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第2章

9.少しよろしいかしら

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結局、レヴィンから魔力のデザートをもらっても足りなかったらしく、6限後も生徒の魔力を食べたローランは、1日で何人もの悪魔を保健室送りにしていた。

そして本人はそれに対して悪びれもせず、ニコニコしながらふわふわと宙を浮いている。

他の悪魔たちも彼に文句を言ったり、力づくで突っぱねればいいのだが、さすがはクラス長に選ばれるだけあり、彼の強大な魔力と素早い魔力吸引術に叶う者はそういないらしく、目をつけられる前に逃げるという対処しかできないらしい。

力づくでぶん殴るギルバードや、シールドを張るオスカーのような、同じくクラス長レベルでないと、ローランの気まぐれで魔力を吸われてしまうようなのだ。



授業が終わった放課後の教室で、教科書を律儀に揃えカバンにしまったクロエは、ゆっくりと立ち上がった。

ふわふわと浮かびながら、レヴィンと雑談をしているローランの前に歩み寄る。


「ローランさん、少しよろしいかしら」

「なに? クロエちゃん。今の悪魔歴史学でわからないところでもあった?」

「いえ、歴史学は得意なもので」


ローランからの問いに毅然と答えるクロエ。


「あなたの、ところ構わず人の魔力を吸い込み、保健室送りにする行動は、著しく学園の風紀を乱しております」


 凛としたクロエの声が、静かな教室に響き渡った。

 昨日来たばかりの転入生が、曲がりなりにもクラス長であるローランを戒めるような物言いをするものだから、空気は途端に張り詰めた。


その空気を察し、ローランは空中に浮いていたが、床の上に立ち、真っ直ぐにクロエを見つめ返した。


「あはは、怖い顔しないでよークロエちゃん。
僕だってなにも死ぬほど魔力とってるわけじゃないし、ほんの味見程度で……」


「でも、保健室で休憩している生徒はその時間授業を受けられず、学力に差が出てしまいます。
さらに、休憩時間のたびにあなたに魔力を吸われることに怯えて、心を休めることができないでしょう」


 ローランの挙動をみなチラチラと気にし、彼が小腹が空いていそうだったら理由をつけて教室から去る者ばかりだった。


「生徒同士の団結力をつけられませんし、人間討伐という大義名分において、士気も下がります」

「そ、そんなぁ……」


大袈裟に言われ、傷ついたようにローランは涙を目に浮かべるが、静かに聞いていたクラスの他の悪魔たちは、よく言った魔王令嬢! と内心ガッツポーズをとっていた。


「でもでも、どうすればいいの? 僕に常に腹ペコでいろってこと? 
口から食事を取れる君たちには、僕の空腹感は理解できないよ!」


 口から食事をし、胃を満たすことができる人型の悪魔たちと違い、ピクシーは魔力でしか己の欲望を満たせない。
 顔をくしゃくしゃに歪めるローラン、その隣で腕を組み、二人の会話を静観しているレヴィン。


 クロエはそっと片手を前に出し、ローランに向かってかざした。

 

 ブォン……。



 途端、空気が振動し、ゆらめく衝動が彼らに届いた。


「今、わたくしの力で、あなた方が常にまとっている魔力を可視化いたしました」


クロエがそういうと、レヴィンとローランの周りに、金の光が取り巻いているように見える。


「ローランさん、あなたがなぜそんなにもお腹が減るのか。
 言い換えるなら、なぜ魔力がそんなに減るのか、教えて差し上げますわ」


 魔力は、人間で言うところの体力と同じだ。

 生活しているだけで常に減るが、食事や睡眠をとることでまた元に戻る。


 魔力が大幅に減る時は、大きな魔法を使用したり、戦闘をして体が傷ついた時だ。

 普通に学園生活を送るぐらいならば、魔法石の魔力を食べれば満足いくはずなのである。
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