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第1章
1.風紀が乱れておる
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満月の夜。
荘厳なる闇の城の玉座に男が座っている。
天井ではコウモリが赤い目を光らせ、羽音を立てて飛び回っている。
静寂の中、玉座に頬杖をついていた男が目の前の暗闇に声をかけた。
「クロエ、こちらへ来なさい」
浅黒い肌の屈強な体、神秘的な銀髪を靡かせた男がそう名前を呼ぶと、音もなく玉座の前に少女が姿を現した。
「―――お呼びでしょうか、お父様」
上品なレースのドレスの裾を摘み、頭を下げ少女は礼をした。
蝋燭の光のみで照らされた薄闇の中、病的なまでに白い肌がいっそう不気味である。
父と呼んだ玉座の男と同じ銀色で、腰まである長い髪がゆっくりと揺れる。
「可愛い娘よ、父の願いを聞いてくれないか」
肩肘をつきながら、ため息混じりに目の前の少女に声をかける男。
「偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様の願いなら、何なりと」
少女は胸に手を当て、尊敬と畏怖の念を込めて父の二つ名を呼んだ。
「……最近、学園の風紀が乱れているようだ」
ヴィンスはそう告げ、手元にある水晶玉を撫でた。
そこには大きな建物の中に、若い悪魔たちが各々過ごしている様が映し出されている。
「憎き人間たちを屠り、悪魔だけの世界を作るために、日々魔力や体術の訓練、戦略の勉強をする目的の学園だというのに。最近は力の強い生徒が、各々の派閥を作り争い合っているらしい」
「まあ……」
数百年前から敵対する人間を滅ぼし、悪魔だけの闇の世界を作るために、魔王ヴィンスは自らの部下となる強力な悪魔を養成するための学園を創立したのだ。
すでに数百人もの生徒が魔王の側近を目指し通っているのだが、秩序や規律を乱す者が増えているらしい。
クロエは父の言葉に口元を手で押さえ、嘆かわしい、と声を漏らした。
「私が直接指導に行きたいところだが、次々と襲いかかってくる人間たちの相手が忙しくて、なかなか時間が取れん」
眉根を寄せ真紅の瞳を忌々しそうに細めるヴィンス。
毎日のように、魔法を使う者や剣を振るう者、様々な方法や力を用いて、この闇の城に人間が訪れる。
しかしーーー魔王を倒せた者は、いまだに一人もいないのだ。
「お父様に敵うわけがないのに……人間というのも愚かなものですね」
クロエが首を傾げながら哀れだと呟くと、ヴィンスは微かに口角を上げた。
「そこでだ。クロエ、お前が学園に通う悪魔たちの指導をしてくれ」
魔王である父の提案に、クロエは驚き目を丸くする。
「私が……ですか?」
思いもよらない言葉に戸惑う娘を、ヴィンスは自らの銀髪を掻き上げまっすぐに見つめる。
「人間たちをひれ伏させ、悪魔の生きる世の中にするためには、お前の力が必要だ」
手元の水晶玉の光を消し、たくましい手をクロエの方へと向けた。
「お前の全てを凍らす氷の魔法は、唯一無二の力だからな」
古城の中に冷えた風が吹き抜け、蝋燭の火が揺らめく。
父親からの信頼に応えるため、少し思案した後、
「かしこまりました。偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様。
わたくし、クロエが必ずやお父様の願いを叶えてみせます」
気高く優雅に、スカートの裾を摘み玉座に向かい深く礼をした。
魔王は真紅の瞳を見開き、満足げに頷く。
「良い返事だ。存分に励んでくれ」
二人だけの密約は、誰にも聞かれぬまま真夜中に交わされた。
荘厳なる闇の城の玉座に男が座っている。
天井ではコウモリが赤い目を光らせ、羽音を立てて飛び回っている。
静寂の中、玉座に頬杖をついていた男が目の前の暗闇に声をかけた。
「クロエ、こちらへ来なさい」
浅黒い肌の屈強な体、神秘的な銀髪を靡かせた男がそう名前を呼ぶと、音もなく玉座の前に少女が姿を現した。
「―――お呼びでしょうか、お父様」
上品なレースのドレスの裾を摘み、頭を下げ少女は礼をした。
蝋燭の光のみで照らされた薄闇の中、病的なまでに白い肌がいっそう不気味である。
父と呼んだ玉座の男と同じ銀色で、腰まである長い髪がゆっくりと揺れる。
「可愛い娘よ、父の願いを聞いてくれないか」
肩肘をつきながら、ため息混じりに目の前の少女に声をかける男。
「偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様の願いなら、何なりと」
少女は胸に手を当て、尊敬と畏怖の念を込めて父の二つ名を呼んだ。
「……最近、学園の風紀が乱れているようだ」
ヴィンスはそう告げ、手元にある水晶玉を撫でた。
そこには大きな建物の中に、若い悪魔たちが各々過ごしている様が映し出されている。
「憎き人間たちを屠り、悪魔だけの世界を作るために、日々魔力や体術の訓練、戦略の勉強をする目的の学園だというのに。最近は力の強い生徒が、各々の派閥を作り争い合っているらしい」
「まあ……」
数百年前から敵対する人間を滅ぼし、悪魔だけの闇の世界を作るために、魔王ヴィンスは自らの部下となる強力な悪魔を養成するための学園を創立したのだ。
すでに数百人もの生徒が魔王の側近を目指し通っているのだが、秩序や規律を乱す者が増えているらしい。
クロエは父の言葉に口元を手で押さえ、嘆かわしい、と声を漏らした。
「私が直接指導に行きたいところだが、次々と襲いかかってくる人間たちの相手が忙しくて、なかなか時間が取れん」
眉根を寄せ真紅の瞳を忌々しそうに細めるヴィンス。
毎日のように、魔法を使う者や剣を振るう者、様々な方法や力を用いて、この闇の城に人間が訪れる。
しかしーーー魔王を倒せた者は、いまだに一人もいないのだ。
「お父様に敵うわけがないのに……人間というのも愚かなものですね」
クロエが首を傾げながら哀れだと呟くと、ヴィンスは微かに口角を上げた。
「そこでだ。クロエ、お前が学園に通う悪魔たちの指導をしてくれ」
魔王である父の提案に、クロエは驚き目を丸くする。
「私が……ですか?」
思いもよらない言葉に戸惑う娘を、ヴィンスは自らの銀髪を掻き上げまっすぐに見つめる。
「人間たちをひれ伏させ、悪魔の生きる世の中にするためには、お前の力が必要だ」
手元の水晶玉の光を消し、たくましい手をクロエの方へと向けた。
「お前の全てを凍らす氷の魔法は、唯一無二の力だからな」
古城の中に冷えた風が吹き抜け、蝋燭の火が揺らめく。
父親からの信頼に応えるため、少し思案した後、
「かしこまりました。偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様。
わたくし、クロエが必ずやお父様の願いを叶えてみせます」
気高く優雅に、スカートの裾を摘み玉座に向かい深く礼をした。
魔王は真紅の瞳を見開き、満足げに頷く。
「良い返事だ。存分に励んでくれ」
二人だけの密約は、誰にも聞かれぬまま真夜中に交わされた。
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