【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!

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第2章 十年前の話

番犬の役割

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 俺が生まれて一番最初に見た景色は、蝋燭の光だった。
 薄暗い部屋を暖かく照らす蝋燭に灯された火を、じっと見つめていた。

 ――あの場所では、生まれた時に周りの者達から贈られた品が、その子供の名前となる事は前に話したな。

 だから、俺の名前は青銅の蝋燭立てだった。
 母は俺を産んですぐに死んだ。あの場所ではそれが普通だ。出産の苦しみに、心臓が耐えられないのだろう。だから、山の上に大人の女性はほとんど存在しない。

 あの場所では、各々の役割が決まっていた。
 料理を作る者、子供に勉強を教える者、衣服を織る者。

 その中で、俺の役割は「番犬」だった。

 ―――――あの場所には、ずっと受け継がれている言い伝えがあってな。
 決して、どんなことがあっても山を降りてはいけないと言われていた。

 『山を下ると、気性の荒い獣に心を食いつぶされてしまう』という言い伝えだ。
誰もが信じていた。

 たまに、その『獣』は山を登って我々の住処の前へとやってくる事があった。
 俺は、住処の前で見張り、『獣』が訪れたらそれを狩る「番犬」だ。

 父も、その父も続けていた。それが俺の役割。


「……獣と言うのは、人間の事だな?」


 ―――そうだ。しかしそう呼ぶことを知ったのは、山を下りてからだ。

 俺は与えられた使命をこなすだけに生きていた。
 視界を覆い尽くす雪の中に立って、ひたすら山の下を眺めていた。

 『獣』が襲いに来るのを、確実に仕留めるために。
その時奪った衣服や持ち物が、長老たちの手に渡り、次の子供が生まれた時に贈り物として贈られる事も知っていた。

 『獣』が自分たちと同じような姿をしているのはずっと疑問だったが。確かに気性の荒い奴らだと思っていた。

 我々の住処は人間のそれとほとんど変わらない。小屋の中には、薪をくべた暖炉があり、雪山でも育つ植物を育ててそれを食べていた。

 厚い雲に覆われた山の上には、朝も夜も時間は関係ない。
 標高の高いそこにはいつも雪が降っていて、季節などの四季は関係ない。

 時の止まったような場所で、ただ死ぬまでの時間を享受するだけの生活だった。
 
 そんな凍ったような生活の中で、唯一の楽しみは夢を見る事だった。
 我々は、遠い先祖の記憶か、神のきまぐれかは分からないが、夢を見る。

 まだ翼の生えた者が存在した神話の世界の生活、大陸が一つだった頃起きた大規模な戦争、そして、これから起こる事を、夢に見る。

 『獣』達が起こす争いを夢に見て、なんて愚かな事を繰り返しているのだろうと学ぶためだろう。

 しかし俺は夢を見るのが好きだった。
 長い長い物語を読んでいるようで、どの話にも夢中になった。

 『獣』の狩りをするとき以外は、眠っていたと言っても過言ではない。
 
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