42 / 75
第3章 止まらぬ想い
久しぶりの会話
しおりを挟む
部屋の中へ入って明かりを灯す。
振り返ると、蝋燭立てが何の表情も浮かばせずに立っている。
家具の配置も部屋の大きさも違うというのに、何故だかマルス公国に保護されていた時に与えられた部屋に二人で居るような錯覚に陥った。
「半信半疑だったわけじゃないが、本当にお前は千年族だったのだな。
本当に、ちっともあの頃と変わってはいない」
自分がまだ幼い子供だった時に出会った姿とほとんど変わっていない蝋燭立てを、頭のてっぺんから足のつま先まで眺めてやる。
まるでおとぎ話のような話だが、やはり千年族と言うのは存在して、今まさに目の前に居るのだと実感した。
「お前は、変わったな」
蝋燭立ての言葉が広い部屋に落ちる。
その声が、何とも懐かしい。
「当たり前だろう。
あれから何年経ったと思っているんだ。八年だぞ」
「随分王らしくなった」
と言うので、
「それは偉そうで傲慢になったということか」
意地悪く聞くと、蝋燭立ては目を細めた。
笑ったのだ。
「お前の名声は、他の国でも聞いていた。
剣の腕は鈍っていないか」
「千年族は大陸中を放浪していたのか?
随分不良なのだな」
マルス公国に居た当時と変わらず喋りは遅いが、食事中は一言も言葉を発しなかったのに、部屋で二人っきりになった途端に蝋燭立てが自分から話しだした。
気分が良くなったナギリは上機嫌で返答する。
「―――何故俺があそこに居ると知っていた」
王国のはずれにある湖のほとりに居た蝋燭立て。おそらくは王国に寄るつもりはなく、すぐに違う国へと行くつもりだったのだろう。
「音楽会に、染め紙の鶴細工と名乗る男が来た。
お前の故郷の者じゃないのか」
心休まる心地良いフルートの演奏を披露した、肩口で切りそろえた栗色の髪の毛が印象的な男。
その名前を聞いて、すぐに『神隠し山』の千年族だと分かったのだ。
蝋燭立ては、ああ、と頷く。
「あいつは山の上にいた時から良くしてくれた」
そこで一度言葉を切り、
「昔から難儀な男だったな」
と遠い昔を思い出すように目を伏せた。
音楽会で千年族の者が演奏し、さらに一番演奏が上手かったので名前を聞き、そしてたまたま蝋燭立ての居場所を鶴細工が知っていた。
全てが偶然であった。
この黒髪の男が王の部屋に居るのは、万に近い奇跡に等しいのだ。
振り返ると、蝋燭立てが何の表情も浮かばせずに立っている。
家具の配置も部屋の大きさも違うというのに、何故だかマルス公国に保護されていた時に与えられた部屋に二人で居るような錯覚に陥った。
「半信半疑だったわけじゃないが、本当にお前は千年族だったのだな。
本当に、ちっともあの頃と変わってはいない」
自分がまだ幼い子供だった時に出会った姿とほとんど変わっていない蝋燭立てを、頭のてっぺんから足のつま先まで眺めてやる。
まるでおとぎ話のような話だが、やはり千年族と言うのは存在して、今まさに目の前に居るのだと実感した。
「お前は、変わったな」
蝋燭立ての言葉が広い部屋に落ちる。
その声が、何とも懐かしい。
「当たり前だろう。
あれから何年経ったと思っているんだ。八年だぞ」
「随分王らしくなった」
と言うので、
「それは偉そうで傲慢になったということか」
意地悪く聞くと、蝋燭立ては目を細めた。
笑ったのだ。
「お前の名声は、他の国でも聞いていた。
剣の腕は鈍っていないか」
「千年族は大陸中を放浪していたのか?
随分不良なのだな」
マルス公国に居た当時と変わらず喋りは遅いが、食事中は一言も言葉を発しなかったのに、部屋で二人っきりになった途端に蝋燭立てが自分から話しだした。
気分が良くなったナギリは上機嫌で返答する。
「―――何故俺があそこに居ると知っていた」
王国のはずれにある湖のほとりに居た蝋燭立て。おそらくは王国に寄るつもりはなく、すぐに違う国へと行くつもりだったのだろう。
「音楽会に、染め紙の鶴細工と名乗る男が来た。
お前の故郷の者じゃないのか」
心休まる心地良いフルートの演奏を披露した、肩口で切りそろえた栗色の髪の毛が印象的な男。
その名前を聞いて、すぐに『神隠し山』の千年族だと分かったのだ。
蝋燭立ては、ああ、と頷く。
「あいつは山の上にいた時から良くしてくれた」
そこで一度言葉を切り、
「昔から難儀な男だったな」
と遠い昔を思い出すように目を伏せた。
音楽会で千年族の者が演奏し、さらに一番演奏が上手かったので名前を聞き、そしてたまたま蝋燭立ての居場所を鶴細工が知っていた。
全てが偶然であった。
この黒髪の男が王の部屋に居るのは、万に近い奇跡に等しいのだ。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ
ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。
バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる