【完結】爆薬聖女トリニトロトルエンの福音書

中島マリア

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第18話【太陽】本日の日の出は極夜のためなし

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 サンライトマスクを拉致して魔王城まで連れてきた。
「まあ、日光の聖戦士サンライトマスクを捕えたのですね。さすがは魔女様と天使様達です」
 ダレンが城で出迎えてくれた。
「ただいまダレン。けっこう簡単に見つけられたよ」
「それでアズラエル様ー、このヒーローを魔王軍の協力者になるよう洗脳するんですかー?」
「ルシエルよ、我々は別に悪の組織の戦闘員ではありませんよ」
「ええー、あたしってやっぱり拉致されてきたの?」
「あら? サンライトマスクさんって女の子なんですね。女ヒーローなんてとってもかっこよくて素敵です。私は魔王城の礼拝堂に務めております死霊教会の修道女で、シスターダレンと申します。ああ、これも天使様のお導き……」
 サンライトマスクをダレンは抱きしめた。
「は、はじめまして。一応、あたしは女だよ。ん? シスターさんって目が見えないの?」
「目が見えずともサンライトマスクさんの輝く姿がわかります。そしてこうやって抱き合うことで更に……。うふふ、ヒーローさんってけっこう華奢で女の子の体してるんですね。とても良いです」
「く、くすぐったいよー。それより病気かなにかで目が見えないの?」
「シスターは昔の戦争で戦傷を負ったそうです」
「アズラエル様ー。それならダレンさんのこと治したら良いではないですかー。まあ目が見えない薄幸の美少女も悪くないですが」
「できるならとっくの昔にしています。これは女神様にしか治せない傷です」
「女神……様か……。うーん……。治せるかな……」 
 サンライトマスクは何か考えているようすだった。
「私の目は誰も治せないですよ。これは死霊と化した私への天からの罰なのかもしれませんね」
「そ、そんなことしないよ! 女神様は! だよね、アズラエルさん?」
「ええ、女神様は慈悲深い方ですから」
「それよりせっかくサンライトマスクを連れて来たんだからお城で歓迎会しようよ」
「そうですね魔女様。ゆっくりしていってくださいねサンライトマスクさん」
「は、はあ。じゃあお言葉に甘えて」

 こうしてサンライトマスクなるヒーローをもてなした。ピザパーティという名の女子会でこの世界の出来事を話したり、ダレンが教えてくれたボードゲームで遊んだり私たちは楽しい時間を満喫した。ふと、サンライトマスクを見るとうたた寝している。疲れているみたいだからそっとしておこうと毛布をかけてあげた。

「今日はお開きですね。皆様も今日はお休みください」
 ダレンに促されて私達も部屋に戻って寝た。

 夜中、目が覚めた。ヒーローさんはまだあの部屋で寝てるかなっと様子を見てみた。
「うーん。むにゃむにゃ。はっ! いっけない寝てた! い、今って何時!? 鶏は鳴いてた!?」
「あ、起きた? 大丈夫、鶏なんて全然鳴いてなかったよ」
「あー良かったー、寝過ごしたと思って一瞬ドキッとしたよー」
 ホッとした表情を見せるヒーローさん。城のみんなもどういうわけか起きてきて何やら話してる。
「それにしても今夜はなんだか夜が長い気がしません? 死霊としてはお肌が焼けないから歓迎すべき現象ですけど」
「シスターダレン、世界の時の流れは一定ではありません。楽しい時間ほど短く、苦痛な時間ほど長いものです」
「なるほど、大天使様から直々に世界の理を解説いただき身に余る幸せです」
「でもでもアズラエル様、それじゃあ変ですよ。だって、今は苦痛な時間ではありませんよ? それなのになぜ長くなっているのでしょう?」
「ルシエル様のご意見も確かに……」
 部下の天使に矛盾を指摘された大天使アズラエルはそれを無視して答えることなく手に持つコーヒーを飲んだ。確かに夜が全然明けない気がする。
「おや、カグヤも起きたのですか」
「やあ、みんなも目が覚めたの? まあ日時計だと太陽の光が全く出てないから夜明けまでまだまだあるはずだよ」
 私は現代人らしく科学的に解説した。
「ご、ごめん! やっぱり帰るね! みんなまた!」
「サンライトマスクさんはいったいどうしたの? もう少しゆっくりしていって。まだ日が昇るには早い時間よ」
 シスターが残念そうに引き止める。太陽を避けて夜に生きる者同士だから気があったようだ。
「もう帰るんだって。門限が厳しいって」
 そうルシエルがつまらなそうに言った。
「あらあら、それは残念だけどおうちの事情ならしかたないわね。それなら、お土産用意するから少し待ってて。ルシエル様、サンライトマスクさんを少し拘束しておいてくださいますか」
「ラジャー。ふひひひ、サンライトマスクよ、そなたはこの魔王城から生かして帰さんぞ、魔王様に代わってこの天使ルシエル様が引導を渡してくれるわ!」
「お、お構いなくー! ル、ルシエルさん離して、というか君ってやっぱり堕天使じゃないの!?」
 正義のヒーローを堕天使が羽交い締めにした。
「サンライトマスクさんってこの近くに住んでるんだっけ? 今度遊びに行って良い?」
 私も友達になってくれた正義の味方サンライトマスクさんを気に入った。
「えっ、遊びに? えーっとそれはちょっと……。あっ! ご、誤解して欲しくないんだけど遊ぶのが嫌ってわけじゃなくて、うちで遊ぶとうるさいって家族に怒られるかなあーって、あはは」
「うんうん、気にしないで。それならまたこっちで遊べば良いし。それなら良いよね」
「それはもちろん良いよ」
「よろしけば家まで送っていきましょうか?」
「そうだね、アズラエルなら空飛べるし速いから。私もついていこうかな」
「だ、大丈夫! 自慢じゃないけど私って結構早く飛べるからさ。具体的には音より速く飛べるからみんながピンチの時には音より速く駆けつけるから」
「さすがは日光の聖戦士ですね。私が知っている太陽の女神様も我々天使よりかなり速かったです。まさに音より速く。箒で空を飛ぶ魔法少女であるカグヤも速いですが日光の女神様はその何倍も速かったです」
「そ、そうなんだー、あはは……」
「サンライトマスクさん、これ私が焼いたビスケットです。帰って食べてくださいね」
「ど、どうもありがとうシスターさん。そうだ。今度シスターさんの目のことを私の知り合いの、えーと、聖女に相談してみるよ」
「別に大丈夫ですよ。もう慣れてますから。それより、気をつけて帰ってくださいね」
「うん。ありがとう。それじゃあみんなもまたね!」
 ヒーローは夜空に去っていった。
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