【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!

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第2章 十年前の話

意味と価値を与えてくれた

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 どのくらいの時が経っただろう。

 蝋燭立てがゆっくりとした口調で語る故郷の話に、ナギリは二の句が継げなかった。

 夜の闇に溶けてしまいそうな蝋燭立ては、まるでナギリを助けたあの日と同じ、死神のように立ってこちらを見ている。
 
 しかし、その表情が少しは柔らかくなっていると思うのは、勘違いだろうか。


「お前には感謝している。
 剣を教えてくれと言ったことだ」


 ナギリはじっと蝋燭立ての黒い瞳を見つめた。


「諦める事しか能の無かった俺を、あの閉ざされた雪山から連れ出し、意味と価値を与えてくれたのが嬉しかった。―――涙が出るほど」


 蝋燭立ては目を細めた。彼の笑顔だ。


 その顔を見るたびに、ナギリはどうしようもなく胸が痛むのだ。
 病気なのではないかと医師に相談しても、全く異常はないと言われた、奇妙な痛み。

 柔らかな髪に触れたかった。
 体温を感じない体に身を委ねたかった。

 自分だけを見ていて欲しかった。


「頼みがある」


 ナギリはそう言って、息を止めた。

 何をどう言えばいいのか思い浮かばない。
 ただ、蝋燭立ての事を想うたびに胸が痛む。

 それが恋だと言うのならば、解決する方法は一つしかないと思った。


「王国が復活したら、私の片腕になってくれないか」
 

 もうすぐ新たな城が建つ。
 レナードが睡眠時間を削って再建に力を注いでいる。
 王国の町の者達は今か今かと王の就任を待ちわびている。

 父が言っていた。フィリアは、会えばすぐにこの人だと分かると。


 風呂に入れば湯を冷めさせ、食事を食べれば日が暮れる。眠れば三日三晩起きやしない。
 
 そんな奇妙で迷惑なこの男に、ずっと傍にいてほしかった。


 心からの願いであった。


 青銅の蝋燭立ては、花畑の中じっと立っていた。

 かつて番犬として、雪の中山の下を見つめていた時と同じ姿だろうか。


 ナギリは肯定の言葉を渇望した。
 どうか断らないで欲しかった。
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