【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!

文字の大きさ
上 下
20 / 75
第2章 十年前の話

勝手な行動は慎むよう

しおりを挟む
 マルス公国に足を踏み入れると、街の中はハーディス王国からの避難者で溢れかえっていた。
 怪我をした兵士、火傷を負った町の者達が急遽つくられたテントの中で寝泊りをしているようだ。

 住む場所、愛しい家族を失った者達は一様に涙を流し、顔を歪め、絶望に打ちひしがれていた。
 道の端では、そんな彼らにスープとパンを配っている。
 
 町の中心にある城へと足を踏み入れると、すぐに中年の男が出てきた。
 王国は広い大陸の中でもハーディス王国だけで、王は両性を持つハーディス王だけだとされているため、他の国で権力の頂点に立つ者は「主(あるじ)」と呼ばれるのであった。
 
 マルス公国の主である四十半ばと見えるキースは、顎髭を撫でながらナギリを向かい入れた。

「―――この度はおいたわしい事になり、心中お察し申し上げます。
 ナギリ様はもちろん、国民の者達も、何もないですがぜひ我が国でお過ごしください」

「お手をお借りする」

 深々と礼をすると、次期王が私ごときにそんなことしないで下され、と止められた。

 気の良いキースは、隣国と言う事もあり同盟国の中では父とも旧知の仲だったのだ。
 年に何度か、城に訪れ食事会をしたこともある。
 


「良い主だ。
 このような混乱しきった状況の時、受け入れてもらえたのは幸いだったな」

 丈夫な造りの城の階段を降りながら言うと、レナードも頷いた。
 それでもやはり、我が国の城の方がしっかりとした造りであったが、という言葉は飲みこんだ。
 その城も、今やもう無い。

「青銅の蝋燭立てはどこへ」

 尋ねると、レナードは首をかしげた。

「先ほどの黒髪の男だ」

「随分奇妙な名前なのですね」

 とレナードは答えて、息を吐く。

「あの男なら、部屋を与えておきました。
 今はそこで休んでいるかと」

「御苦労。あいつは私の命の恩人だ。
 手厚くもてなしてやろう。
 とはいえ、人の城だが」

「はっ」

 レナードは左胸に握った拳を添える形の敬礼をすると、

「それともう一つ」

 と続けた。
 ナギリはなんだ、と振り返る。
 

 その頬に、レナードは容赦なく平手打ちを食らわした。


 乾いた音が、城の応接間に響き渡る。

 はたかれた衝撃が脳天に響き、次に頬が熱を持ったように痛んだ。
 半身をねじらせる形となり、レナードを見上げると、彼は眉間にしわを寄せナギリを見つめていた。


「―――今後、ご勝手な行動はお慎みください」


 幸い、その場所に他の者はいなかった。
 王に手を上げるなど、即効捕えられ牢屋に入れられても仕方がない愚行である。

「……申し訳ありません。しかしナギリ様はもっとご自分の立場をわきまえてください。
 私の事は、どう処分してくださっても構いません」

 そう言って潔くレナードは頭を下げた。
 外に避難したのに、燃え盛る城の中に戻ったり、怪しげな男と一緒に草原に隠れていたりと、確かに次期王のする行動ではない。

 ナギリはレナードに顔を上げるよう命じた。

「よい。私にはお前のような者が必要なのだろうな。
 これからは近衛隊として私の一番近くにいてくれ」

 あんなに広い草原の中、自分を探し出してくれたのが嬉しかった。
 この男なら、これから先もきっと自分を守ってくれるだろうと、その忠義心を買ったのだ。
 
 そして、レナードは生き残った者の名を上げていった。

 護衛隊の隊長や古株の軍師達、父のカティの何人かの名前が挙がる。
 挙がらなかった者は、あの炎に飲み込まれてしまったのだろう。

「……ベネディクトは?」

 翡翠の髪をした父のカティの男。
 一番仲の良かった彼の名前が出なかったので問うと、レナードは表情を曇らせた。

「死んだのか」
 
 と恐る恐る聞くと、

「いえ。しかし……王がお目通しをして下さい」
 
 目を伏せ、彼がいるという部屋へと案内された。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。 バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

処理中です...