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第19話【劇終】物語の記録
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「ダレン、その人は? いや、人ではないか」
この日の朝、魔王城に遠い国から客が来たということなのでダレンと共に出迎えた。そこには真っ黒い影が服を着た姿の人がいた。
「自分は冥界の使者。こちらにローズ様と仰る天使様がいるはずです。偉大なる冥王様から手紙を預かっております」
「まあ、冥王様の使いの方ですか。どうぞ城でおくつろぎください。でも、ローズ様という天使様はいらっしゃいましたっけ?」
どうやらダレンの知り合いらしい。ローズって天使は知り合いにいないなあ。
「アズラエルとルシエルしか知らないけど」
「そうです! ローズ様とはアズラエル様のことです!」
「へぇ、アズラエルってローズというんだ」
「可愛らしいお名前ですね」
「一目お会いしてから冥界へ戻るつもりです。今、ローズ様はどちらに?」
冥王の使いという人は興奮気味にアズラエルの所在を聞いてきた。
「アズラエルなら私の部屋で何か書類的なもの書いてたけど、うちのアズラエルは冥王さんとどういった関係なの?」
「冥王様の娘がローズ様なのです。あなた様はローズ様のご友人の方ですか?」
「ええ、まあ」
友人というか何というか。アズラエルとは長い付き合いになる。
「もう、魔女様ったらご謙遜なさって。友達以上恋人未満という関係ではないですか」
「まさか、ローズ様にそのような親しい方がいらしゃったとは」
「違うからね?」
アズラエルとの関係を説明しつつ私の部屋にダレンと使者の人を案内した。
「アズラエルいるー?」
ガチャンガチャンとアズラエルはキーボードのようなものを打っていた。
「何ですかカグヤ、私は報告書をタイプするのに忙しいのです。ほら、また打ち間違えた。この仕事は後でやることにします」
「大事なお仕事中に申し訳ありません天使様」
「いえ、シスター気になさらず。今終わったところです。格式を重んじるためにタイプライターを使っていましたが手で書いた方が早いので後で書き直せば良いのです」
「いつもながらてきとうだなあ。それよりアズラエルにお客さん」
「私に客が?」
「ああ、お懐かしゅうございま……」
チャキッ。アズラエルが剣を抜き挨拶途中に使者の人へつきつけた。
「誰ですかあなたは。帰ってください。……余計なこと言ったらこの聖剣で首をはねますよ。良いですか」
「は、はい。別に私は何も申していません。それより冥王様から姫様宛の書簡を預かってきました。これです」
「そうですか。それはご苦労様です。シスター、このロウソクに火をつけて下さい。ここですよここ」
「は、はい。死霊教会奇跡『線香の火』」
ボッ。ダレンの指先から火が起きると書簡に燃え移った。
「ああっ! ローズ様何をなさるのですか! それは大事な……!」
「ただのロウソクですよ。読む価値もありません」
「冥王様はご病気なのですよ。城を出奔なされたローズ様の安否をそれはそれは心配なさっていらっしゃいます。その書簡には冥界へ一度で良いから戻ってほしいとローズ様を説得することについて書かれていました」
「父が……、病気……? いや、そんなまさか。冥王たる父が病魔に冒されたとでも言うのですか。バカバカしい」
「そのまさかです。家出なされた姫を心配し陛下はお倒れになられました」
「天使様が冥王様の血族であることは薄々気がついておりました。死霊教会は冥王様に帰依する教えです。どうか私のためにも今一度故郷へお帰り下さい」
「アズラエル、お父さんが病気ならお見舞い行った方が良いよ」
「しかしですね、私はカグヤの水先案内人として万難を排してこの世界を魔法少女の力で救う天命があります」
「アズラエルは魔法少女と言うけど誰がどう見ても私は魔女だよ。それにこの世界割と平和だったから心配ないよ。別に魔女でも楽しいし、ダレンみたいな友達もできたから」
