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第2章 十年前の話
ティナとの出会い
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城の中のほとんど人が通らない書庫の中で、こっそり父と母の映った写真を取り出し、それを見て泣く事もあった。
一日中帝王学の勉強、蝋燭立てとの剣の稽古。
どんな時も、次期王としての姿であり続けねばならない。
それは、幼いとか、ここが生まれ育った国ではないなどという事は関係ない。
その日も、埃の積もった書庫の端で写真を眺めていた。
自然と涙が頬を伝う。
誰よりも尊敬していた父と、自分を産んですぐに死んだ母。
寄り添い合う美しい二人。
それを奪ったリーフェンシュタールが、どうしても許せなかった。
「――――あの」
突然声を掛けられ、はっとして振り返ると、ナギリの形相に相手も驚いたらしく目を見開いて固まってしまっている。
水色のドレスを着た愛らしい少女だった。ナギリよりも一つ二つ歳が下のように見える。
しばらくそうやって見つめ合っていたが、少女にそっと白いハンカチを差し出された。
ナギリは写真を大事に上着のポケットにしまうと、そのハンカチを受け取って、涙を拭いた。
「……情けない所を見せた。お前の名は?」
「ティナと申します。第二王女です」
ティナと名乗った少女は、恐る恐ると言った様子で答えた。
おそらく、ナギリの事を次期王だと教えられているのであろう。
こんな薄暗い部屋でまさか会うとは思っていなかったらしく、緊張してしどろもどろになっている。
いきなり現実に引き戻されたのでナギリが黙っていると、何か言わなくてはと思ったらしきティナは慌てて続けた。
「いつも、裏庭で剣術の練習をされていますよね」
癖なのか、自分の長い髪を触りながら、上目使いにナギリに尋ねる。
そうだ、と頷くと、
「女の子に、剣術の鍛錬など辛くないのですか?」
と問うので、
「王に性別は無い」
とはっきりと言い捨てた。
ティナは自分が何かおかしなことを言ってしまったのかと口をつぐんだ。
両性と言うことは知っているだろうが、どういう意味かまだ幼いが故に分かっていないのだろう。
ナギリの容姿だけを見て女だと思ったらしい。
勉強と鍛錬に追われ、刻一刻と王になる時間は迫ってくる。
焼かれた城は新しく立て変えられ、国を追われた民衆たちは今か今かとハーディス王国の再建を待ちわびている。
知らず知らずのうちに無理をしていたが、自分は、見た目だけはただの「女の子」なのだと、忘れていたことを思い出した。なんだか、ふっと肩の荷が下りたような気がした。
窓から少しの光しか差し込まない、薄暗い部屋でナギリはほほ笑んだ。
「礼を言う、ティナ。お前はきっと将来美しい女になるな」
「え?」
ティナが頬を赤く染めて、左右に首を振った。
一日中帝王学の勉強、蝋燭立てとの剣の稽古。
どんな時も、次期王としての姿であり続けねばならない。
それは、幼いとか、ここが生まれ育った国ではないなどという事は関係ない。
その日も、埃の積もった書庫の端で写真を眺めていた。
自然と涙が頬を伝う。
誰よりも尊敬していた父と、自分を産んですぐに死んだ母。
寄り添い合う美しい二人。
それを奪ったリーフェンシュタールが、どうしても許せなかった。
「――――あの」
突然声を掛けられ、はっとして振り返ると、ナギリの形相に相手も驚いたらしく目を見開いて固まってしまっている。
水色のドレスを着た愛らしい少女だった。ナギリよりも一つ二つ歳が下のように見える。
しばらくそうやって見つめ合っていたが、少女にそっと白いハンカチを差し出された。
ナギリは写真を大事に上着のポケットにしまうと、そのハンカチを受け取って、涙を拭いた。
「……情けない所を見せた。お前の名は?」
「ティナと申します。第二王女です」
ティナと名乗った少女は、恐る恐ると言った様子で答えた。
おそらく、ナギリの事を次期王だと教えられているのであろう。
こんな薄暗い部屋でまさか会うとは思っていなかったらしく、緊張してしどろもどろになっている。
いきなり現実に引き戻されたのでナギリが黙っていると、何か言わなくてはと思ったらしきティナは慌てて続けた。
「いつも、裏庭で剣術の練習をされていますよね」
癖なのか、自分の長い髪を触りながら、上目使いにナギリに尋ねる。
そうだ、と頷くと、
「女の子に、剣術の鍛錬など辛くないのですか?」
と問うので、
「王に性別は無い」
とはっきりと言い捨てた。
ティナは自分が何かおかしなことを言ってしまったのかと口をつぐんだ。
両性と言うことは知っているだろうが、どういう意味かまだ幼いが故に分かっていないのだろう。
ナギリの容姿だけを見て女だと思ったらしい。
勉強と鍛錬に追われ、刻一刻と王になる時間は迫ってくる。
焼かれた城は新しく立て変えられ、国を追われた民衆たちは今か今かとハーディス王国の再建を待ちわびている。
知らず知らずのうちに無理をしていたが、自分は、見た目だけはただの「女の子」なのだと、忘れていたことを思い出した。なんだか、ふっと肩の荷が下りたような気がした。
窓から少しの光しか差し込まない、薄暗い部屋でナギリはほほ笑んだ。
「礼を言う、ティナ。お前はきっと将来美しい女になるな」
「え?」
ティナが頬を赤く染めて、左右に首を振った。
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