14 / 84
第3章 婚活エグゼクティブパーティー
やっかいなこじらせ王子
しおりを挟む
「とりあえず、お話を聞きますので。
よろしければこちらの個室へどうぞ」
まばらにしかいなかったギルドの客たちも、まさかの王子様のご来店に、身を乗り出してやりとりを見つめている。
プライバシーが大切なのが結婚相談所だ。
移動を促すと、納得したのかルビオとクレイは歩き出した。
「どういうことです王子!
私はてっきり僧侶コンの注意をしにきたのかと……」
「私は、相談所に行くと言っただけで、目的は告げていない。お前の早とちりだろう」
「だとしても、こんな城下町の庶民の紹介など、たかが知れておりますよ」
クレイの不躾な言葉に、アリサはムッとする。
確かに、たかが庶民だけど。前世では優秀だと入社してすぐに表彰されたこともあるし。僧侶コンだって成功だったし。
心の中で文句を言いながら、拗ねて唇を尖らせる。
個室のソファへ座るよう案内すると、ルビオは深々と座り、膝の上で手を組んだ。
「大臣や側近のお前たちが選ぶ女は、ろくな者がいないじゃないか」
「今まで会っていただいたのは、全員同盟国の王女や、貴族の出身の者ですぞ」
「だからだ。高飛車で気の強い女ばかりで性に合わん。
そして、この私を政治の道具にするやり方も気に食わん」
長い足を組み、憮然と言い放つルビオに、クレイは押し黙ってしまった。
ガーネット王国の王子たるもの、見合い相手ももちろん皇族や貴族の血筋の良い女性が良いはずなので、クレイの意見は間違っていないと思うが。
「もう二十人も、見合いを断ってますもんね……」
「に、二十人?」
クレイの嘆きに、アリサが思わず声を上げて聞き返してしまった。
前世でも、紹介する女性を次々と却下する男性はいたが。
二十人も突っぱねるのは、ベテランのスタッフでさえ早く退会していただきたいと願う、モンスター級の会員だ。
どうやら目の前にいるルビオ王子は、かなり厄介な人物のようだ。
(ええと、確か二十三歳、独身。
魔法も剣も使えるしスキルも有能なキャラだったな。
少し俺様な性格だけどそこも素敵だと思ってた。
恋愛の話はメインストーリーに絡まなかったから、知らなかった……)
前世ならハリウッドスターかトップモデル並みの美形なルビオをこっそりと盗み見ながら、口論をしている二人を眺める。
「ええと、では結婚相談所への入会をご希望でよろしいですか」
「ああ構わん。金はいくらでも払う」
一国の王子は当たり前のように告げる。
「わかりました。
ではまず、お手数ですがこちらのプロフィールカードにご記入ください」
マニュアル通り、新たな会員様にはプロフィールカードを書いてもらう。アリサは紙とペンを手渡した。
ルビオは興味深そうに記入項目に目を落としていたが、しばらくしたら書かずに机の上に置いた。
「記入欄が小さくて書ききれない場合は、どうすればい良い」
「口頭で伝えていただければ、私の方で記入いたしますよ」
そう伝えるとルビオは、ふむ、と相槌を打ち、一つの項目を指差した。
『好きな異性のタイプ』の項目だ。
「私が求める理想の妻はこうだ」
ルビオは人差し指を立てると、すらすらと語り出した。
「まず、彫刻のように美しいのが第一条件だ。
馬鹿な者は論外だな、高等教育を受けており教養高いのも必須だ。
会話が楽しいが、ペチャクチャとうるさすぎず、しとやかなのが良い。
バイオリンやハープなど楽器が弾けると、演奏会も開けて良いな。
私が趣味のボードゲームや乗馬を楽しんでいるときには、邪魔をしないのも重要だ。機嫌悪くされたら鬱陶しくて敵わん」
「え、ちょっとちょっと」
メモを書く手が追いつかない。
次から次へと、女性への要求が出てくる。
(た、大変なお客さまが来ちゃったわ……!)
典型的な男尊女卑思考、かつ自己中心的な考え方に、アリサの表情は固まった。
隣に座るクレイが頭を抱えていた。
アリサも同じポーズでうなだれたかったのを、仕事中なので必死に耐える。
(こ、こんなにプライドが高くて、しかもそれを悪いと全く思っていないこじらせ男子は、流石に初めてだわ……!
ゲームではカッコよくて好きなキャラだったのに、こんな人だと思わなかった!)
その辺の独身男性が言っていたら、どの口が言ってるの、と小突きたくなるところだが、相手が超美形かつ超優秀なガーネット王国第一王子、ルビオ様なのが始末に悪い。
「どうだ。この条件を満たす者はいるか?」
(いるわけがない!)
アリサは喉まで出た言葉を飲み込み、一応会員の情報を束ねたファイルを読むふりをする。
できて数日の相談所の会員に、彼を満足させるほどの女性など、そう簡単に来ないと頭を悩ませた。
あなたの理想の相手などいません。
成婚などできません、などと言ったら、王子の権力を使って相談所ごと潰されてしまいそうだ。
しかし、ここは腕の見せ所だ。
ベテランアドバイザーの先輩たちも匙を投げたような、モンスター級の会員だって、根気強く相談に乗り、成婚させた実績を持っている。
新人の頃にはアドバイザー指名率&成婚率が関東一位で、表彰までされた、この私が。
(成婚できない人なんていない!)
