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第3章 止まらぬ想い
歓迎しよう
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ナギリはそっと、蝋燭立ての頬に触れた。
身長差ゆえに腕を持ち上げ、優しく。ナギリはそっと、蝋燭立ての頬に触れた。
身長差ゆえに腕を持ち上げ、優しく。
まるで陶器でも触っているかのように、全く体温が感じられない冷たい肌。
じっと、その黒い瞳を見上げた。
忘れていたわけじゃない。
忘れた振りをしていたのだ。
そうしないと、辛くて耐えられなかった。
王にはやるべき事が沢山あった。いつ攻めてくるかわからない他国相手に情報収集、騎士達の編成に訓練、各国ごとに軍事戦略を作成、城下町の整備に税金徴収、そしてカティを作り、やがてフィリアとなる者を吟味すること。
時間はいくらあっても足りなくて、いつの間にか八年もの月日が経ってしまった。
一度壊れた王国を、見せかけだけでも立派なものにするために、自分は完璧な王でなくてはならなかったのだ。昔を思い出し、悔やむ暇などなかった。
だから忘れた振りをしていた。
この、冷たい頬に触れるまでは。
執務に追われ疲れ果てた時、王という重責を背負い苦しくなった時。寝る前にそっと思い出していた。木の幹の中で体を寄せ合い過ごした夜、汗まみれになって剣を振るった日々、むせ返るような花の香り。
大切にしまっていた宝石を取り出して眺めるかのように、誰もいない時、目を閉じて想い出す。
その想い出は何よりも神聖で不可侵で、人間は過去に何にも勝る経験をすれば、それだけで生きていけるのだと感じた。
―――だが、もう二度と会えないと思っていた相手が、今目の前に居る。
記憶の中の彼と全く変わらない。
自分は背も伸び、歳を重ね、若いながら立派な王として幾人ものカティを囲っていると言うのに。青銅の蝋燭立ては昔と少しも変わらない、どこか遠くを見ているようなまなざし。
これが、雪の降る神隠し山から下りてきた、千年族の姿なのか。
ナギリはしばらくそうしていたが、自嘲気味に笑って手を離すと、
「ようこそハーディス王国へ、青銅の蝋燭立て。
歓迎しよう」
と、鮮やかに礼をしてみせた。
万人を魅了する、王の魔性の瞳が揺れる。
月明かりと、情欲の火を受けてほのかに銀色に煌めいていた。
身長差ゆえに腕を持ち上げ、優しく。ナギリはそっと、蝋燭立ての頬に触れた。
身長差ゆえに腕を持ち上げ、優しく。
まるで陶器でも触っているかのように、全く体温が感じられない冷たい肌。
じっと、その黒い瞳を見上げた。
忘れていたわけじゃない。
忘れた振りをしていたのだ。
そうしないと、辛くて耐えられなかった。
王にはやるべき事が沢山あった。いつ攻めてくるかわからない他国相手に情報収集、騎士達の編成に訓練、各国ごとに軍事戦略を作成、城下町の整備に税金徴収、そしてカティを作り、やがてフィリアとなる者を吟味すること。
時間はいくらあっても足りなくて、いつの間にか八年もの月日が経ってしまった。
一度壊れた王国を、見せかけだけでも立派なものにするために、自分は完璧な王でなくてはならなかったのだ。昔を思い出し、悔やむ暇などなかった。
だから忘れた振りをしていた。
この、冷たい頬に触れるまでは。
執務に追われ疲れ果てた時、王という重責を背負い苦しくなった時。寝る前にそっと思い出していた。木の幹の中で体を寄せ合い過ごした夜、汗まみれになって剣を振るった日々、むせ返るような花の香り。
大切にしまっていた宝石を取り出して眺めるかのように、誰もいない時、目を閉じて想い出す。
その想い出は何よりも神聖で不可侵で、人間は過去に何にも勝る経験をすれば、それだけで生きていけるのだと感じた。
―――だが、もう二度と会えないと思っていた相手が、今目の前に居る。
記憶の中の彼と全く変わらない。
自分は背も伸び、歳を重ね、若いながら立派な王として幾人ものカティを囲っていると言うのに。青銅の蝋燭立ては昔と少しも変わらない、どこか遠くを見ているようなまなざし。
これが、雪の降る神隠し山から下りてきた、千年族の姿なのか。
ナギリはしばらくそうしていたが、自嘲気味に笑って手を離すと、
「ようこそハーディス王国へ、青銅の蝋燭立て。
歓迎しよう」
と、鮮やかに礼をしてみせた。
万人を魅了する、王の魔性の瞳が揺れる。
月明かりと、情欲の火を受けてほのかに銀色に煌めいていた。
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