上 下
15 / 18
第3章

15.ゴミは拾って捨てなさい

しおりを挟む
数日間、生徒たちの学生生活を観察してクロエにわかったことがある。
便宜上、妖精・獣人・牙角族・人型と悪魔を無理やり4つのタイプに分け、クラス長をその上につけているのだが。

やはり生来、体が大きく、たくましい種族が学園内でのイニシアティブをとっていることが多いようなのだ。

人間と同じ170cm程度の者が多い人型族、それよりも小柄な妖精族は、獣人や牙角族に一線を引いているように見える。


ドラゴンやリザードマンのいる牙角族は、そもそも人数が少ない上に、自尊心が高いため他者をいじめるようなことはしないが、獣人たちは数も多く、徒党を組んで威嚇してくるため厄介だ。


食堂の行列を横入りしては、ドワーフに向かって「小さくて見えなかったぜ」と笑ったり。
扉を開けるのに足で蹴破ったり、ゴミ箱に物を投げたり、休み時間は下品な話をしては大声で笑ってたり。

アリスとリリーのように、女子は呆れて無視しているようだが、やはり集団生活で種族間での軋轢はよくない。



*     *     *



放課後、クロエは掃除当番だったためモップで教室の床を拭いていた。

黒板を消す人や窓を拭く人もいて、テキパキと清掃が行われる中、教室の後ろの方では数人の獣人の男子たちが楽しそうに会話をしていた。


「授業終わったんだから、くっちゃべるなら寮に帰ればいいのに……」


アリスが雑巾を洗いながら、ため息混じりに不良集団を見る。


「クロエさん、彼らが帰ったら僕が残りを掃除しときますよ」


日直のため日誌を書いていたレヴィンが、何か言いたげな視線を獣人たちに向けているクロエをなだめるように言う。


「レヴィンさんは掃除当番ではないじゃないですか」

「日誌書くのにもう少し時間かかるんで、構いませんよ」


にこり、とレヴィンは微笑む。
その瞳には、「あいつらは何言っても無駄だから、面倒ごとは避けましょう」と書かれている。

しかし、モップを手に持ったクロエは思う。


一部の傍若無人な奴らのために、周囲が気を使うのはいかがなものか、と。
誰かが咎めなければいけないのだ、と。


教師の悪口でゲラゲラ笑っている獣人たち。


その中心にいるギルバートは、おやつ代わりの揚げたネズミの肉を齧っていた。

フェンリルの悪魔の彼は、肉食獣らしく牙のある大きな口でネズミの肉を咀嚼したあと、口の中に残った骨を床に吐き出した。


乾いた音がして、白い骨がクロエの足元近くに転がってくる。


クロエが眉をひそめたのを見て、レヴィンが「まずい」と思ったのか、立ち上がろうとした瞬間、それよりも早く、クロエは獣人たちに近づいた。


「ギルバートさん、ちょっとよろしいかしら」


腰まで伸びた美しい銀髪をなびかせ、穏やかな笑みを浮かべて話かけるクロエ。
机の上に足を乗せてふんぞり返っていたギルバートが、視線だけクロエに向けた。


「このあたりはもう掃除したんです。拾ってくださらない?」

「……ああ?」


クロエは、足元に落ちているギルバートが吐き出した骨を指差した。
しかし、取り巻きの獣人たちはクスクスと笑っているし、ギルバートは動こうとしない。


「掃除当番はアンタだろ。そのモップで掃除しといてくれよ」


とクロエの持っているモップを指差し、鬱陶しいと言わんばかりだ。
アリスやレヴィン、そのほかの掃除当番たちが、怖いもの知らずなクロエに助け舟を出せずに固まっていると、


「品性がなく、短気で短絡的な方だと思ってましたが、言葉も理解できないのかしら?」


涼やかな声で、クロエは教室でたむろする不良たちに堂々と言い放つ。



「自分のゴミは自分で拾って捨てなさい。……って言ってますのよ」



一歩も引かないと、強い意志を持って。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...