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第2章 十年前の話
リーフェンシュタールという男
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「何故ですか、王。何故カリアに軍を送って下さらなかったのですか」
リーフェンシュタールは、頭と右腕に包帯を巻いていた、額からは血が染み出ている。
握った拳をイゼルの机に降ろし、椅子に座って腕を組んでいるイゼルを睨みつけている。
「あのような飛び地に援軍を送るよりも、そのまま本拠地である国の中心に攻め入り、大将首を取ったほうが早く戦が終わると思ったからだ。
実際、長引き泥仕合と化すと予想されていたが、たった半月で決着はついたであろう」
「しかし、そのせいで我が軍は壊滅した。
中心部に送り込む半分、いや三分の一でも送ってくれれば、死なずに済んだ兵もいた!」
戦の指揮を執っていたのは王であるイゼルである。
王の命令によって戦地に送られ、そして王の一言によって捨てられ、敵国で命を落とした同胞たちを思い、隊長であったリーフェンシュタールはやりきれないといった様子で王に食ってかかる。
しかしイゼルは、極めて冷静に、冷酷に告げる。
「我が国は勝利した。そして勝利には、多少の犠牲はつきものだ」
静かに語る王。
リーフェンシュタールは、あんぐりと口を開けていたが、やがて信じられない物を見るような目で、は、と笑い声を漏らした。
「……そうやって、リーザの事も殺したのか」
イゼルの眉が動いた。
今まで、大量の兵たちを死地へ向かわせることにも眉一つ動かさなかったというのに。
生まれた時から病弱だったリーザが、ナギリを産んですぐに死んだ事を引き合いに出され、反応したのだろう。
リーフェンシュタールは満身創痍の体を振り乱して、未だ座ったままの王に叫ぶ。
「国のため、国のため。
そう言って部下を見殺しにし、そして自分の妻、俺の妹も殺すのだな!」
二人の視線が合う。
憎しみを帯びたリーフェンシュタールの眼光。
「そうだ。それが王だ」
どこまでも冷静な声。
リーフェンシュタールは何かを言いかけて、しかし何も言わず、固く強く握りしめた拳をゆっくりと開く。
「――――失礼いたします」
背を向けて執務室から出て行った。
廊下で一連の出来事を見ていたナギリの目の前に、リーフェンシュタールが現れた。
扉を閉めると、神経質そうに頭を掻きむしる。
額にまかれた包帯がほどけ、血のにじんだ額の十字傷があらわになる。
その様子を怯えきった顔で見上げていたら、そこでやっとナギリに気がついたのか、リーフェンシュタールはこちらを向いた。
底の知れない瞳でじっと見つめた後、取り繕ったような笑顔を向けてくる。
「……ナギリ様、そんなところに居られると、風邪を召されますよ」
あれほど恐ろしい笑顔は、これから先もきっと見る事はないだろう。
背筋が凍りつくほどの憎悪のにじみ出た視線に、足早に部屋へと走って逃げたのだ。
リーフェンシュタールは、頭と右腕に包帯を巻いていた、額からは血が染み出ている。
握った拳をイゼルの机に降ろし、椅子に座って腕を組んでいるイゼルを睨みつけている。
「あのような飛び地に援軍を送るよりも、そのまま本拠地である国の中心に攻め入り、大将首を取ったほうが早く戦が終わると思ったからだ。
実際、長引き泥仕合と化すと予想されていたが、たった半月で決着はついたであろう」
「しかし、そのせいで我が軍は壊滅した。
中心部に送り込む半分、いや三分の一でも送ってくれれば、死なずに済んだ兵もいた!」
戦の指揮を執っていたのは王であるイゼルである。
王の命令によって戦地に送られ、そして王の一言によって捨てられ、敵国で命を落とした同胞たちを思い、隊長であったリーフェンシュタールはやりきれないといった様子で王に食ってかかる。
しかしイゼルは、極めて冷静に、冷酷に告げる。
「我が国は勝利した。そして勝利には、多少の犠牲はつきものだ」
静かに語る王。
リーフェンシュタールは、あんぐりと口を開けていたが、やがて信じられない物を見るような目で、は、と笑い声を漏らした。
「……そうやって、リーザの事も殺したのか」
イゼルの眉が動いた。
今まで、大量の兵たちを死地へ向かわせることにも眉一つ動かさなかったというのに。
生まれた時から病弱だったリーザが、ナギリを産んですぐに死んだ事を引き合いに出され、反応したのだろう。
リーフェンシュタールは満身創痍の体を振り乱して、未だ座ったままの王に叫ぶ。
「国のため、国のため。
そう言って部下を見殺しにし、そして自分の妻、俺の妹も殺すのだな!」
二人の視線が合う。
憎しみを帯びたリーフェンシュタールの眼光。
「そうだ。それが王だ」
どこまでも冷静な声。
リーフェンシュタールは何かを言いかけて、しかし何も言わず、固く強く握りしめた拳をゆっくりと開く。
「――――失礼いたします」
背を向けて執務室から出て行った。
廊下で一連の出来事を見ていたナギリの目の前に、リーフェンシュタールが現れた。
扉を閉めると、神経質そうに頭を掻きむしる。
額にまかれた包帯がほどけ、血のにじんだ額の十字傷があらわになる。
その様子を怯えきった顔で見上げていたら、そこでやっとナギリに気がついたのか、リーフェンシュタールはこちらを向いた。
底の知れない瞳でじっと見つめた後、取り繕ったような笑顔を向けてくる。
「……ナギリ様、そんなところに居られると、風邪を召されますよ」
あれほど恐ろしい笑顔は、これから先もきっと見る事はないだろう。
背筋が凍りつくほどの憎悪のにじみ出た視線に、足早に部屋へと走って逃げたのだ。
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