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第12話【国際】ヤード・ポンド法は天使の祝福を受けた単位
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「魔女様、天使様たくさん食べてくださいね。足りなければさらに持ってきます。食べることは毎日を幸せに生きて死ぬ手段です」
死霊の修道女であるダレンが私たちに食事を勧める。
「ま、毎日すごいご馳走をありがとう。これは結構高いお肉だよね?」
主に肉の丸焼きをナイフで切って手掴みで食べるワイルドな食事が続く。嫌いだった病院食も今では懐かしい。
「羊の木の丸焼きはこちらの世界では客人への最高級のもてなしだそうですよ。この香辛料も西の国では同じ重さの黄金と同価値とか」
この世界の羊は哺乳類ではなく木に生えるそうだ。羊毛や肉を利用される。
「この国では珍しいものではありませんから、天界の幸には敵いませんが天使様もどうぞ遠慮なく」
「天使は食べなくとも大丈夫です。贅沢な食事は不要です」
「ご安心を、羊の木は教会領地内にたくさん生えますし毛を狩り終えた老木ですので。肉がお口に合わないようでしたら果物もありますよ。よろしければ私めが食べさせてあげます。はい、あーん」
食後に天使と私は異世界の食事について話した。
「毎日ご馳走なのは良いけど故郷の味が懐かしくなっちゃった。アズラエルもそう思わない?」
「思います。カグヤ、ピザを作りましょう。もうこちらに来てしばらく食べてません」
「ピザ? 天使の人ってピザ食べるの?」
「もちろんです。ピザは女神様より与えられし祝福された糧食。コーラは血、ピザは肉となります。しかしながらこの暗黒時代の世界にはピザ屋がありません」
「じゃあ異世界でピザ屋さんでも開いて一攫千金目指そうか、なーんて──」
「それです。カグヤの箒ならどこにでも高速で配達可能です。異世界とは夢叶う新天地ですから」
冗談で言ったのに意外と食いついてきた。
「つまり魔法少女の宅配ピザかぁ……。どこからか訴えられたりしない?」
「大丈夫です。ここは暗黒時代の中世初期ファンタジー世界ですから商標も法も人権もまともにありません」
天使は不安げな私を安心させるかのように冷静に言い放った。
「それは無法地帯だから大丈夫じゃないでしょ」
だが私のツッコミを無視して天使は福音を告げる。
「ともかく、恵まれない地上の信徒に安価なピザの施しを授けるのは良いことだと思います」
「それは……、うん、私も進めたい。ピザは私の国では高級品だったからね。食べる機会は誕生日とかクリスマスとかぐらいだったし」
「ピザが高級品とは全く理解に苦しみます。14インチサイズを5ダラーで提供できるようにしましょう」
「またわけのわからない単位を。14インチは何センチで5ダラーって日本円でいくら?」
前から気になっていたが彼女の言葉にはしばしば不思議な単位が混じる。異世界語は自動翻訳されるはずなのに。
「センチですと……、およそ36センチです。カグヤのいた世界では1ダラーショップがありましたよね。その商品5個分です」
「1ダラーショップなんて知らないけど500円ぐらい? それなら安いね。36センチってLサイズか、大きい!」
「スペシャルサイズなら16インチあります」
私たちは魔王城の調理室を借りてピザを作ることにした。
天使が天界に伝わるとされるピザのレシピを解説する。
「まず8オンスのチーズと肉を用意します」
「待って、まず8オンスっていくつなの?」
「1/2ポンドです」
わざと言ってるのかなとちょっと彼女を疑う。
「前から気になってたけど、どうしてアズラエルの使う単位は自動翻訳の対象ではないの? すごくわかりにくいんだけど」
「私はわかりやすいです。天界は空にあり、天使は空を飛びます。私が使う単位は空を飛ぶ者達の正当な単位ですから翻訳する必用はありません。カグヤも箒で飛ぶのですから努力して覚え理解してください。私は覚えました。カグヤの世界にある不死者の山の高さは12389フィートです」
私からすれば不本意だけどメートルやグラムではなくフィートやポンドというのが天国の神様に選ばれた正当な単位らしい……。
「せめて重さの単位はグラムで統一しよ? ね?」
「フィートに併せてポンドとオンスとグレインで統一しましょう」
「更に増えてる! なんでアズラエルは単位を増やすのが好きなの?」
「違います。私の趣味ではなく大昔から天界で決まってることです」
「ここは天界ではなくて異世界なんだから決まりなんてないでしょ」
「それは確かにそうですが、天の教えに地上の信徒は従うべきだと私は思います」
「それなら信心深いシスターのダレンにどっちの単位が使いやすいか判断してもらおうよ」
「望むところです」
「アズラエルちょっとムキになってない?」
「ムキになっているのはカグヤの方だと思いますが」
「魔女様、天使様、どうされましたか? お二人からバトル中の気を感じました」
「シスター、ヤード・ポンド法とメートル法、どちらが使いやすいですか? 天界としましてはヤード・ポンド法は温かみがあり人の感覚に適しています。一方でメートル法は無機質で冷たく悪魔のメートル法とも言われています」
「え? ええ?」
困惑している様子のダレン。
「ちょっと、めちゃくちゃな紹介しないで。私の世界の人がまたこっちに転生したら使いやすい単位じゃないと困るでしょ」
「お二人ともどうか落ち着いてください。ケンカはよくありませんよ? お二人がケンカされると私悲しいです」
