上 下
14 / 18
第3章

13.獣人だけはほんと無理

しおりを挟む
「どこ見て歩いてやがるんだ!」


そんな楽しい女子トークを遮る、いかつい叫び声が響いた。
アリスとリリーはびくりと肩を震わせ、クロエも声がした方をゆっくり振り返る。

そこには、背が高くたくましい体つきの男子生徒が数人で揉めていた。



「テメェ、よそ見してぶつかってきやがって。ギルバートさんに謝りやがれ!」


 
怒鳴りつけているのは、髪の毛をツンツンに逆立てた獣人の男だった。怒ると毛が逆立つ彼らは、肉食獣の牙を見せながら威嚇している。

どうやらすれ違いざまに、向かいを歩いていたドワーフの男子と肩がぶつかったらしい。


「ご、ごめんなさい……よそ見してて」


どうやら先にぶつかったのはドワーフのようだが、小柄な彼はぶつかった衝撃で床に転んで尻餅をついてしまっていて、獣人たちは立ったままだ。体格差で跳ね飛ばされたらしい。


「ごめんなさいで済んだら戦争は起こんねえよなぁ!」

「ギルバートさんに謝れよ!」

「す、すみません!」


 取り巻き二人に凄まれ、ドワーフはペコペコと頭を下げている。
 中心にいたギルバードは、釣り上がった細い眉を寄せた後、


「……気ィつけろよ」


と舌打ち混じりに睨みつけている。

ドワーフは平謝りをしながらそそくさと去っていき、憮然としたギルバードと、ヘラヘラ笑う取り巻きの獣人男子たちは肩で風を切りながら歩いて行った。


その様子を影から見ていたクロエ、アリス、リリーの三人。


「さいて―い。三人で横並びに歩いてる方が邪魔じゃんね」

「強い男子は素敵だけど、獣人だけはほんと無理だわ」


 アリスは舌を出し、リリーは肩をすくめて呆れている。


「獣人族たちは、普段からあんな感じなのかしら?」

「そうそう。体がデカくて見た目がイカついから、みんなビビっちゃって。どんどん調子に乗ってるよね」

「ただの輩だわ。関わりたくないわね」


 そうして、アリスとリリーは獣人たちの普段からの素行の悪さをつらつらと愚痴りだした。
 食堂で並ぶ順番抜かされたから、注意したら睨まれたとか。

 気に入らない教師に喧嘩ふっかけたせいで授業にならなかったとか。


「クラス長のギルバードが率先して荒れてるから、手がつけられないわよね」

「うん、獣人たちは団結力だけはあるから」

「なるほど……」


確かに、クロエが転校初日、女だから気に食わないだの、本当に強いのかだの、初対面で文句を言ってきたのはギルバートだった。

敵の喉元に食いつき、食いちぎるフェンリルの彼は、普段から血の気も多いのだろう。


(……学園の秩序のために、放っておくわけにはいかないわね)


弱肉強食なのは野生の世界だけで良い。

悪魔同士で団結し、人間を滅ぼすために戦わなければいけないのだから、学園の生徒同士で内輪揉めしている暇はないのだ。

クロエは去っていくギルバートの、大きく鍛えられた背中を見つめ、考えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい

緋影 ナヅキ
恋愛
    男女比が5:1、一妻多夫が当たり前な世界。  前世、大災害により高校1年生(16歳)で死亡した相模ほのか(サガミ ホノカ)だった記憶のある公爵令嬢アンジュ=リーノ=エルドラードは、そんな世界に転生した。  記憶と生来の性格もあってか、基本心優しい努力家な少女に育った。前世、若くして死んでしまったほのかの分も人生を楽しみたいのだが…    双子の兄に、未来の騎士団長、隠れヤンデレな司書、更には第2王子まで…!ちょっ、なんでコッチ来るの?!  という風になる(予定の)、ご都合主義合法逆ハーレムファンタジー開幕です! *上記のようになるまで、かなり時間(話)がかかります。30,000文字いってもまだまだ新たな婚約者が出てきません。何故こうなった… *腐女子(親友)が出てきます。苦手な方は自衛して下さい。忠告はしたので、文句は受け付けません。  ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽  この作品は『野いちご』『エブリスタ』でも投稿しています。  作者学生のため、カタツムリ更新です。文才皆無なので、あまり期待しないで下さい。   *表紙は ぽやぽやばぶちゃんメーカー で作ったアンジュ(幼少期)イメージです。  メーカーは下記のリンク⇓ https://picrew.me/ja/image_maker/11529 *うわぁぁーっ!!お気に入り登録100ありがとうございます! 2022/10/15 *お気に入り登録208ありがとうございます!2023/03/16 *お気に入り登録300ありがとうございます!2023/05/07 *教会➂➃の属性の部分をいくつか修正しました。作者である僕ですら意味分からないのもあったので…w 2023/04/25 *お気に入り登録400ありがとうございます!2023/07/15

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~

皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。 それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。 それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。 「お父様、私は明日死にます!」 「ロザリア!!?」 しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

処理中です...