6 / 18
第1章
6.それは光栄です
しおりを挟む
「教室に戻りましょう。学生の本分を忘れて遅刻しては元も子もありませんものね」
クロエがそう言うと、三人も頷いてそぞろに歩き出した。
「ああ、そうだ、レヴィンさん」
呼び止めると、眼鏡をかけたレヴィンがゆっくりと振り返った。
「なんですか?」
「もしよかったら、学園の案内をしてくださらないかしら。
あなたは優しく穏やかで、後輩への指導も一番上手だと聞きまして」
驚いたように目を丸くしていたが、褒められて悪い気はしなかったようだ。
「それは光栄です、僕でよければぜひ。魔王令嬢さま」
照れたようにはにかんだレヴィンは、それでは昼休みに教室前に集合しよう、とクロエと約束を取り付けて教室へと戻っていった。
* * *
チャイムの音は聞こえていたが、オスカーは校舎裏を歩いていた。
金髪を風になびかせ、眉間に皺を寄せ、普段のクールな彼からは想像できない形相だ。
「くだらん、くだらん、くだらん……!」
急に現れた魔王の娘だという銀髪の少女の言葉に、胸元を掴みながら吐き捨てる。
そうして地面を強く蹴ると、ドラゴン族の彼はいとも簡単に高く遠い青空へと飛び立った。
* * *
クロエは教室の最前列に座り、一限の『魔法薬学』の授業を受けながら、頭の中では父親との会話を思い返していた。
『クロエ。クラス長の4人の中でも、特にこの2人には気をつけろ』
父、ヴィンスは気だるげに玉座に座りながら、人差し指を立てる。
『マテリアドラゴンの末裔、オスカーは強大な力を持っている。敵に回すとそなたでも危険だ』
誰よりも強い力を持っている父がそう言うのだから、きっと間違いない。
怒った彼と対峙した時の灼熱の温度と、焦げたドアノブの跡を思い出す。
オスカーが本気を出せば、この学園などすぐに燃え尽き、塵と化すのが想像できた。
『もう一人は誰ですの?』
クロエの問いに、ヴィンスは顔を少しだけ曇らせた。
『……レヴィンだ』
ヴィンスは黒髪で穏やかなエルフの名前を挙げたのだ。
『穏やかで理性的なエルフに見えるが、あの瞳の奥は底知れぬ。深入りするなよ』
クロエは、実際に会ってみて彼からは何も不穏なものを感じなかった。
しかし、父が言うのだから信じてみようと、監視のために彼に学園の案内を依頼したのであった。
* * *
窓側の一番後ろの席で、レヴィンは講義を受けていた。
ノートを開き、教師の言う薬学の基礎をノートにメモしながら、頭では違うことを考えている。
魔王の娘が自らこの学園に来るなんて、面白い。
飛んで火に入る夏の虫とはよく言ったものだ、と。
穏便で人畜無害な、人型のエルフ。
そして優等生のクラス長の自分が、どんなことを考えているのか彼女は知っているのだろうか?
「……ふふ」
顔を上げ、黒板を見るそぶりをしながら、最前列に座る銀髪の少女の後ろ姿をそっと見つめる。
レヴィンのメガネの奥の瞳が、きらりと欲望に歪んでいた。
クロエがそう言うと、三人も頷いてそぞろに歩き出した。
「ああ、そうだ、レヴィンさん」
呼び止めると、眼鏡をかけたレヴィンがゆっくりと振り返った。
「なんですか?」
「もしよかったら、学園の案内をしてくださらないかしら。
あなたは優しく穏やかで、後輩への指導も一番上手だと聞きまして」
驚いたように目を丸くしていたが、褒められて悪い気はしなかったようだ。
「それは光栄です、僕でよければぜひ。魔王令嬢さま」
照れたようにはにかんだレヴィンは、それでは昼休みに教室前に集合しよう、とクロエと約束を取り付けて教室へと戻っていった。
* * *
チャイムの音は聞こえていたが、オスカーは校舎裏を歩いていた。
金髪を風になびかせ、眉間に皺を寄せ、普段のクールな彼からは想像できない形相だ。
「くだらん、くだらん、くだらん……!」
急に現れた魔王の娘だという銀髪の少女の言葉に、胸元を掴みながら吐き捨てる。
そうして地面を強く蹴ると、ドラゴン族の彼はいとも簡単に高く遠い青空へと飛び立った。
* * *
クロエは教室の最前列に座り、一限の『魔法薬学』の授業を受けながら、頭の中では父親との会話を思い返していた。
『クロエ。クラス長の4人の中でも、特にこの2人には気をつけろ』
父、ヴィンスは気だるげに玉座に座りながら、人差し指を立てる。
『マテリアドラゴンの末裔、オスカーは強大な力を持っている。敵に回すとそなたでも危険だ』
誰よりも強い力を持っている父がそう言うのだから、きっと間違いない。
怒った彼と対峙した時の灼熱の温度と、焦げたドアノブの跡を思い出す。
オスカーが本気を出せば、この学園などすぐに燃え尽き、塵と化すのが想像できた。
『もう一人は誰ですの?』
クロエの問いに、ヴィンスは顔を少しだけ曇らせた。
『……レヴィンだ』
ヴィンスは黒髪で穏やかなエルフの名前を挙げたのだ。
『穏やかで理性的なエルフに見えるが、あの瞳の奥は底知れぬ。深入りするなよ』
クロエは、実際に会ってみて彼からは何も不穏なものを感じなかった。
しかし、父が言うのだから信じてみようと、監視のために彼に学園の案内を依頼したのであった。
* * *
窓側の一番後ろの席で、レヴィンは講義を受けていた。
ノートを開き、教師の言う薬学の基礎をノートにメモしながら、頭では違うことを考えている。
魔王の娘が自らこの学園に来るなんて、面白い。
飛んで火に入る夏の虫とはよく言ったものだ、と。
穏便で人畜無害な、人型のエルフ。
そして優等生のクラス長の自分が、どんなことを考えているのか彼女は知っているのだろうか?
「……ふふ」
顔を上げ、黒板を見るそぶりをしながら、最前列に座る銀髪の少女の後ろ姿をそっと見つめる。
レヴィンのメガネの奥の瞳が、きらりと欲望に歪んでいた。
10
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。
作者のめーめーです!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

目には目を歯には歯を!ビッチにはビッチを!
B介
恋愛
誰もいないはずの教室で絡み合う男女!
喘ぐ女性の声で、私は全て思い出した!
ここは乙女ゲームの世界!前世、親の借金のせいで若くして風俗嬢となった私の唯一のオアシス!純愛ゲームの中で、私は悪役令嬢!!
あれ?純愛のはずが、絡み合っているのはヒロインと…へ?モブ?
せめて攻略キャラとじゃないの!?
せめて今世は好きに行きたい!!断罪なんてごめんだわ!!
ヒロインがビッチなら私もビッチで勝負!!
*思いつきのまま書きましたので、何となくで読んで下さい!!
*急に、いや、ほとんどR 18になるかもしれません。
*更新は他3作が優先となりますので、遅い場合申し訳ございません!

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる