上 下
65 / 84
第9章 個人レッスン

初めての乗馬

しおりを挟む
*   *    *

 その後も庭で食事をとり、散歩をし、護衛隊の見学や本が多く本棚に並んでいる所蔵室、パーティールームなどに行って王宮探検ツアーを楽しんだ。

 ツアーコンダクターがこの国の第一王子というのが異例だが。

 王宮ですれ違う人たちは皆、王子が珍しく穏やかな顔をしていることに驚いている。

 隣にいる赤毛の少女が理由なのか、と侍従たちの間で話題は持ちきりだった。



 陽は傾き、夕方になっていた。


「もうこんな時間か。
 体調が悪いのに、連れ回して悪かった」

 ルビオが壁掛け時計を確認し、労わる言葉をかけてくる。


「いえ、大丈夫です。すごく楽しかったです!」

「そうか」


(大好きなゲームの王宮を探検できたんだもの、最高よね。
 ゲームで使用キャラの騎士や宮廷魔術師キャラを見つけて、思わず話しかけたちゃったら、さすがに怪しがられたけど)


 よく自分のパーティに使っていた王宮出身のキャラを見つけては、まるで芸能人を見つけたように騒いで握手を求めてしまった。


「それじゃ、家に戻りますね。
 えーっと帰り道は……」


 マップを唱え、空間に浮かんだ画面を眺める。
 自分のいる王宮から、城下町の家までの道を眺める。

(結構距離があるなあ。暗くなる前に戻らなきゃ)


 マップを見つめて帰り道の最短ルートを考えているアリサの横顔を、そっと見つめるルビオ。


「私が家まで送ろう。
 ……クレイはデートに行っていて、今日は不在だからな」


 姿が見えないと思ったら、側近のクレイは休日のようだ。エマとの関係も順調なようで何よりである。

 王子が勝手に外に出るなんて、と咎めてきそうな相手がいないので、ルビオも気が楽なのだろう。


「いいんですか?」

「ああ、裏口から出て馬に乗ろう」


 そう言うとルビオは身を翻し、人通りの少ない道を歩くと、アリサと共に裏の門からそっと外へ出た。


 なんだか先生に秘密で男子と学校をサボるみたいだな、とそんな青春したことがないアリサはドキドキしながらついて行く。

 城の外に繋げられている馬の背に、軽々と飛び乗るルビオ。


「ほら、手を」


 ルビオが馬の背の上から腕を伸ばし、アリサへ差し出す。


「私、馬に乗ったことなくて……ど、どうすれば」

「大丈夫だ。私に身を預けよ」


 ルビオの言葉に恐る恐る手を伸ばすと、力強く引き上げられ、ルビオに後ろから抱きかかえられる形で馬の上へとまたがった。

 手綱を握るルビオが馬に合図すると、小さく鼻息を漏らした馬がゆっくりと走り出す。

 伝わる振動に体をこわばらせながら、アリサは無意識に手綱を握るルビオの手を握ってしまった。

 少し驚くが、初めて馬に乗るというアリサの気持ちを察し、手を重ねるルビオ。


 馬は軽快に走り、森林を越え、城下町の近くまでやってきた。

 慣れてきたアリサは周りの景色を見ながら、ほっと息をつく。


「生まれて初めて乗馬しましたが、とても気持ちいいですね」

「そうだろう。風を切りながら、眺める景色は格別だ」


 プロフィールの趣味に、乗馬と書いていたルビオは、馬に乗って遠乗りをするのが好きだと言っていた。
 確かに、風を切り進んでいく馬と一体となり進んでいく感覚は、他では味わえないものかもしれない。


「気に入ったならまた乗せてやる」

「ありがとうございます!」


 アリサがお礼を言い振り返ると、頬の横、驚くほど近くにルビオの顔があった。

 澄んだ青い瞳と目が合う。


(わわ、近い……! ドキドキしちゃうな)


 頬を赤くして慌てて前を向いたアリサを見て、口角を上げるルビオ。

 アリサの家の前まで到着し、先に馬から降りたルビオに手を差し伸べられ、おっかなびっくり足をつける。

 いつの間にか日は落ち、月が高く上がっていた。


「昨日今日と、王宮でお世話になりました。
 送ってまで頂いて、ありがとうございます」

「構わん。私も久々に楽しかった」


 月明かりに照らされたルビオの金髪が、稲穂のように美しく輝く。


「ゆっくり寝るが良い。ではな」


 そう残し、ルビオは再び馬に乗ると、手綱を引き自分の住む王宮へと戻っていった。

 その後ろ姿にアリサは力強く手を振った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

処理中です...