アリサは会員の名簿を閉じ、目の前の美形な青年の目をまっすぐ見つめた。
よろしければこちらの個室へどうぞ」
まばらにしかいなかったギルドの客たちも、まさかの王子様のご来店に、身を乗り出してやりとりを見つめている。
プライバシーが大切なのが結婚相談所だ。
移動を促すと、納得したのかルビオとクレイは歩き出した。
「どういうことです王子!
私はてっきり僧侶コンの注意をしにきたのかと……」
「私は、相談所に行くと言っただけで、目的は告げていない。お前の早とちりだろう」
「だとしても、こんな城下町の庶民の紹介など、たかが知れておりますよ」
クレイの不躾な言葉に、アリサはムッとする。
確かに、たかが庶民だけど。前世では優秀だと入社してすぐに表彰されたこともあるし。僧侶コンだって成功だったし。
心の中で文句を言いながら、拗ねて唇を尖らせる。
個室のソファへ座るよう案内すると、ルビオは深々と座り、膝の上で手を組んだ。
「大臣や側近のお前たちが選ぶ女は、ろくな者がいないじゃないか」
「今まで会っていただいたのは、全員同盟国の王女や、貴族の出身の者ですぞ」
「だからだ。高飛車で気の強い女ばかりで性に合わん。
そして、この私を政治の道具にするやり方も気に食わん」
長い足を組み、憮然と言い放つルビオに、クレイは押し黙ってしまった。
ガーネット王国の王子たるもの、見合い相手ももちろん皇族や貴族の血筋の良い女性が良いはずなので、クレイの意見は間違っていないと思うが。
「もう二十人も、見合いを断ってますもんね……」
「に、二十人?」
クレイの嘆きに、アリサが思わず声を上げて聞き返してしまった。
前世でも、紹介する女性を次々と却下する男性はいたが。
二十人も突っぱねるのは、ベテランのスタッフでさえ早く退会していただきたいと願う、モンスター級の会員だ。
どうやら目の前にいるルビオ王子は、かなり厄介な人物のようだ。
(ええと、確か二十三歳、独身。
魔法も剣も使えるしスキルも有能なキャラだったな。
少し俺様な性格だけどそこも素敵だと思ってた。
恋愛の話はメインストーリーに絡まなかったから、知らなかった……)
前世ならハリウッドスターかトップモデル並みの美形なルビオをこっそりと盗み見ながら、口論をしている二人を眺める。
「ええと、では結婚相談所への入会をご希望でよろしいですか」
「ああ構わん。金はいくらでも払う」
一国の王子は当たり前のように告げる。
「わかりました。
ではまず、お手数ですがこちらのプロフィールカードにご記入ください」
マニュアル通り、新たな会員様にはプロフィールカードを書いてもらう。アリサは紙とペンを手渡した。
ルビオは興味深そうに記入項目に目を落としていたが、しばらくしたら書かずに机の上に置いた。
「記入欄が小さくて書ききれない場合は、どうすればい良い」
「口頭で伝えていただければ、私の方で記入いたしますよ」
そう伝えるとルビオは、ふむ、と相槌を打ち、一つの項目を指差した。
『好きな異性のタイプ』の項目だ。
「私が求める理想の妻はこうだ」
ルビオは人差し指を立てると、すらすらと語り出した。
「まず、彫刻のように美しいのが第一条件だ。
馬鹿な者は論外だな、高等教育を受けており教養高いのも必須だ。
会話が楽しいが、ペチャクチャとうるさすぎず、しとやかなのが良い。
バイオリンやハープなど楽器が弾けると、演奏会も開けて良いな。
私が趣味のボードゲームや乗馬を楽しんでいるときには、邪魔をしないのも重要だ。機嫌悪くされたら鬱陶しくて敵わん」
「え、ちょっとちょっと」
メモを書く手が追いつかない。
次から次へと、女性への要求が出てくる。
(た、大変なお客さまが来ちゃったわ……!)
典型的な男尊女卑思考、かつ自己中心的な考え方に、アリサの表情は固まった。
隣に座るクレイが頭を抱えていた。
アリサも同じポーズでうなだれたかったのを、仕事中なので必死に耐える。
(こ、こんなにプライドが高くて、しかもそれを悪いと全く思っていないこじらせ男子は、流石に初めてだわ……!
ゲームではカッコよくて好きなキャラだったのに、こんな人だと思わなかった!)
その辺の独身男性が言っていたら、どの口が言ってるの、と小突きたくなるところだが、相手が超美形かつ超優秀なガーネット王国第一王子、ルビオ様なのが始末に悪い。
「どうだ。この条件を満たす者はいるか?」
(いるわけがない!)
アリサは喉まで出た言葉を飲み込み、一応会員の情報を束ねたファイルを読むふりをする。
できて数日の相談所の会員に、彼を満足させるほどの女性など、そう簡単に来ないと頭を悩ませた。
あなたの理想の相手などいません。
成婚などできません、などと言ったら、王子の権力を使って相談所ごと潰されてしまいそうだ。
しかし、ここは腕の見せ所だ。
ベテランアドバイザーの先輩たちも匙を投げたような、モンスター級の会員だって、根気強く相談に乗り、成婚させた実績を持っている。
新人の頃にはアドバイザー指名率&成婚率が関東一位で、表彰までされた、この私が。
(成婚できない人なんていない!)
アリサは会員の名簿を閉じ、目の前の美形な青年の目をまっすぐ見つめた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました
白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。
「会いたかったーー……!」
一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。
【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる