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第1章 ハーディス王の国王
嫉妬とからかい
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城下の農家で朝採ってきたばかりの新鮮な野菜をすりつぶしたスープや、湖で釣った白身魚など、全て自慢のシェフが作った物である。
ウィリーがうまいうまいと料理を口に運び、確かにこれは俺の好物ばかりだ、とギールクも機嫌が良さそうだ。
それぞれが今日の予定や隣国の政治情勢、旬の食材の話などに華を咲かせている。
「失礼いたします。
本日の料理を作らせていただいきました、シュジュと申します」
扉が開き、シェフが王のお目通りをするために挨拶をしてきた。
白いシェフの制服を着ていて、まだ十代半ばと思しき少年である。
金髪で巻き毛、華奢な背格好だが、その天才的な料理の腕前を認められ、最近宮廷の厨房を任されている。
「お前か」
ナギリはグラスに入った水を一口口に含むと、シュジュと名乗った少年を見つめて笑った。
「さすがはラズロの息子だな。
あいつにも長い間宮廷の厨房を任せていた。
これからも期待しているぞ」
「は、身に余る光栄でございます」
左胸に手を当て、深々と礼をするシュジュは、自分の料理を褒められたのが嬉しかったのだろう、晴れやかな顔で笑っている。
その幼さの残る笑顔をじっと見つめ、グラスを置き何かを決めたように頷くと、
「よし、お前は今度からこの食卓につけ。
分かったな?」
そのナギリの一言で、その場に居た者の表情が皆固まった。
それもそのはずである。「食卓につく」ということは「カティになれ」というのと同じ意味である。
そしてカティに選ばれると言うことは、前に王に夜伽を命じられた事があると言うのを白日の下に晒しているようなものだ。
「そ、それは―――その、」
「何を恥ずかしがる?
これからは料理を作ったらお前も一緒に食べるのだぞ、分かったな」
シュジュは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
金髪の似合う美少年なので、宮廷の中にいればナギリの目に留まるのもおかしくはない。
四人のカティ達は黙ってシュジュとナギリを交互に見て機を窺っていたが、最初に口火を切ったのはティナだった。
目を吊り上げて、信じられないというようにナギリを咎める。
「王、これ以上カティを増やすなんて―――!」
「あの若さで、これほどの料理を作れるのは素晴らしい才能だ。
優れた遺伝子の持ち主かもしれないだろう?」
まるで表情を変えずに、何を怒っている、というナギリ。
ティナは二の句が継げないといった様子で口をあんぐりと開けている。
「王が言うならいいんじゃない?」
能天気なウィリーは、そう言って付け合わせのピクルスを食べている。
「まあ、前王はこれの比じゃないほどのカティを囲っていたからなぁ」
ギールクは少し困った顔をして呟いた。
「返事は?」
王が黙ったままのシュジュに問いかけると、
「――は、はい。光栄です」
消え入りそうな声で頷いた。
それを聞くや否や、口を乱暴に拭ったナプキンを置いて、ティナが席を立った。
「気分が優れません。失礼いたします」
ほとんど料理には手をつけないまま、ティナは扉へと向かっていく。
たった今、王の愛人に選ばれたシュジュを睨みつけ、巻き髪を揺らしヒールの音を響かせそのまま部屋を出て行ってしまった。彼女の香水の香りだけが、そこに残った。
「……良いのですか」
左隣に座っているアンセルドが、スープを飲む手を止めてナギリに問いかける。
「構わん。全く、女の嫉妬は恐ろしいな」
我関せずの態度で、ナギリはメインディッシュの七面鳥の香草焼きを丁寧にナイフで切り口に運んでいる。
「英雄色を好む、ってやつだねぇ、うんうん」
何やら楽しそうにウィリーはほほ笑み、ギールクも料理を口に運びだした。
ウィリーがうまいうまいと料理を口に運び、確かにこれは俺の好物ばかりだ、とギールクも機嫌が良さそうだ。
それぞれが今日の予定や隣国の政治情勢、旬の食材の話などに華を咲かせている。
「失礼いたします。
本日の料理を作らせていただいきました、シュジュと申します」
扉が開き、シェフが王のお目通りをするために挨拶をしてきた。
白いシェフの制服を着ていて、まだ十代半ばと思しき少年である。
金髪で巻き毛、華奢な背格好だが、その天才的な料理の腕前を認められ、最近宮廷の厨房を任されている。
「お前か」
ナギリはグラスに入った水を一口口に含むと、シュジュと名乗った少年を見つめて笑った。
「さすがはラズロの息子だな。
あいつにも長い間宮廷の厨房を任せていた。
これからも期待しているぞ」
「は、身に余る光栄でございます」
左胸に手を当て、深々と礼をするシュジュは、自分の料理を褒められたのが嬉しかったのだろう、晴れやかな顔で笑っている。
その幼さの残る笑顔をじっと見つめ、グラスを置き何かを決めたように頷くと、
「よし、お前は今度からこの食卓につけ。
分かったな?」
そのナギリの一言で、その場に居た者の表情が皆固まった。
それもそのはずである。「食卓につく」ということは「カティになれ」というのと同じ意味である。
そしてカティに選ばれると言うことは、前に王に夜伽を命じられた事があると言うのを白日の下に晒しているようなものだ。
「そ、それは―――その、」
「何を恥ずかしがる?
これからは料理を作ったらお前も一緒に食べるのだぞ、分かったな」
シュジュは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
金髪の似合う美少年なので、宮廷の中にいればナギリの目に留まるのもおかしくはない。
四人のカティ達は黙ってシュジュとナギリを交互に見て機を窺っていたが、最初に口火を切ったのはティナだった。
目を吊り上げて、信じられないというようにナギリを咎める。
「王、これ以上カティを増やすなんて―――!」
「あの若さで、これほどの料理を作れるのは素晴らしい才能だ。
優れた遺伝子の持ち主かもしれないだろう?」
まるで表情を変えずに、何を怒っている、というナギリ。
ティナは二の句が継げないといった様子で口をあんぐりと開けている。
「王が言うならいいんじゃない?」
能天気なウィリーは、そう言って付け合わせのピクルスを食べている。
「まあ、前王はこれの比じゃないほどのカティを囲っていたからなぁ」
ギールクは少し困った顔をして呟いた。
「返事は?」
王が黙ったままのシュジュに問いかけると、
「――は、はい。光栄です」
消え入りそうな声で頷いた。
それを聞くや否や、口を乱暴に拭ったナプキンを置いて、ティナが席を立った。
「気分が優れません。失礼いたします」
ほとんど料理には手をつけないまま、ティナは扉へと向かっていく。
たった今、王の愛人に選ばれたシュジュを睨みつけ、巻き髪を揺らしヒールの音を響かせそのまま部屋を出て行ってしまった。彼女の香水の香りだけが、そこに残った。
「……良いのですか」
左隣に座っているアンセルドが、スープを飲む手を止めてナギリに問いかける。
「構わん。全く、女の嫉妬は恐ろしいな」
我関せずの態度で、ナギリはメインディッシュの七面鳥の香草焼きを丁寧にナイフで切り口に運んでいる。
「英雄色を好む、ってやつだねぇ、うんうん」
何やら楽しそうにウィリーはほほ笑み、ギールクも料理を口に運びだした。
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