「「……」」
「カグヤ、申し訳ありません。私は少しムキになっていました」
「いや、私の方こそムキになってごめん」
小さなことで友達とケンカしそうになったけど別の友達に仲裁してもらった。反省。
死霊の修道女であるダレンが私たちに食事を勧める。
「ま、毎日すごいご馳走をありがとう。これは結構高いお肉だよね?」
主に肉の丸焼きをナイフで切って手掴みで食べるワイルドな食事が続く。嫌いだった病院食も今では懐かしい。
「羊の木の丸焼きはこちらの世界では客人への最高級のもてなしだそうですよ。この香辛料も西の国では同じ重さの黄金と同価値とか」
この世界の羊は哺乳類ではなく木に生えるそうだ。羊毛や肉を利用される。
「この国では珍しいものではありませんから、天界の幸には敵いませんが天使様もどうぞ遠慮なく」
「天使は食べなくとも大丈夫です。贅沢な食事は不要です」
「ご安心を、羊の木は教会領地内にたくさん生えますし毛を狩り終えた老木ですので。肉がお口に合わないようでしたら果物もありますよ。よろしければ私めが食べさせてあげます。はい、あーん」
食後に天使と私は異世界の食事について話した。
「毎日ご馳走なのは良いけど故郷の味が懐かしくなっちゃった。アズラエルもそう思わない?」
「思います。カグヤ、ピザを作りましょう。もうこちらに来てしばらく食べてません」
「ピザ? 天使の人ってピザ食べるの?」
「もちろんです。ピザは女神様より与えられし祝福された糧食。コーラは血、ピザは肉となります。しかしながらこの暗黒時代の世界にはピザ屋がありません」
「じゃあ異世界でピザ屋さんでも開いて一攫千金目指そうか、なーんて──」
「それです。カグヤの箒ならどこにでも高速で配達可能です。異世界とは夢叶う新天地ですから」
冗談で言ったのに意外と食いついてきた。
「つまり魔法少女の宅配ピザかぁ……。どこからか訴えられたりしない?」
「大丈夫です。ここは暗黒時代の中世初期ファンタジー世界ですから商標も法も人権もまともにありません」
天使は不安げな私を安心させるかのように冷静に言い放った。
「それは無法地帯だから大丈夫じゃないでしょ」
だが私のツッコミを無視して天使は福音を告げる。
「ともかく、恵まれない地上の信徒に安価なピザの施しを授けるのは良いことだと思います」
「それは……、うん、私も進めたい。ピザは私の国では高級品だったからね。食べる機会は誕生日とかクリスマスとかぐらいだったし」
「ピザが高級品とは全く理解に苦しみます。14インチサイズを5ダラーで提供できるようにしましょう」
「またわけのわからない単位を。14インチは何センチで5ダラーって日本円でいくら?」
前から気になっていたが彼女の言葉にはしばしば不思議な単位が混じる。異世界語は自動翻訳されるはずなのに。
「センチですと……、およそ36センチです。カグヤのいた世界では1ダラーショップがありましたよね。その商品5個分です」
「1ダラーショップなんて知らないけど500円ぐらい? それなら安いね。36センチってLサイズか、大きい!」
「スペシャルサイズなら16インチあります」
私たちは魔王城の調理室を借りてピザを作ることにした。
天使が天界に伝わるとされるピザのレシピを解説する。
「まず8オンスのチーズと肉を用意します」
「待って、まず8オンスっていくつなの?」
「1/2ポンドです」
わざと言ってるのかなとちょっと彼女を疑う。
「前から気になってたけど、どうしてアズラエルの使う単位は自動翻訳の対象ではないの? すごくわかりにくいんだけど」
「私はわかりやすいです。天界は空にあり、天使は空を飛びます。私が使う単位は空を飛ぶ者達の正当な単位ですから翻訳する必用はありません。カグヤも箒で飛ぶのですから努力して覚え理解してください。私は覚えました。カグヤの世界にある不死者の山の高さは12389フィートです」
私からすれば不本意だけどメートルやグラムではなくフィートやポンドというのが天国の神様に選ばれた正当な単位らしい……。
「せめて重さの単位はグラムで統一しよ? ね?」
「フィートに併せてポンドとオンスとグレインで統一しましょう」
「更に増えてる! なんでアズラエルは単位を増やすのが好きなの?」
「違います。私の趣味ではなく大昔から天界で決まってることです」
「ここは天界ではなくて異世界なんだから決まりなんてないでしょ」
「それは確かにそうですが、天の教えに地上の信徒は従うべきだと私は思います」
「それなら信心深いシスターのダレンにどっちの単位が使いやすいか判断してもらおうよ」
「望むところです」
「アズラエルちょっとムキになってない?」
「ムキになっているのはカグヤの方だと思いますが」
「魔女様、天使様、どうされましたか? お二人からバトル中の気を感じました」
「シスター、ヤード・ポンド法とメートル法、どちらが使いやすいですか? 天界としましてはヤード・ポンド法は温かみがあり人の感覚に適しています。一方でメートル法は無機質で冷たく悪魔のメートル法とも言われています」
「え? ええ?」
困惑している様子のダレン。
「ちょっと、めちゃくちゃな紹介しないで。私の世界の人がまたこっちに転生したら使いやすい単位じゃないと困るでしょ」
「お二人ともどうか落ち着いてください。ケンカはよくありませんよ? お二人がケンカされると私悲しいです」
「「……」」
「カグヤ、申し訳ありません。私は少しムキになっていました」
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