【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!

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第2章 十年前の話

故郷の話

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 ハーディス王国の再建は、着実に進んでいた。
 他の同盟国からの支援物資が大陸中から送られてきたし、隣国からは沢山の者が建て直しなどを手伝うために訪れていた。

 避難していた町の人々は、少しずつハーディス王国の自分の家へと戻って、前と同じ生活を始めているようだ。

 焼け落ちてしまった城も、腕のいい建築家や設計士を集め、思ったよりも早く造られているようだ。
 先日見に行ったら、城の中心に大きな鐘が吊るされているのが見えた。左右対称の塔が立ち並ぶ、新しい城だ。

 その玉座に座るのは紛れもなく自分なのだと、多くの大人達がせわしなく駆けまわる城を、ナギリは自身の紫の瞳でじっと見上げていた。
 
 季節は流れ、その時は近い。


* *  *


 一度、蝋燭立てを連れて、城の外へと出た事がある。
 冬と春の境目の季節だった。不意に吹く風は体温を奪っていくが、しんと澄み切った空気がナギリは嫌いではなかった。

 マルス公国の良い所は自然の多い所だ。町中にも緑が植えられていて、四季折々の植物が綺麗な、豊かな国である。

 人々が寝静まった夜、町はずれの風車小屋の近くへとやってきた。そこは、辺り一面が背の低い黄色い花で埋め尽くされている花畑になっていた。

 ナギリは、足元に気をつけながら花畑の中に入って行く。風に揺れている小さな花弁をしゃがんで撫でてやる。薔薇みたいな優雅さはないが、素朴さが可愛らしい花だった。

「お前の生まれたあの山の上にも花は咲くのか?」

 と尋ねる。蝋燭立ては、それには答えず物珍しそうにじっと足元に広がる花を眺めていた。

「まただんまりか。お前には話せない事が多いな」

 出会ってから大分経つと言うのに、ほぼ毎日顔を合わせ、剣の稽古を受けているのに、蝋燭立ては未だに自分に心を開いていないのだと、ふと寂しくなった。
 
 ナギリが表情を曇らせたのに気がついてか、

「話せないのではなく、話したくないだけだ」

 蝋燭立ては低い声で言った。

「山の上にはもう帰れない。
 帰れない場所の事を言葉にしても、哀しみが増すだけだ」

 しゃがんでいたナギリが立ち上がる。

「どうして帰れないんだ」

と問うと、

「……話しておこうか。
 お前には、俺の故郷の話を聞いてほしい」

 蝋燭立ては、静かに口を開いた。

 いつもの彼のように、とてもゆっくりと、淡々と語りだす。

 彼の生まれた、神隠しの山の話を。
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