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第3章 止まらぬ想い

奇妙な食卓

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 その日の食卓は、奇妙な沈黙に包まれていた。
 
 それもそのはずである。演奏会を途中で飛びだして城下町へと向かった王が、今度は得体の知れない男を連れて帰って来たのだから。

 王の食卓を囲む事が出来るのはカティだけ。
 だというのに、見知らぬ黒髪の男が、王の一番近くの席に座っている。

 席に座った者は皆、どう聞いていいか分からず、戸惑いながら料理を口に運んでいる。

 ウィリーが小声で、
「うう、沈黙に耐えられない。
 ギールク、彼が誰なのか王に聞いてよ」

 と隣のギールクに話しかけ、

「お前が聞け」

 となすりつけ合いをしている。


「あの、みなさんのお口に合わなかったでしょうか」

 沈黙を破ったのはシェフのシュジュであった。

 王に命じられて突然カティに任命され、食卓に着いたというのに、自分の作った料理を皆が何も言わずにただ黙々と食べているので不安に思ったのだろう。

 冷や汗をかき、可哀想なほど眉毛を下げながら申し訳なさそうに尋ねてくる。

 

「そんなことはない。
 スープもメインディッシュも相変わらず美味だぞ。
 胸を張るが良い」

 ナギリがシュジュの方を向き笑いかけるので、シュジュはほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、その後も沈黙は続く。

 カティ達の視線は、王と黒髪の男に交互に注がれる。

 しかもその男が、実に緩慢な動作で食事をしているのだから、いやでも注目せざるを得ない。

 皆がメインディッシュを食べ終わりそうだと言うのに、未だに前菜をフォークでつついているところだ。

 王は男のその様子を、楽しそうに眺めていて、咎めたりしない。それがまた奇妙だった。


 痺れを切らしたティナが、怒りを抑えた震える声でナギリに尋ねる。

「……王、その方はどなたですの?」

 本来なら自分が座るはずの王の右手の席に、どこの馬の骨とも知らぬ男が座っているので、心外なのだろう。ティナは静かに聞いた。

「こいつはロウ。私の剣の師匠だ。
 お前も会った事があると思うが」

 そう言うと、ティナはじろり、ともう一度ロウと呼ばれた男を眺めた。
 すると、何かを思い出したのか、

「―――あ、」

 と声を上げる。

「でも、年齢が」

 と言いかけて、やめた。

「王国が再建している最中、マルス公国に世話になっている時に出会ったので、知らない者も多いだろう。
 しばらく城に滞在するようだから、良くしてやるように」

 軍師のアンセルドが返事をし、ギールクも頷く。
 ウィリーは未だ腑に落ちない顔で、なんだかなぁ、とぼやいている。
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