「どうでしょうか天使様。魔女様のことは私が責任持って庇護致します。ですから、天界へ休暇申請を申し出ては」
「……二人にそこまで言われては仕方ありません。ここまでの記録を女神様に報告することを兼ねて一度天界へ帰ることにします。必ず戻りますので」
「天使様のこといつまでもお待ちしております」
「アズラエル、私のことは心配しないで。今まで本当にありがとうね」
───────
大切な友人二人と別れ私は天界へ戻った。
「アズラエルちゃんおかえりー。久しぶりだね。魔法少女の女の子を導いてたんだっけ? あれ? 魔王を倒しに勇者を導いていたんだっけ?」
「ガブリエル、あなたは変わりませんね。魔法少女を導いていましたよ。あなたに一つ伝えることがありました。預言者に聖書を啓示する場合はもう少し厳かにするべきだと思います」
「えーっ、私はいつも厳かだよ。『我は啓示の美少女大天使ガブリエルなるぞ。我が声は女神の綴りし書物を読む声なり。聞け預言者よ』ってね」
「美少女は余計です。それより女神様は今どこにいますか?」
「ひどーい。アズラエルちゃんだって美少女だよ。だから私のことも美少女って認めてくれたっていいじゃん」
「わかりましたから女神様はどこですか」
「あー、女神様は今いないよ。出張中だって」
「そうですか。私、実家へ帰ろうと思っているのです。帰郷許可を頂こうかと」
「実家って冥界の? そんな、私のこと飽きたから捨てるのね。酷いよ、アズラエルちゃん」
「飽きていませんよ。父が病気ということを便りで聞いてですね」
「ええっ、それならすぐ帰った方が良いよ。私から女神様に説明しとくからさ。ほら、早く行った行った」
「それは助かります。一つ頼みが、これは今までの私の日誌です。『魔法少女カグヤ』の記録として女神様に渡してくれますか。機密情報ですから他の人には見せないようにしてください」
「オッケー、任せて。お父さん無事だと良いね」
「はい、心配ありがとうございます」
こうして天使の友人にこれまでの記録を託して私は冥界へ戻ることにした。
この日の朝、魔王城に遠い国から客が来たということなのでダレンと共に出迎えた。そこには真っ黒い影が服を着た姿の人がいた。
「自分は冥界の使者。こちらにローズ様と仰る天使様がいるはずです。偉大なる冥王様から手紙を預かっております」
「まあ、冥王様の使いの方ですか。どうぞ城でおくつろぎください。でも、ローズ様という天使様はいらっしゃいましたっけ?」
どうやらダレンの知り合いらしい。ローズって天使は知り合いにいないなあ。
「アズラエルとルシエルしか知らないけど」
「そうです! ローズ様とはアズラエル様のことです!」
「へぇ、アズラエルってローズというんだ」
「可愛らしいお名前ですね」
「一目お会いしてから冥界へ戻るつもりです。今、ローズ様はどちらに?」
冥王の使いという人は興奮気味にアズラエルの所在を聞いてきた。
「アズラエルなら私の部屋で何か書類的なもの書いてたけど、うちのアズラエルは冥王さんとどういった関係なの?」
「冥王様の娘がローズ様なのです。あなた様はローズ様のご友人の方ですか?」
「ええ、まあ」
友人というか何というか。アズラエルとは長い付き合いになる。
「もう、魔女様ったらご謙遜なさって。友達以上恋人未満という関係ではないですか」
「まさか、ローズ様にそのような親しい方がいらしゃったとは」
「違うからね?」
アズラエルとの関係を説明しつつ私の部屋にダレンと使者の人を案内した。
「アズラエルいるー?」
ガチャンガチャンとアズラエルはキーボードのようなものを打っていた。
「何ですかカグヤ、私は報告書をタイプするのに忙しいのです。ほら、また打ち間違えた。この仕事は後でやることにします」
「大事なお仕事中に申し訳ありません天使様」
「いえ、シスター気になさらず。今終わったところです。格式を重んじるためにタイプライターを使っていましたが手で書いた方が早いので後で書き直せば良いのです」
