【完結】婚約破棄後に暗殺された王女は追放された異教徒の騎士に溺愛されて困る

中島マリア

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第5話 天使

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 天使様に前世の記憶を呼び覚ましていただいた。おぼろげながら記憶が蘇ってくる。

「あなたの前世はヨシエ・ヤマグチさんという方ですね。『R.I.P. Y.Y. ナガサキ, ジパング AC1921~1945』と死亡記録に記載されています」
「うーん、微かにそんな記憶があるような、ないような。でもジパングって国名だったかしら」
 
 たしか、ヤパンとかジッポンみたいな名前だった気がする。

「ジパングで若くして亡くなられた方は幻想世界への適応が早くて世界をよく救ってくれるので女神様も我々天使も大助かりしています。たいてい、男性は勇者に、女性の方は聖女になられていますね」

 私と同郷の人は真面目で聖人的な人が多いらしい。世界を救うとか、とても私には務まりそうにない。

「天使様がお仕えになられる女神様がいらっしゃるのですね。聖典には僅かにしか記載がありませんが世界を一週間で創造なされたと聞きます」
「私どもが仕える女神様はジパングの文化がたいへんお好きで、中でもコンソール向けの乙女ゲームにいたく感銘を受けられ、それを参考に世界をお作り遊ばれているんですよ。我々天使は女神様の世界を基礎にしてバランスを調整し誰の魂をどのような人物に入れるかてきとうに考えています」
「へぇー、乙女ゲームですか。何かしらそれは。コックリさんみたいなテーブルゲームのようなものでしょうか?」
「ご存じありませんか。女性向けのアドベンチャーゲームのことです。私は美国担当天使なのでジパング製のコンソールゲームは入手が総じて困難です。こちらですとあまりローカライズされていないのですよ。現地でパブリッシャーを探すのは大変な苦労があるそうです」
「あの……、異世界語で話されてます?」
「いえ、バベルの塔以前の共通言語で話しております。話を戻しますと、我々天使が参考にできそうなコンソールゲー厶と言えば、ハックスラッシュやローグライクのダークファンタジーばかりで、それらの高難易度コンテンツを乙女ゲームの世界へ強引に移植してるので、世界観が少々チグハグになり様々な弊害が生じて困っています」
 
 天使様は少し早口で世界の理と創造について語られた。私の宗教学の知識と信仰心のレベルでは理解が難しかった。

「えーっと、簡単に言えば様々な世界の神話や物語を参考に新たな世界を作られているわけですか?」
「そうです。この世界は乙女ゲームである『女神様と恋の秘密』、ハックスラッシュの『ディアベルV』、ローグライクの『風雲ラビリンス三式』を参考に作りました。我々天使たちが女神様に内緒で作った地下大迷宮は自慢の出来ですよ。90階ボスのキングスケルトンなどは私が製作を担当しました。未だに挑戦する勇者がいないのは残念です」
「私のような一信徒には知るよしもありませんが、天使様も世界を作るために大変な努力をされているのですね」
「そう言って頂けると嬉しいです。何せ数十億人の魂を数人の天使で扱うので、脳死状態で作業して善人の身体に悪人の魂を入れてしまうこともあれば、逆に暴君や悪役令嬢に善人の魂を入れてしまうことも。あなたもおそらくそのチグハグに巻き込まれて亡くなったようです。ここで会ったのも女神様のお導きでしょう。したがって、私の権限で半蘇生させます。よろしいですか?」
「おおっ! そんなことが可能なのですか!? その、半蘇生とはどういうことなのですか?」
「あなたを死霊使いネクロマンサーとして半蘇生させます。半分幽霊ですが血と骨と墓土で固めた形代で自由に動けます」
「ああ、半蘇生とはそういうことですか。わかりました! ぜひお願いします!」

 天使様によって復活できるのであれば人間やめても良い。この機会に王女は辞めて伝説にある魔王軍を探して就職しようかしら。私は二つ返事で承諾した。

「天使である私と出会ったことで信仰ポイントが上がり聖女スキルもパワーアップしているはずなのでご活躍に期待しています」
「はい。しっかりやります。ここで啓示を受けたことは忘れず地上の者たちへ伝えます」
「ああ、それは無理かもしれません。ここは夢のようなものなのでおぼろげな記憶しか残りません。死霊になること、聖女スキルがパワーアップしたことだけ覚えていれば良いでしょう。ではご武運を。私もこれから別件の仕事がありますのでこれにて失礼します」
「天使様! もう少しお話を──」
「冥界奇跡『死者半蘇生』」

 天使様の奇跡により私は死霊として復活することになった。

「ダリヤ様……。ううっ、自分は、自分は、あなたのことを……。ぐすっ、うう……。守れず申し訳ありません……」

 気がつくと宿のベッドにいて、親衛隊のシャジャルが号泣していた。大人の男性がこんなに泣いてるのを見るのは初めてだ。

 あれ? 目が見えないはずなのに真っ暗な空間でシャジャルが白い影として見える。これは死霊として復活したから生者の魂の色を見ることができるようになったのだろうか。
 あ、それより何でシャジャルが号泣しているのだろう。

「ち、ちょっと、なんで泣いてるの?」
「それは王女殿下が亡くなられたからです……」
「大丈夫大丈夫。ほらピンピンしてるわ。死後硬直もないし」
「え? 王女殿下!? 生き返られたのですか!? 奇跡だ! ああっ、天使よ!」
「生者として生き返ったわけじゃないけどね。ほら、胸に触れてみて」

 私は彼の手を掴み胸を触らせた。

「な、何を。淑女がそのようなことを……。これは……? 心臓の鼓動がしない……?」
「そうそう、今の私は半分死者。冒険者が言うゾンビかグールってとこかしら」
「たとえ王女殿下が悪霊や魔物になろうとも、自分は永久にあなたの奴隷犬士となりましょう」

 バタンッ!
 その時、部屋の扉が勢いよく開いた。

「シャジャル様! アサシンを捕らえました! うわっ!? 王女殿下が生き返ってる!?」

 彼の部下である兵士たちが私を暗殺した容疑者を連れてきたようだ。
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