じていた王が、まっすぐに自分の部屋に帰って行くようになった、と。
黒髪の男こそ王に選ばれし唯一無二の婚約者、フィリアだと、皆が口々に言い合った。
次期王がお生まれするのもそう遠くないのでは、と言う者までいて、宮廷内は密かに浮足立った。
その男を一目見ようと、食事の配膳や王の部屋の用事を行う者はこぞって私が、いや自分が、と順番を競い合っていた。
レナードの頭痛の種が増えるばかりであった。
もちろん、それを良く思わないのは、王のカティ達である。
* * *
ナギリが同盟国からの書簡に目を通していると、ふと執務室の扉が開いた。
腕一本が入るほど薄く開いた扉からは、人が入ってくる気配はしない。
「誰だ」と大きな声で問いかけると、その隙間から何かが部屋の中に侵入してきた。
両手で包めるほどの四角い箱の下に、小さな車輪が四つ付いている。
ころころと車輪で床を転がり、箱は自律で部屋の中を縦横無尽に動きまわると、ナギリの前で止まった。
すると箱のふたが突然開き、軽い破裂音が響いた。
中から、色とりどりの紙吹雪が舞いあがり、部屋中をきらきらと装飾する。
耳をつんざく音に驚かされて、しばらくその紙吹雪を見上げていたが、
「からかってないで早く入って来い、ウィリー」
声をかけると、扉の外からひょっこり顔を出して無邪気に笑う青年がいた。
「びっくりした? ウィリ―特製びっくり箱。
僕ぐらいの腕になると、このくらい数分で作っちゃうんだよ」
会心の出来だ、と部屋に入ってくる。
つなぎの上に白衣を着たウィリーは、前からこういう悪戯を仕掛けるのが趣味だった。
やれやれ、とナギリは車輪のついた箱を持ち上げて中の構造を眺める。
バネと摩擦の力を応用した簡単な造りだが、なかなか精巧である。
「いつも急だな、お前は」
箱を持ちながら言うと、
「いや、ついに王のフィリアが黒髪の彼に決まりそうだから、その先祝いだよ」
と屈託ない調子でウィリーは手を叩いた。
視線を上げる。
ウィリーの顔を見るも、彼はナギリの表情を真正面からじっと見つめた後、やれやれ、と肩をすくめた。
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