「いつもながらてきとうだなあ。それよりアズラエルにお客さん」
「私に客が?」
「ああ、お懐かしゅうございま……」
チャキッ。アズラエルが剣を抜き挨拶途中に使者の人へつきつけた。
「誰ですかあなたは。帰ってください。……余計なこと言ったらこの聖剣で首をはねますよ。良いですか」
「は、はい。別に私は何も申していません。それより冥王様から姫様宛の書簡を預かってきました。これです」
「そうですか。それはご苦労様です。シスター、このロウソクに火をつけて下さい。ここですよここ」
「は、はい。死霊教会奇跡『線香の火』」
ボッ。ダレンの指先から火が起きると書簡に燃え移った。
「ああっ! ローズ様何をなさるのですか! それは大事な……!」
「ただのロウソクですよ。読む価値もありません」
「冥王様はご病気なのですよ。城を出奔なされたローズ様の安否をそれはそれは心配なさっていらっしゃいます。その書簡には冥界へ一度で良いから戻ってほしいとローズ様を説得することについて書かれていました」
「父が……、病気……? いや、そんなまさか。冥王たる父が病魔に冒されたとでも言うのですか。バカバカしい」
「そのまさかです。家出なされた姫を心配し陛下はお倒れになられました」
「天使様が冥王様の血族であることは薄々気がついておりました。死霊教会は冥王様に帰依する教えです。どうか私のためにも今一度故郷へお帰り下さい」
「アズラエル、お父さんが病気ならお見舞い行った方が良いよ」
「しかしですね、私はカグヤの水先案内人として万難を排してこの世界を魔法少女の力で救う天命があります」
「アズラエルは魔法少女と言うけど誰がどう見ても私は魔女だよ。それにこの世界割と平和だったから心配ないよ。別に魔女でも楽しいし、ダレンみたいな友達もできたから」
「どうでしょうか天使様。魔女様のことは私が責任持って庇護致します。ですから、天界へ休暇申請を申し出ては」
「……二人にそこまで言われては仕方ありません。ここまでの記録を女神様に報告することを兼ねて一度天界へ帰ることにします。必ず戻りますので」
「天使様のこといつまでもお待ちしております」
「アズラエル、私のことは心配しないで。今まで本当にありがとうね」
───────
大切な友人二人と別れ私は天界へ戻った。
「アズラエルちゃんおかえりー。久しぶりだね。魔法少女の女の子を導いてたんだっけ? あれ? 魔王を倒しに勇者を導いていたんだっけ?」
「ガブリエル、あなたは変わりませんね。魔法少女を導いていましたよ。あなたに一つ伝えることがありました。預言者に聖書を啓示する場合はもう少し厳かにするべきだと思います」
「えーっ、私はいつも厳かだよ。『我は啓示の美少女大天使ガブリエルなるぞ。我が声は女神の綴りし書物を読む声なり。聞け預言者よ』ってね」
「美少女は余計です。それより女神様は今どこにいますか?」
「ひどーい。アズラエルちゃんだって美少女だよ。だから私のことも美少女って認めてくれたっていいじゃん」
「わかりましたから女神様はどこですか」
「あー、女神様は今いないよ。出張中だって」
「そうですか。私、実家へ帰ろうと思っているのです。帰郷許可を頂こうかと」
「実家って冥界の? そんな、私のこと飽きたから捨てるのね。酷いよ、アズラエルちゃん」
「飽きていませんよ。父が病気ということを便りで聞いてですね」
「ええっ、それならすぐ帰った方が良いよ。私から女神様に説明しとくからさ。ほら、早く行った行った」
「それは助かります。一つ頼みが、これは今までの私の日誌です。『魔法少女カグヤ』の記録として女神様に渡してくれますか。機密情報ですから他の人には見せないようにしてください」
「オッケー、任せて。お父さん無事だと良いね」
「はい、心配ありがとうございます」
こうして天使の友人にこれまでの記録を託して私は冥界へ戻ることにした。
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