40 / 75
第3章 止まらぬ想い
奇妙な食卓
しおりを挟む
その日の食卓は、奇妙な沈黙に包まれていた。
それもそのはずである。演奏会を途中で飛びだして城下町へと向かった王が、今度は得体の知れない男を連れて帰って来たのだから。
王の食卓を囲む事が出来るのはカティだけ。
だというのに、見知らぬ黒髪の男が、王の一番近くの席に座っている。
席に座った者は皆、どう聞いていいか分からず、戸惑いながら料理を口に運んでいる。
ウィリーが小声で、
「うう、沈黙に耐えられない。
ギールク、彼が誰なのか王に聞いてよ」
と隣のギールクに話しかけ、
「お前が聞け」
となすりつけ合いをしている。
「あの、みなさんのお口に合わなかったでしょうか」
沈黙を破ったのはシェフのシュジュであった。
王に命じられて突然カティに任命され、食卓に着いたというのに、自分の作った料理を皆が何も言わずにただ黙々と食べているので不安に思ったのだろう。
冷や汗をかき、可哀想なほど眉毛を下げながら申し訳なさそうに尋ねてくる。
「そんなことはない。
スープもメインディッシュも相変わらず美味だぞ。
胸を張るが良い」
ナギリがシュジュの方を向き笑いかけるので、シュジュはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、その後も沈黙は続く。
カティ達の視線は、王と黒髪の男に交互に注がれる。
しかもその男が、実に緩慢な動作で食事をしているのだから、いやでも注目せざるを得ない。
皆がメインディッシュを食べ終わりそうだと言うのに、未だに前菜をフォークでつついているところだ。
王は男のその様子を、楽しそうに眺めていて、咎めたりしない。それがまた奇妙だった。
痺れを切らしたティナが、怒りを抑えた震える声でナギリに尋ねる。
「……王、その方はどなたですの?」
本来なら自分が座るはずの王の右手の席に、どこの馬の骨とも知らぬ男が座っているので、心外なのだろう。ティナは静かに聞いた。
「こいつはロウ。私の剣の師匠だ。
お前も会った事があると思うが」
そう言うと、ティナはじろり、ともう一度ロウと呼ばれた男を眺めた。
すると、何かを思い出したのか、
「―――あ、」
と声を上げる。
「でも、年齢が」
と言いかけて、やめた。
「王国が再建している最中、マルス公国に世話になっている時に出会ったので、知らない者も多いだろう。
しばらく城に滞在するようだから、良くしてやるように」
軍師のアンセルドが返事をし、ギールクも頷く。
ウィリーは未だ腑に落ちない顔で、なんだかなぁ、とぼやいている。
それもそのはずである。演奏会を途中で飛びだして城下町へと向かった王が、今度は得体の知れない男を連れて帰って来たのだから。
王の食卓を囲む事が出来るのはカティだけ。
だというのに、見知らぬ黒髪の男が、王の一番近くの席に座っている。
席に座った者は皆、どう聞いていいか分からず、戸惑いながら料理を口に運んでいる。
ウィリーが小声で、
「うう、沈黙に耐えられない。
ギールク、彼が誰なのか王に聞いてよ」
と隣のギールクに話しかけ、
「お前が聞け」
となすりつけ合いをしている。
「あの、みなさんのお口に合わなかったでしょうか」
沈黙を破ったのはシェフのシュジュであった。
王に命じられて突然カティに任命され、食卓に着いたというのに、自分の作った料理を皆が何も言わずにただ黙々と食べているので不安に思ったのだろう。
冷や汗をかき、可哀想なほど眉毛を下げながら申し訳なさそうに尋ねてくる。
「そんなことはない。
スープもメインディッシュも相変わらず美味だぞ。
胸を張るが良い」
ナギリがシュジュの方を向き笑いかけるので、シュジュはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、その後も沈黙は続く。
カティ達の視線は、王と黒髪の男に交互に注がれる。
しかもその男が、実に緩慢な動作で食事をしているのだから、いやでも注目せざるを得ない。
皆がメインディッシュを食べ終わりそうだと言うのに、未だに前菜をフォークでつついているところだ。
王は男のその様子を、楽しそうに眺めていて、咎めたりしない。それがまた奇妙だった。
痺れを切らしたティナが、怒りを抑えた震える声でナギリに尋ねる。
「……王、その方はどなたですの?」
本来なら自分が座るはずの王の右手の席に、どこの馬の骨とも知らぬ男が座っているので、心外なのだろう。ティナは静かに聞いた。
「こいつはロウ。私の剣の師匠だ。
お前も会った事があると思うが」
そう言うと、ティナはじろり、ともう一度ロウと呼ばれた男を眺めた。
すると、何かを思い出したのか、
「―――あ、」
と声を上げる。
「でも、年齢が」
と言いかけて、やめた。
「王国が再建している最中、マルス公国に世話になっている時に出会ったので、知らない者も多いだろう。
しばらく城に滞在するようだから、良くしてやるように」
軍師のアンセルドが返事をし、ギールクも頷く。
ウィリーは未だ腑に落ちない顔で、なんだかなぁ、とぼやいている。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
空飛ぶ島は崩落寸前!?〜僕が攻略対象なんて知りません!
an
BL
BL大賞へのご投票ありがとうございました!
物語の舞台は、空の上を浮遊する、高度な技術によって造られた飛空島。
地上の人々は、この偉大なるロストテクノロジーの解明と、さらなる技術更新のため島自体に研究機関(C・G)を設置した。
島の技術は《魔力》が深く関与しているとされ、魔法の研究と、使い方を学ぶための学園がある。
飛空島は研究機関で働く人々と、魔法学園に通う学生らのための一つの大きな都市になっているのが、この浮遊する島だった。
主人公はティルエリー=クライン。
この島を作った偉人ハウザー=クラインの子孫で、世界一の魔道具技師になりたい十五歳の少年。
魔法学園で、のんびり過ごすつもりだったのに、とある調査班に任命されてしまう…!
班長は王子様?
乙女ゲームのヒロイン?
僕が攻略対象って何のこと?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
薫る薔薇に盲目の愛を
不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。
目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。
爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。
彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。
うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。
色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!
風早 るう
BL
ある日突然異世界へ転移した25歳の青年学人(マナト)は、無実の罪で投獄されてしまう。
物騒な囚人達に囲まれた監獄生活は、平和な日本でサラリーマンをしていたマナトにとって当然過酷だった。
異世界転移したとはいえ、何の魔力もなく、標準的な日本人男性の体格しかないマナトは、囚人達から揶揄われ、性的な嫌がらせまで受ける始末。
失意のどん底に落ちた時、新しい囚人がやって来る。
その飛び抜けて綺麗な顔をした青年、グレイを見た他の囚人達は色めき立ち、彼をモノにしようとちょっかいをかけにいくが、彼はとんでもなく強かった。
とある罪で投獄されたが、仲間思いで弱い者を守ろうとするグレイに助けられ、マナトは急速に彼に惹かれていく。
しかし監獄の外では魔王が復活してしまい、マナトに隠された神秘の力が必要に…。
脱獄から魔王討伐し、異世界でスローライフを目指すお話です。
*異世界もの初挑戦で、かなりのご都合展開です。
*性描写はライトです。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる