【完結】爆薬聖女トリニトロトルエンの福音書

中島マリア

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第13話【童話】シンデレラって原作だと魔法少女だったらしい

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 この日、魔王城から西に行ったところへある砂漠の街へ向かっていた。せっかく異世界に来たのだから色々な街へ巡ってみようということになったからだ。途中の砂漠は砂嵐と灼熱の太陽が死を呼ぶので箒はやめ、現地の地下鉄のようなものを利用することになった。

「行く先々で困った人がいれば魔法少女の力で解決してみてください。この異世界におけるクエスト、いえ、魔法少女に課せられたミッションです」
 天使からお使いクエストを出された。
「困った人かー。シンデレラみたいにお城の舞踏会に行きたい女の子にかぼちゃの馬車を用意すれば良いんでしょ」
「お城の舞踏会へ行くためにかぼちゃの馬車を奇跡で作るだなんて夢がありますね魔女様」
「灰被り姫のかぼちゃの馬車って何ですか? ファンタジーすぎてわたしには理解できません」
 ダレンはやはり話がわかる女子だ。目を隠しているからよくわからないがきっと目を輝かせて異世界のおとぎ話に興味をしめしてくれた。それに引き換えこの天使は。
「ええー、アズラエルが一番ファンタジーすぎる存在なんだけど。というかシンデレラの話知ってるならかぼちゃの馬車も知ってるでしょ?」
「私の知っている灰被り姫伝説にそのようなものは出てきませんよ。走って家と城を往復していました」
「天界に伝わってるおとぎ話は夢がないなあ。なら誰が魔法でドレス作ったの?」
「灰被り姫自身です。彼女は魔法少女だったのでセルフで自らを助けました」
「へー、シンデレラが魔法少女ね」
「天使様、灰被りの魔女様について詳しく教えて下さい。聖典に追記しますので」
 てきとうな天使の語るめちゃくちゃなシンデレラストーリーを聞き流しているうちに地下鉄があるという建物についた。

「ようこそ旅の方。これがジャイアントワーム種のサンドピイタンです」
「ピピッ?」
紹介されて不思議そうに鳴いた生き物。
「こ、これが地下鉄? 大きい芋虫……」
 それは巨大な芋虫だった。一見するとウサギのゆるキャラみたいだが体胴体は異常に長く手足がない。電車ぐらいの大きさがあった。
「死霊教会の皆様。本日はデスドライ砂海横断砂道をご利用いただきありがとうございます。乗り心地はまるで天国へ登るがごとく最悪です。ご覚悟を」
 良いのか悪いのかよくわからないが芋虫の背中に設けられた荷台に縄梯子で乗り込む。プラットフォームがなくて乗るにも大変な作りだ。
「もー、バリア盛りだくさんすぎるわ」
 目の不自由なダレンにはこの公共交通機関は優しくない。バリアフリー設計にすべきだ。
「すみません。これがこの世界の公共交通機関ならもっと身体が不自由な人のことも考えて便利にした方が良いと思うんですが」
 私は駅員さんに意見を寄せた。
「さすがはカグヤ、慈悲深い考えです。今日のクエストはもうクリアしたも同然です。この啓蒙が低い暗黒時代に弱者のことを考えられる人は多くありません」
 天使も賛成してくれる。
「もう魔女様ったら、私のことそんなに心配してくださって。私を舞踏会へ連れて行ってくださる王女様は魔女様だったのですね」
 ダレンは顔に手を当てうっとりとしている。
「なんか微妙にシンデレラの話が違ってない? アズラエルの話はあまり信じない方が良いよ」 
「カグヤは私をなんだと思っているんですか」
「色々と不便なのは承知しているんだが予算がなくてなあ…」
 駅員らしき悪魔っぽい人が申し訳無さそうに言う。
「昔は途中にオアシスがあって賑わっていたんだけどねぇ。水が枯れてしまってから砂海越が大変になってしまってピイタンの水とエサ代で赤字になったんだよ。おかげでボロボロの荷台につかまるはめに」
 疲れた顔のお客さんが説明してくれた。
 荷台を見ると大部分はピイタン用の燃料というか水とエサみたいだ。乗客はそれらに挟まれて木の床に座ってる。
「出発進行。ほら、行くぞ」
「ピピー」
 運転手さんがピシピシと芋虫をムチで叩くと一声鳴いてウネウネと動き前へ進み始めた。揺れが凄い……! 数分なら遊園地のようで楽しいかも知れないけどこれが何時間も続くのは許してほしい。
「サンドピイタンって嫌い。神を信じず風の前に舞い散る埃みたいだわ」
「砂埃とゆれがひどい乗り物ですね」
 ダレンとアズラエルも不満げだ。
「君たちしっかり掴まりたまえ。振り落とされるぞ」
 他のお客さんに乗り方のこつを教えてもらう。
「トンネルに入りますので顔を覆ってくださーい」
「ぶわっ! ゴホゴホッ!」
「ゲホゲホッ!」
「ハックション!」
 地下に入ると乗客達は砂に苦しむ。
「もー、砂だらけよ。幌も無いのこれ」
 目だけでなく口も布で覆ったダレンがくぐもった声で文句を言う。骨組みだけの荷台には天井も壁もなく砂が容赦なく入り込む。
「カグヤ、聞いてください。この魔法の照準眼鏡を覗いて願い、この地方の民族衣装に着替えると良いです。多少は砂を防げるでしょう」
 アズラエルから新しい魔法少女グッズを貰った。
「へー? 万華鏡みたいなもの?」
「ミラクルテレスコープとたった今名付けました」
 私は天使の助言により魔法の鏡らしきものを覗いて願ってみた。
「か、鏡よ鏡、鏡さ……。ぺっ! ぺっ! 砂食べちゃった……」
「魔女様奥様、爆死の魔女で一番綺麗なのはあなた。しかしながら、死霊の修道女で最も綺麗なのはシスターダレン。それをふまえても、死の天使で……」
 てきとうに問いかけると魔法の鏡は勝手に喋りだした。
「いや、別に聞いてないから。お願い、砂を防げそうな民族衣装に着替えさせて」
「ただいま検索中。なるべく可愛い服をチョイスしますので少々お待ちを魔女様カグヤ様」
「なるはやで!」
 光に包まれると30秒ほどかかって変身が終わった。顔は砂を防げるベールで覆われているけど……。
「露出が多い気がする。お腹を出す必要ある?」
「魔女様のお腹!? ちょっと触らせてください! ちょっとだけですから!」
「現地の女性であるシスターにも好評のコスチュームみたいですね」
「ダレンって聖職者だけどファッションにも敏感なんだね。あと、お腹触るのはくすぐったいからそこまでね」
「もう少しだけ……! 昔は色々と服持ってましたよ。出家してからはこの修道服が勝負服ですけどね」
「へー、ダレンの昔のことも今度教えてよ」
「私の半生なんて聞いてもつまらないですけど魔女様が仰るなら今度部屋で二人っきりの時にお教えしましょう」
「私も聞きたいです」
「もちろん天使様も歓迎ですよ」
 ダレンは謎の多い私の友達だ。異世界の地下鉄に揺られながらそう思った。
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